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性暴力の実相(1)後遺症 抑えられぬ不安、混乱

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 小学3年の長女の帰宅が遅れると、心配で、居ても立ってもいられなかった。

 洗濯などを放り出し、何度も学校に電話した。「娘が帰ってきていません」「何時に帰ったか確認してください」。家を飛び出し、校区内を車で走り回った。緊張して、過呼吸で病院に運ばれたことは一度や二度ではない。

 北部九州に住む女性(43)は約10年前を振り返る。娘が小学3年に上がるころになって、不安に歯止めが利かなくなり、そんな状態が1年は続いた。

 原因は、自身が子どものころに受けた「性暴力」。被害時とわが子の年齢が重なったとき、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で恐怖がよみがえり、娘に同じことが起こらないかと、強烈な不安にさいなまれた。

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 夕闇迫る塾からの帰り道。「遊園地はどこ」。そう尋ねてきた男に、小学3年だった女性は右手首をぐっとつかまれた。「声を出したら殺す」。近くで同級生たちが不思議そうにこちらを見ていた。「助けて」の声が出ない。ビニールハウスの脇に連れて行かれ、襲われた。「死にたくない」と思った。

 警察官数人が駆け付け、男を取り押さえた。その足音を聞いたとき、「助かる」と安堵(あんど)すると同時に「恥をさらしている」と感じたという。

 心と体に「異変」が起きたのは、それから。ひどい頭痛に悩まされ、薬を飲み続けた。「私に非があったのでは」と自分を責め、中学生になって体つきが女性らしくなると鏡を見られなくなった。眉毛を延々とむしることもあった。

 成人してからも、両手が腫れ上がるまで部屋の壁を殴ることがあった。酒や買い物に依存したこともある。結婚して夫のサポートを受けて症状が出る頻度は減ったが、時折、事件が脳裏をよぎり、パニックになった。

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 関西に住む30代のマリさん=仮名=は高校2年の春、見知らぬ男に襲われた。被害後も通った学校では、次第に勉強が手につかなくなった。約1年後、公園で大量服薬して自殺未遂をした。マリさんは「当時、事件の記憶が抜け落ちていた」という。思い出したのは、入院した精神科病院で治療を受けているときだった。

 つらい体験から自分を守るため、性被害者は一時的に記憶をなくしたり、外から自分の体を見ているような感覚になったりすることがある。こうした症状は「解離性障害」と言われ、専門家によると、重い場合は複数の人格を持つようになるとも言われる。

 マリさんも人格が二つあると感じている。「2人の私が同時に自己主張するので、頭の中がよくぐしゃぐしゃになる。感情が制御できない」。被害のことは、家族に話せていない。後遺症は消えない。

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 法務省の有識者検討会が8月、性犯罪の厳罰化を柱にした報告書をまとめ、国は法制化の検討に入る。被害者の心身に深い傷を刻みつける一方、表面化しにくいとされる性暴力。社会はどう向き合えばいいのか。被害の実相をたどった。

◆心的外傷後ストレス障害(PTSD)

 強烈なショック体験や精神的ストレスにより引き起こされる障害。恐怖を感じた時の記憶や感覚が突然よみがえるフラッシュバック▽過度の緊張状態による不眠や集中困難▽自身への強い嫌悪感や負の感情-などが1カ月以上たった後も続く。米国の研究では、PTSDの発症率は地震など自然災害を体験した女性で5%程度だが、強姦(ごうかん)被害に遭った場合は46%に上るとされている。

◆性犯罪の罰則に関する検討会

 2014年10月に発足した法務省の有識者会議。メンバーは大学教授や検事、臨床心理士など12人。強姦(ごうかん)罪の法定刑の下限(3年)を引き上げるなどの厳罰化や、被害者の訴えがなくても起訴できる「非親告罪」に改めるよう促す報告書を今年8月にまとめた。暴行や脅迫など強姦罪が成立する要件を緩和すべきかどうかも検討したが、否定的な声が多数を占めた。上川陽子法相は今秋にも、刑法などの改正を法制審議会に諮問する方針。

=2015/08/29付 西日本新聞朝刊=

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