<異例の閉校延期>(7)1年で使われた税金は 調べてみた学校経費、ネットで決算発表も

3月19日、閉校式当日の豊洋中学校(パノラマ撮影)
3月19日、閉校式当日の豊洋中学校(パノラマ撮影)
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2016年度、豊洋中学校経費の項目ごとの割合(3月10日時点)
2016年度、豊洋中学校経費の項目ごとの割合(3月10日時点)
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記者自身も通った豊洋中学校の保健室。オーシャンビューだ
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 学校の運営経費はどのくらいかかっているのだろうか。そう考えたのは、大分県の中学校が生徒らの要望を受け、閉校を1年延期したという記事を書いたのがきっかけだった。

 少子化による閉校の直前、3年生11人だけになった中学校。教師や地域の支えによって過ごした生徒たちの様子を取り上げたところ、Yahoo!ニュースのコメント欄やツイッター、フェイスブックなどで予想以上の反響があった。しかし、なかには閉校延期によって要した費用について「税金の無駄ではないか」「コスト面を考えるべきだ」という指摘もあった。そこで、今回のケースを調べてみた。(三重野諭)

■県採用の人件費は含めず■

 記事で取り上げたのは大分県の臼杵市立豊洋中学校。記者自身の母校でもある。少人数になった生徒たちにとっての教育効果や影響、周囲の大人たちとの関わりなど、1年延期の経緯については別の記事に書いた。

 最後の1年間は生徒11人、教職員10人。1年間でいくら”余分な”費用がかかったのかを調べるにあたって、いくつか前提条件を考えた。

 まず、大分県採用の教員の人件費は含めないことにした。中学校が閉校していたとしても、教員は当然、別の職場で継続雇用されているはずだからだ。

 閉校延期によって大分県内で教員に不足が出て、新たに採用をしたという可能性については、県教委は否定的だった。教育人事課によると、2016年5月時点で、県内の中学校教員は正規、非正規を合わせて2551人。近年は大量退職に伴う大量採用が続いており、人員配置にはある程度の弾力性があるという。担当者は「県全体の規模や、豊洋中の教員数を考えると(1年延期になったからといって)別に採用が必要になった可能性は考えにくい。ほとんど影響はなかったのではないか」と語った。

 生徒用の教材費についても、別の学校に通っていてもかかっただろうと考え除外した。コピー代などの消耗品費は、生徒や教員が別の学校、職場に行っていたとしても発生する可能性はあるが、厳密に区別できないので、運営経費に入れることにした。

 そのうえで、学校を維持するためにかかった”余分な”経費をお伝えすると…。

 745万9602円。

 数字は2016年度、3月10日までの実績。非常に粗い概算だが、1年間で考えると800万円程度になる。

 ちなみに、豊洋中を含む臼杵市の小規模校4校(全校児童・生徒が20~32人の小中学校)で、15年度の同じ項目の経費の平均は1校当たり670万円。市の15年度の教育費の支出は25億2285万円。うち中学校に関連する費用は、2億5210万円だった。

■前年度より増えた市の人件費■

 さて、この745万9602円の中身を見ると、円グラフで分かる通り「市採用の人件費(旅費含む)」と「電気代」で8割を占める。このうち人件費だけだと約500万円で、67.1%だった。

 臼杵市は、全ての小中学校に校務職員と図書館専門員を採用している。16年度の豊洋中にはこの2人に加え、市採用の養護教諭を配置。その分、市が負担する人件費が増えていた。

 国は「義務教育標準法」で学校の規模に応じた標準の教職員数を定めている。大分県によると、豊洋中は15年度までは養護教諭を配置する規模だったが、16年度は3年生だけになり基準に満たなくなったという。

 市は県に対して、引き続き養護教諭を置くよう求めたが、受け入れられなかったため、市が採用することにした。「生徒の健康が第一」「養護教諭がいて当然」という判断で、市教委内には特に異論はなかったという。

■コスト面は「考慮しなかった」■

 養護教諭の採用についてもだが、そもそも閉校延期を検討する段階で、コスト面での議論はなかったのだろうか。

 「ほとんど考えていなかった。閉校延期は生徒らの声を受けて決めたこと。しかし、決めた以上は生徒のために他の学校と同じ環境を整えるのが責任だと考えていた。(予算案を編成する)市長にもそうお願いした」

 斎藤克己教育長がこう語るように、重視されたのは費用面ではなく、主に教育効果の面だった。複数の市関係者に尋ねたが、閉校延期に伴うコストについて、市民からの批判は「聞いたことがない」という。

 1年間だけ働いてくれる養護教諭を探す、というのも難しい面があったようだ。採用された利光京子教諭(64)は既に定年退職していた。「ブランクもあるし役には立てないかもしれないけど、私で良かったら」と引き受けたそうだ。保健室に通っていたという豊洋中の女子生徒たちは「用事がなくても行った。癒やしの場だった」「先生の中で一番話しやすかった」と打ち明けてくれた。

 私自身も中学生のときに、同じ保健室でたわいのない話をしていた。休日に養護教諭の車に同級生と同乗してカラオケボックスに連れて行ってもらったこともある。田舎の中学生に社会勉強をさせてくれたのだ。「5教科と違い、生徒の評価にあまり関わらないという面で、気兼ねなく生徒の話し相手になれる」と、養護教諭の役割を指摘する教諭もいたが、私もその通りだと思った。

 閉校延期について「あまりコスト面を考えることはなかった」との声が多い臼杵市教委だったが、節約意識がないわけではない。豊洋中の経費で2番目に割合が高かった電気代(105万8216円)は、市内の他の小規模校でも経費の上位を占めていた。市教委は市の他部局に先駆け、新電力による入札を実施。学校や公民館、給食センターなどで、入札前と比べて1年当たり計約1300万円の電気代を削減した(残念ながら豊洋中は受電設備が老朽化しており、新電力には対応できなかったそうだが)。

■決算公開が目立った横浜市立の小中学校■

 取材の過程で、思いもよらない発見があった。学校運営費の全国平均のようなデータがないかネットで調べていると、公立の小中学校単位の決算報告のPDFファイルが見つかったのだ。目についたのは、横浜市立の小中学校。フォーマットは多少異なるが、いずれも消耗品費や図書費、通信費、電気、水道、ガス代などを項目ごとに載せていた。プール代とそれ以外の水道費を区別していたり、予算額と実際に使った額を併記したりしている学校もあった。

 文部科学省は2012年5月、各県教委などに対し「学校配当予算の決算等の内容を、ホームページや『学校便り』などでできるだけ情報公開するように」と通知。会計に不適切がないことをアピールするよう求めているが、強制ではないという。横浜市は04年の時点で学校情報の公開指標をつくり、経理についてネットでも紙でも広く保護者や地域に公開するよう、各学校に指導しているそうだ。

 一方、臼杵市教委の管内では、ネットや学校便りで決算を公開している学校はない。なぜだろう。

 市教委の担当者は、こう語った。

 「決算を明らかにすれば、学校・行政側の見られている意識や、住民の当事者意識が高まる効果はあるはず。ただ、学校ごとに1人当たりの教育費を比べられたりすると、規模の原理で『統廃合を次々進めろ』と言われかねない。小さな市町村ほど行政効率は悪いが、通学距離などの事情も考慮に入れる必要がある」

 「教育がお金だけで断じられてしまいかねない危険性がある。一長一短があり、透明化しづらい」

 ネットでの検索結果を見る限り、決算を公開している公立小中学校は決して多くなかった。皆さんの住んでいる自治体、近くの学校はどうだろうか。気になった方はぜひ調べていただきたい。

 現状では、臼杵市が特に遅れているともいえず、市教委の考えも理解できる。ただ、一人の納税者としては、いずれはネットで広く公開してほしい。市民が納めた税金だけで学校が運営されているのであれば、地域外に知らせる必要はないのかもしれないが、臼杵市を含むほとんどの自治体は地方交付税など国からの財源にも頼っている。一方で、公開を求める側には、経済原理だけで全てを判断しない理性的な考えが必要とも思う。

 少子化・過疎化が進みつつ税収が減る現状で、費用面に限っても、教育行政や学校運営は難しい決断を迫られることが多くなるはずだ。私は今まで、恥ずかしながら学校の決算に関心がない人間だった。今後は納税者としての冷静な目、子どもを見守る温かい目、その両方を意識して、学校を見つめなければならないと思う。その姿勢が学校や教育行政に影響すると信じている。


 「異例の閉校延期」シリーズの取材では、学校の存在意義や地域とのつながり、学校の経費をめぐる現実など、私自身が意識していなかった、さまざまなことを学ぶことができました。何より、生徒たちを支える大人の真剣な姿勢に「自分は何ができるのか。何が書けるのか」を考え直すきっかけを頂きました。卒業生の一人、出身者の一人として、臼杵市や豊洋中学校の関係者、校区のみなさんに感謝致します。

=2017/04/06 西日本新聞=

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