有限会社アルモニ グラフィックデザイナー 山本 千夏さん
年末商戦が熱を帯びはじめた昨年の12月初旬、福岡都市圏にある27の商業施設の合同企画が西日本新聞に掲載された。福岡に点在する施設や商店街を読者に回遊してもらい、クリスマスシーズンの消費需要を喚起したこの紙面は、新聞協会が広告事例を紹介するデータ・アーカイブの事例としても選ばれた。今回の紙面に込められたメッセージについて、制作を担当した(有)アルモニの山本千夏さんにお話を伺った。
ー 今回の紙面は、商圏やターゲットユーザーが異なる福岡の広域の商業施設が集まった新聞広告ですが、これまであまりなかったように思います。
山本 たしかにそうですね。これは、新聞を使って「福岡都市圏全体のクリスマスを盛り上げる」というテーマのクリエイティブコンペに参加して、採用していただいたものです。
昨年はJR博多シティの開業が大きな話題でしたから、メディアでも「クリスマスは天神か博多か」といった取り上げ方をされることが多かったと思います。また、天神・博多に限らず福岡の商業施設はそれぞれが商圏内のターゲットに向けた広告をしっかりやっておられます。そうした背景がある中で、行きつけのところから少し足を延ばすと品揃えや個性が異なるお店がたくさんあることを読者に伝え、外出やお買い物の機会が増えるクリスマスシーズンに街を歩くきっかけをつくることが求められていました。
ー フロント面のビジュアル(27個のキャンドルとキャッチコピー)の制作意図、また、そこに込めたメッセージについて。

山本 アルモニでは、社内のみんなで意見を出し合って表現コンセプトやビジュアルプランを固めていきます。この広告もその過程から生まれたものです。
今回の場合、商業施設をご紹介するのが目的ですから、クリスマスのワクワクする気持ちや購買意欲を刺激する内容のものでも数点カンプを作ってみたのですが、小林( (有)アルモニ代表取締役/小林茂実氏)や新聞社の方とも打ち合わせを重ねるうちに、東日本大震災が起きた2011年は福岡の誰もが「人を思いやる気持ち、人の幸せを願う気持ち」を強く持った特別な年ではないか、クリスマスはその気持ちをあらためて共有する機会ではないか…といった方向性が見えてきて、キャンドルをメインビジュアルにしたプランにつながっていきました。
27個のキャンドルには登場する商業施設のロゴが描かれています。商業施設の皆さんにも同じ想いがあったからこそ、この案をご採用いただけたんだと思います。
ー 山本さんがアートディレクターとして気を遣った点は?また、制作時のエピソードがあれば教えてください。
山本 メインコピー(「福岡から、クリスマスを灯そう。」)に込めた想いと、都市の回遊を各店のセールスに結びつけるという2点のバランスですね。タイトな制作スケジュールでしたが、ニュアンスのあるキャンドルの写真を撮ってくれたフォトグラファー、画像合成で細かい要望に応えてくれたCGデザイナー、福岡都市圏の夜景の鳥瞰図を短期間で描いてくれたイラストレーターなど外部ブレーンの力がなくてはできなかった仕事です。
地図の下絵は私がgoogleマップをつないで作りました。天神を中心とした約10キロ圏内の商業施設の所在地を正確に、かつ視覚的にも近く感じるよう配置することに気をつけました。また、中面では27の商業施設の方からコメントとともにサンタ帽姿で紙面に登場していただきました。皆さん年末商戦の真っ只中ということもあり、進行スケジュール的に少し胃が痛くなったこともありましたけど(笑)、そういった制作過程での経験も含めて私の中でも特別な作品になりました。
ー 掲載後、広告を見た人からの反応は届いていますか。
山本 熊本にお住まいの読者から「一日でいろんな場所を回れることがわかった。行ってみたい店がいろいろあった」という声が届いていると、この企画を担当された新聞社の方から伺いました。
また、掲載日からしばらく経った頃の話ですが、ある商業施設の入口で施設案内パンフレットと同じラックにこの掲載紙が並べられていたのを見つけました。競合するお店のこともお客様に紹介されているわけで、「福岡全体でクリスマスを盛り上げよう」という気持ちが施設側からも伝わってきて、とても感激しました。
ー新聞、あるいは新聞広告について山本さんが普段感じていることをお聞かせください。
山本 新聞って、ページを開くだけで「自分には縁がない」と思っていた記事が目に入ってきますし、そこからまた新しい興味を作りだすことができる媒体ではないでしょうか。ウェブの場合はポータルサイトの見出しである程度中身を判断したら、興味がなければその先へ進むことはまずありません。その点新聞は広告も含めていろいろな情報を一度に、しかもたくさん得ることができます。
インターネットは私の仕事や生活に欠かせないものですが、コピーなどの文字原稿をチェックするときは必ず出力して「活字」で読んでいます。大切な情報は紙で見たい、あるいは広告制作においてもパンフレットや新聞などの紙媒体でしっかり伝えたいというのが私の心の中にあるんでしょうね。
アルモニさんは、一般の方にプロのデザインを届けるという取り組みを始めたそうですね。
山本 今年1月にフォトグラファー、イラストレーター、古布(こふ)作家などアートの世界の住人たちと一般社会に暮らす方々の出会いの場となるウェブサイト「Jamo島(じゃもとう)」を立ち上げました。広告業界以外の人と話していると、クリエーターと呼ばれる人にはプライベートで制作を頼みづらい、そもそもどこにいるのかわからない(笑)と思われていることがよくわかります。そこで、まずはアルモニとお付き合いのあるクリエーターさんと一緒に、個人からの制作依頼に応える仕事をはじめました。
お子さんやペットと散歩しているところをグラビア風に撮って欲しいとか、部屋に飾るポスターをショップで一緒に探して欲しいとか、何でもいいんです。クリエーターの経験や技術を借りながら、気持ちが豊かになるようなものを生活者と一緒に作っていけたらいいなと思っています。
私たちにとって広告業界以外の方との出会いは新しい発見や刺激になることがありますし、ジャモ島がクリエーター同士の出会いの場になることにも期待しています。
ー 本日はありがとうございました。

山本千夏さん(有限会社アルモニ/グラフィックデザイナー)
九州産業大学ビジュアルデザイン科卒業
「広告関係、メディア、そしてクライアントさんの距離が物理的にも近い福岡は、クリエーターにとって恵まれた街です。自分の想いを伝え、相手の想いを直接聞くことによって見えてくることが多いですし、もっと良いものを作ろうと思えるんです。」