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第47期王位戦 特集
対談:中村修八段×深浦康市八段

第47期王位戦を前に対談する深浦康市八段(左)と中村修八段=21日、東京都千代田区九段南で
 底力の羽生か、独創の佐藤か―。羽生善治王位(35)=王座、王将=に佐藤康光棋聖(36)が挑む第47期王位戦七番勝負が12日に開幕する。羽生が防衛すれば大山康晴15世名人の通算12期と並ぶのに対し、佐藤は2期連続、通算5回目の挑戦で初の奪取を目指す。棋界最高峰の両者の顔合わせに、全国の将棋ファンの目はくぎ付けになりそうだ。

  「これまで積み上げてきた以上のものを出したい」と冷静に迎え撃つ羽生王位。「今回は勝ちたい」と闘志をむき出しにする佐藤棋聖。七番勝負に先立ち、元王将の中村修八段と王位挑戦の経験をもつ深浦康市八段に勝負の行方を占ってもらった。
■羽生王位に異変?
深浦 白組は島八段が4勝。一方、紅組はプレーオフで佐藤棋聖が渡辺竜王を下して勝ち上がり、挑戦者決定戦で島八段を破りました。
中村 佐藤棋聖は昨年の対羽生戦、特に王位戦では工夫した指し方がよく出た。対戦成績だけを見ればダブルスコアで羽生優勢ですが、今期は以前と違うと思います。
深浦 昨年は棋聖戦、王位戦、王座戦と2人の対戦が続きました。王位戦は接戦で、結果的には佐藤棋聖の3勝4敗でしたが、佐藤棋聖が常に先行していた。一方、今年の羽生王位は対局数が少ない。黒星も多く、例年とは違う感じがします。
中村 羽生王位は朝日オープン選手権は守りましたが、棋聖戦で挑戦者決定戦に負けた。
深浦 はっきり調子が悪いのでは、と思いますが、羽生王位は戦いながら調子を上げていく。
中村 今年は佐藤棋聖の充実ぶりも意気込みも違う。5回目の挑戦で王位奪取は悲願でしょう。
深浦 以前はオールラウンドプレイヤーの羽生王位に対して佐藤棋聖、森内名人は作戦を絞れず、ついていけなかった。今は図式が変わり、若手に対して、佐藤棋聖がその立場。佐藤棋聖の序盤が絞れなくなったことに、羽生王位も少なからず動揺していると思う。
中村 羽生将棋はまねされるけど佐藤将棋はまねされないと、佐藤棋聖はえらく気にしていました。あまり独創的すぎてついていけない(笑)。
深浦 今回は戦型が予想できません。佐藤棋聖は面白いことをやろうと思っているんじゃないでしょうか。
中村 対羽生戦は特別な思いで指すわけですから。王位戦は新しい手をためす格好の場。

■佐藤棋聖に秘策?
中村 今の勢いから見たら、佐藤棋聖が先行しそう。しかし、羽生王位はカド番に追いつめられるとスイッチが入る。
深浦 僕は佐藤棋聖の秘策に注目したい。今までやったことのない、誰も研究したことのない戦型を指すのが、佐藤棋聖のモチベーション。僕らプロでもワクワクします。あっと驚くような戦型を期待したい。
中村 序盤も楽しみですが、終盤の攻防、しのぎ合い、攻め合いが2人の将棋の醍醐味(だいごみ)です。
深浦 羽生王位はここ一番の強さがある。どんなに不調と言われていても最後にはモノにする天性のものがある。ただ佐藤棋聖が序盤から工夫を見せ、強烈なパンチが決まったときは羽生王位も対処できないでしょう。
 七番勝負の行方は?
深浦 佐藤棋聖は王位戦で、過去に3回も羽生王位に負けていますが、今は普通に指せればタイトル奪取もあると思っているでしょう。
中村 2人とも、七番勝負がどういう展開になるのか、戦型も指してみないとわからないと思う。こういうケースは珍しい。体調など、微妙な部分が影響しそうです。
深浦 対戦成績で見れば、羽生王位としてはお得意さまなはずなんですが、今までとは勝手が違っている。羽生王位は今までと違った意識で七番勝負に臨むと思う。
中村 どちらにしても4―0にはならない。4―2まではいくと思う。
深浦 4―3で佐藤棋聖。不気味なのは羽生王位のモチベーション。
中村 接戦なら羽生王位かな…。佐藤棋聖が勝つなら4―2。3―3の時の羽生王位は強い。


エッセー:「将棋の駒は美しい」   中平邦彦
 将棋の駒は、はっとするほど美しい。これに気付いたのは、プロの対局を見たときからだ。

 すべての駒が戦うために息を合わせ、個性と役割をしっかり演じながら動く。その連係の美しさである。「強い形というのは美しい形なのです」と羽生も話している。

 その美しい形を、互いに破壊し合うのが中盤からの戦いである。未知と混沌(こんとん)の世界への船出だ。将棋の変化は10の30乗というほとんど無限の世界で、ここから棋士の真価が問われる。自分の力で切り開くしかない。

 読みに心血を注ぐ棋士は、脳に汗をかくほど考える。脳は大量の水分を欲し、頭皮に血管が浮いてきたりする。1局指すと体重が2、3キロ減ることも珍しくない。

 将棋というゲームをこれほど高度に、複雑にしたのは日本人の知恵だ。歩が「と金」になり、取った駒を戦力として使う工夫をした。日本の集積が生んだ世界に誇るゲームであり、日本文化そのものだ。1秒に2億手を読むスーパーコンピューターもまだプロの棋士には届かない。

 技術の体系化は進んだが、プロのもう1つの大きな役目、普及につなげる体系化を怠ってきた。ファンは高齢化し、減り続けているが、将棋連盟に危機感は薄かった。

 会社員の瀬川晶司さん(36)がプロを目指した行動が大きな話題になった。安定した仕事を捨ててまで先の見えない道を選ぶ姿がカネと自己主張が目立つ世相の中で声援を受けたのも当然だった。

 瀬川さんは青年期にプロを目指して挫折し、また挑戦した。「好きなことを職業にできること。それがどれほどすばらしいことか、会社勤めをして初めてわかった」と話した。そして「勝つだけがプロではないと思います。いくら勝っても見てくれる人がいないとだめですから」と言った。将棋界のあるべき姿を言い尽くしている。

 将棋界は今、名人戦問題で揺れている。財政難のせいだが、目先の解決で終わってはなるまい。普及の体系化を怠ったツケが回ってきたのだ。将棋のすばらしさを多くの女性や子供たちに知ってもらうこと。時間はかかっても、苦しくても、プロ全員が自覚し、取り組まないと道は開けまい。家庭のリビングに将棋の盤と駒がある。そんな光景を取り戻すことから始めたい。

 この20年。将棋の技術は飛躍的に進み、体系化した。勝つためにプロが必死の努力をした結果である。だが、それをほとんどの人が知らない。内容はむろん、だれが何をしているかさえも。

(なかひら・くにひこ=観戦記者)