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九州マーケットリポート

2011/12/22

大型商業施設の開業、リニューアルが相次いだ2011年。
学術的に見た「福岡天神/博多」の魅力とは。

福岡大学大学院経済学研究科長
福岡大学都市空間情報行動研究所(FQBIC)所長
斎藤 参郎さん

 今回のインタビューは福岡の都心部を中心に消費者回遊行動(都心部での人の渡り歩き行動)調査を10年以上継続的に行い、魅力あるまちづくりの提言を行っている福岡大学の斎藤教授がゲストです。九州新幹線の全線開業、大型商業施設の開業ラッシュに沸いた今年の福岡の姿はその目にどう映っているのでしょうか。

ー 本日はよろしくお願いします。
はじめに、斎藤先生は10年以上にわたって九州最大の商業集積地・天神の消費者回遊行動を調べておられますが、福岡のまちの変遷などから先生ご自身が感じているところをお聞かせください。

斎藤 天神では1975年の博多大丸の天神移転が集積の一つの契機になったと思いますが、その後、岩田屋Zサイドの開店(96年)、博多大丸エルガーラ増床と福岡三越の開店(97年)といった大規模な商業再開発が行われていきました。この頃の調査で、人の流れからみた天神の重心(中心地)が天神パルコ入口付近から三越ライオン広場付近に105メートル南下したことがわかっています。
 その流れは現在も続いていて、福岡市営地下鉄の七隈線開業(05年)とそれにともなう天神地下街の南伸が天神の人の動きに大きな影響を与えたと思います。続いてインパクトが大きかったのは昨年の天神パルコ開業です。天神地下街の南伸と地下鉄七隈線開業によって、これまで周辺の商業施設を結ぶ通路としての特徴がつよかった天神地下街が、今は2つの地下鉄駅とあいまって人が湧き出てくるホットスポットになったような印象があります。
 都心の人の動きが、これほどの短い期間にドラスティックに変わっていくケースは全国でも例がなく、“天神”“博多”を擁する福岡は私たち研究者にとって得難い研究対象だとも言えますね。今年に限っていえば、わずか1年の間に九州新幹線全線開業、JR博多シティの開業、キャナルシティ博多イーストビルのオープン、そしてレソラ天神や天神コアのリニューアル等々がありました。これだけ変化が激しいと従来1年おきにやっていた調査のタイムスパンをもっと短くする必要があると感じているところです。

ー さて、そうした変化の大きい福岡で、斎藤先生がやっておられる消費者回遊行動調査とはどのようなものなのかを教えてください。

斎藤 簡単に言いますと、都心部での消費者の立ち寄り場所やその目的、支出額を調べて、消費者の回遊行動からみた都心部の現状を知り、それを商業空間づくり、まちづくりに役立てましょう、というものです。これまでわれわれが行ってきている調査は、まちにやって来た人に直接アンケートや聞き取りをします。これを来街地ベースの調査といいます。その利点は、まちで調査対象者に直接尋ねているため、従来の居住地ベースで行われてきた調査よりも、サンプルを得る効率もよくてコストも抑えられるということです。
 しかしながら、この手法はあまり使われてきませんでした。というのも、来街地ベースで調査する場合には、まちに来る回数の多い人ほど、調査対象者となって選ばれる可能性が高いからです。例えば、1か月に10回、まちにやって来る人と、1か月に1回の人とでは、10回やって来る人の方が調査対象者に10倍選ばれやすくなります。この来街者ベースの調査で得られた結果を単純に周辺の居住地に押し広げてあてはめると間違った結果が導き出されてしまう可能性もあるわけです。
 このようなジレンマを解決するために、われわれは来街地ベース調査のデータをつかっても、居住地ベース調査をおこなったのと変わらない精度が得られるような統計的方法を確立してきました。したがって、消費者回遊行動調査を低コストかつ短期間でできる来街地ベースのメリットは大きいのですが、このような統計的方法をもちいて調査ができるシンクタンク等は国内外で他に例がないと思います。

ー 天神エリアについてお話を伺っていきます。
天神について語るとき、どうしても百貨店など大型商業施設が話題の中心になりますが、先生はエリア全体の魅力についてどうお考えですか。

斎藤 そうですね、しかし天神は一般企業のオフィスも多く、商業地としてだけでなく業務(ビジネス)の集積地としての一面も持っていますから、毎日天神を訪れる人やそこで働く人たちが日常的に楽しんだり、くつろいだりする場所や生活サービスの機能が発達してきたといえます。
 そうして天神の発展に伴って、天神エリアにはおさまりきれない、そこからちょっとハミ出た部分が、周辺地区に集積していくような形になりました。天神からほど近く、魅力的な飲食店が集まっている大名や今泉周辺がそうしたエリアに当たるでしょうか。
 面白いのは、これらのまちもある程度の規模に育ってくると、自分たち固有の情報を発信する力をもってくることです。大名は音楽やインディーズ文化の発信地として知られていますし、個性的なファッションを提案するショップも多く集まっていますね。そういった魅力も含めて、天神エリアは今なお活気がある印象ですね。

ー 続いて、博多エリアについてですが、今年は九州新幹線の全線開業、JR博多シティの開業が大きな話題となりました。

斎藤 九州新幹線の全線開業によって熊本や鹿児島を訪れる人が増えたこと、そしてJR博多シティが活況を呈することは私たちを含め大方の予測通りでしたが、私は関西の人たちが「福岡より先」へ行きやすくなってからの福岡都心部にどんな変化が起きるかに関心を持っています。
 九州新幹線のおかげで九州全体がコンパクトになったので、開業前と比べて短期間に、あるいは短時間に九州内の多くの観光スポットに行けるようになりました。それは九州の魅力が一段と高まったことにもなり、そのハブ機能を果たす福岡に新たな魅力が加わったことにもなります。私は関西から福岡に来る人が今後増えていくという予測をしています。検証はこれからですが、九州新幹線の開業が福岡にどんな影響を与えているかを正確に計測できたら面白いと思いますね。

ー 天神エリアとキャナルシティ博多、そして博多エリア(JR博多シティ/博多阪急・アミュプラザ)。福岡の3つの大きな商業エリアはそれぞれ近い場所にありますが、生活者の行動を見て、まちの回遊性をより高めるために必要なことなど、日頃、先生がお感じになっておられることはありますか?

斎藤 遠くからやって来る人ほど、訪れるスポットの数は増えます。福岡を目的地として鹿児島や熊本、関西などからやって来る旅行者は、必ず、天神・キャナルシティ博多・博多エリアの3カ所を回るでしょう。また、福岡近郊の都市から遊びに来た人も、時間が許す限り複数の商業施設へ行きたいと思うはずです。
 しかし、地元福岡に住んでいる人たちは、今日は博多エリア、次は天神エリアと、使い分けられるので、そう思わないのではないでしょうか。たとえば、それぞれの施設でやっているイベント情報を紹介し合うとか、複数の施設を回ることによる顧客メリットを作るといったアイデアをもっと出し合って、福岡都心部の回遊を促す仕掛けや工夫が生まれることに期待したいですね。今後福岡の魅力を高めていく上で、天神エリアと博多エリア、さらに、天神と博多を結ぶキャナルシティ博多、これら3つのエリアの果たす役割はとても大きいですし、回遊性を高める施策が実施されたことによる効果の計測をぜひやってみたいと思っています。

ー 都心部を中心としたこれからのまちづくりに必要なことは何だと思われますか。

斎藤 福岡に限ったことではありませんが、まちづくりには科学的な視点が必要だと思います。たとえば一つのイベントをやった時に、そこにかけたコストと効果のバランスは適正だったのか。また、費用を負担したスポンサーやテナントにそのイベントがどんなメリットをもたらしたかをちゃんと把握できていないと、「こういうことをやればこれだけ人が呼べる」といったノウハウの蓄積には結びつきません。
 それを把握することは、都市全体の活性化にもつながっていきます。来街者を増やすには、都市エクイティ(当該都市を訪れる消費者の心の中に醸成された当該都市の魅力資産価値)を最大化するまちづくりが大切です。消費者の視点にたって、回遊性が高いまちづくりをめざすために、そのベースとなる消費者の行動調査をいろんな所でやっていくと、都市活性化のヒントやアイデアが見つかってくると思います。
 その結果を確立した理論やノウハウにできれば福岡の商業や文化、交通システムといったものまでパッケージにして発展著しい東アジアの都市に売っていけると思いますし、実際にそういう引き合いはあるんですよ。

ー 最後に、先生の研究拠点である、都市空間情報行動研究所は福岡大学の中にあります。学生さんとの付き合いの中でヒントになることなどもありますか。

斎藤 私たちの研究所のモットーは、常に現場から学ぶということです。まちの変化については学生の方が私よりも敏感ですから(笑)、彼らの話から調査対象のヒントを得ることも多くあります。
 繰り返しになりますが、福岡固有のまちづくりを他の都市に発信して行くには理論やモデルといったものが必要です。それを体系化するのはまさに私たちが行っている研究や学問の分野なわけで、福岡の都心という現場でおきている出来事や具体的な問題を一般的に応用できるように体系化し、発信していくことがこの研究所の役割だと思っています。「福岡大学都市空間情報行動研究所」という固い名前ですが、「まちづくり支援センター」みたいな感じで現場に関わるいろんな人が研究所に集まって、いま起きている問題を一緒に考えていける場所にしたいですね。

ー 本日はありがとうございました。