岩松記者岩松記者の読書歴

【 UpDate:2002/12/16 】

■「風のかなたのひみつ島」(椎名誠、新潮社)■
記者1  私自身が島で育ったので、離島にはこだわりがあります。かつて椎名さんと博多の飲み屋「やす」で会った時、思わず私の育った甑島への旅を勧めたことがありました(実際に週刊誌の企画で行ってくださったみたいです)。島を旅しながら取材して書くというこんな仕事は幸せだろうな、と思いました。佐賀の加唐島を訪ねる旅では思わずほろり。子供たちの表情がいい。日本が失ってしまったいいものが、都会とは縁のない小さな島々には残っているのかもしれません。

■「忘れられた日本人」(宮本常一、岩波文庫)■
 宮本民俗学の代表作で、東京の岩波書店でも探しましたが、在庫がありませんでした。図書館でこの本にようやく出会えました。古老たちのライフヒストリーでもあるし、強烈なルポルタージュでもあります。古老たちの話をじっくり聞いてそれをつづっていくことで、日本の民俗文化、生活を生き生きと描き出しています。これはおすすめの一冊です。深みのあるルポでした。

■「ニッポン貧困最前線」(久田恵、文春文庫)■
 副題は「ケースワーカーと呼ばれる人々」です。生活保護などを扱う福祉事務所の実態に迫った本です。保護の最前線で働くことの難しさを改めて感じました。2章では北海道の母親餓死事件を取り上げていますが、浅薄な取材で行政=悪者の単純な構図で事件を描いてしまうメディアの問題を提起してちくりと痛みました。3章はここ筑豊の実態です。

■「新聞が衰退するとき」(黒田清、文芸春秋社)■
 読売大阪社会部長時代に数々の企画を手がけた黒田さんの本。「黒田軍団」と呼ばれただけあって示唆に富んだ話がぎっしり。先輩から勧められて図書館から借りてきましたが、新聞記者であることに疲れた時に読むと元気が出ます。記者はどこに視点を置いて仕事をするのか。何のためにこの仕事をするのか。黒田さんが「初心にかえれ」と呼びかけているような気がしました。


【 UpDate:2002/10/28 】

■「追悼の達人」(嵐山光三郎・新潮文庫)■
記者1 年とってくると、このような本になぜか、手が伸びます。明治から昭和にかけて亡くなった文学者たちの人生を、その葬儀での弔辞を通しながら振り返ります。それぞれの弔辞にはやはりそれなりの意味と深みがあるものなのですね。私にはあの手の儀式は苦手です。だから、あまり読み込んで見ようとは思ったことはなかったけど、さすがに作家らにまつわる弔辞はおもしろい。弔辞を読む側の感情や思いに、それぞれの名声へのこだわりなども絡んできて読ませる。弔辞だけでなく、死にまつわるエピソードも存分に盛り込んでいます。

■「少年犯罪実名報道」(高山文彦・文芸春秋)■
 話題になった本です。新潮45に掲載した少年による通り魔殺人事件の容疑者実名報道をめぐる動きをまとめています。この件をめぐる新聞の社説、さらに裁判資料なども掲載して、全体の流れがよくわかります。この問題は、報道に携わる私たちの目の前に突きつけられた問題です。世の中の流れはたとえ少年であろうと、加害者厳罰です。ただ、これまでの歴史的な問題もあり、では少年事件でも実名か、というと難しい問題です。正直言って、メディアの組織の問題もあるし、なかなか結論を出すのがしんどい、複雑なテーマです。その意味でも、いろいろと考えさせられた本ではありました。

■「ひまわりの祝祭」(藤原伊織・講談社)■
 おもしろいのか、おもしろくないのか。よくわかんなかった。ゴッホの8枚目のひまわりの絵を巡る推理小説。設定人物の描き方に現実離れを感じてしまうのだけど。冷めた生き方をしている人間は現実にいるのだろうけれど、自分の妻の死などその他もろもろの事件といえる出来事にここまで冷めたままでいられる主人公が、ちょっと信じられませんでした。

■「季・時どき」(風見治・海鳥社)■
 当時、不治の病とされたハンセン病を宣告され、60年間、療養所で閉ざされた暮らしをしていたせいなのか、筆者の記憶は恐ろしいほど、細やかで鋭い。思い出を反芻しながら生きてきたんだろうな、と思う。ただ、ハンセン病を全面に押し出しているわけではない。故郷、長崎の坂、幼なじみ、父や母のこと、鹿児島での療養生活で出会った焼き物、周囲の小鳥や花……。それらを声高でなく、静かに淡々と描いているエッセイです。

■「拉致−北朝鮮の国家犯罪」(高世仁・講談社文庫)■
件のいきさつを、情報が少ない中で事実を一つずつつないで明かしていく。中でも横田めぐみさんのご両親の描写は涙なしでは読めませんでした。我が子が突然、神隠しのような状態でいなくなったら、私自身は一体どうしただろうか。そんな思いで読みました。ご両親は耐え切れぬ思いを抱いたまま24年を生きてきたのです。その人生を想像すると、つらいものがあります。そして活字には共感する力、想像する力があるのだと実感した本でした。


【 UpDate:2002/09/20 】

■「ひどい感じ 父・井上光晴」(井上荒野、講談社)■
記者1  いろいろと忙しくてなかなかアップできませんでした。「地の群れ」など、独特の文体、独自の世界を描いて10年前に亡くなった井上光晴さん。ファンでした。一時期、まるでドフトエスキーみたいな暗さに憧れて井上さんの本を読みあさったことがありました。その井上さんの娘、荒野さんが父を描いた本です。意外性というのか、不思議な気持ちで読んでしまいました。「嘘つきだった父」の姿と、作家としての姿との落差というのか。本で思い描いていた井上さん、映画「全身小説家」で想像した井上さんとは違った像は、新鮮な驚きではありました。井上ファンには必読の書であります。

■「昭和時代回想」(関川夏央、NHK出版)■
 この人の文章はうまい。ほれぼれする表現で、自分の幼いころの思い出、思春期のころの思いを描いています。中でも「みなし中年」は秀逸。40歳を過ぎてから自分の父が同じ年頃に何を考えていたのか、気になる、という内容のエッセイです。3月に父を亡くした私も、最近、ふと、同じようなことを考えることが多いのです。40代半ばになったこの気持ち、状態を「よく言ってくれた」と思ってしまう作品でした。

■「旅から旅」(鎌田慧、立風書房)■
 硬派のルポ、というイメージが強い鎌田さんですが、こちらはエッセイ集。鎌田さんの生い立ち、人となり、生きてきた軌跡がよくわかる本です。このエッセイの中に懐かしいふるさとの先輩の名前も見つけてしまい、懐かしい思いにとらわれました。鎌田さんが業界紙に勤めていたころの話に出てくる同僚の記者で、いろいろと世話になった恩人でもありました。「人と出会う楽しさ」の章にある「上野英信−地底の魂」は圧巻です。上野さんの視点を通して、大手のヤマと中小のヤマで働いていた男たちの意識の差をあからさまにしています。

■「偽『最後の晩餐』」(杉浦明平、筑摩書房)■
明平さんの晩年のエッセイ集です。土になじんで生きていた明平さんだけあった、野菜などの深みのある話はさすが。サクランボやトマト、トウモロコシなど食べ物にまつわるエッセイに、本や日頃の生活雑感をまとめています。

■「罪 届かなかった15通の遺書」(毎日新聞東京社会部、河出書房新社)■
アメリカの国立公文書館で56年ぶりに見つかったBC級戦犯の遺書。記者たちが遺族らを探し歩いて、遺書の内容を伝えるこん身のルポです。はあ、はっきり言って宣伝です。私自身がこの企画にかかわり、本にする作業に追われましたから。その取材の過程もつぶさに知っているだけに、ぜひ読んでほしいなあ、と、取り上げちゃいました。若い記者たちが、偏見や常識を捨てて、遺族を訪ね歩き、あの戦争は何だったのかを自分の問題として問いかけていきます。週刊文春などの書評欄も取り上げてくれました。


【 UpDate:2002/07/30 】

■「裏と表」(梁石日、幻冬舎)■
記者1  はっきり言ってはずれでしたね。主人公は神田の金券ショップの経営者。その商売のシステムをよく取材していて、それなりには面白い。と、思って進んだけど、だんだん訳がわかんなくなったのは私の頭が悪いせい? 主人公のほれる銀座のママが出てくる。その夫も事件にからんでくる。最後はハッピーエンドのようだが、設定がどうもあいまいで全体が見えてこないし、細部をみればかなり飛躍があると感じるのは私だけだろうか。

■「昭和恋々〜あのころこんな暮らしがあった」(山本夏彦・久世光彦、文春文庫)■
 この手の本がいいなあ、と思えるようになったら、年をとった証拠かな。最初の夏彦さんの写真はこの3月まで私も暮らしていた東京の懐かしい街並み。根津の下町の曙ハウスや本郷の3階建ての下宿・本郷館など、かつてうろうろしていた街の風景でした。後半はなつかしの昭和の風景だけど、久世さんの文章がしっとりして心にしみる。心に忍び寄ってくるような表現のうまさときたら−−。「うっとりするような美しさには、背中合わせに消え入るような儚さが張りついていることを人生で初めて教えてくれるのは、子供の日の花火である」。いいよね。

■「西蔵回廊・カイラス巡礼」(夢枕獏、カメラ・佐藤秀明、知恵の森文庫)■
 憧れの地、チベット。大学時代(といっても20年以上も前)、ネパールまではうろうろしたけど、とうとうチベットには手が出せませんでした。だから、ずっと本や写真集で満足させてきたのだけど、この紀行を読んでいると、やはり無理だろうな、と思ってしまいました。だって耳の弱い(飛行機に乗ってもすぐ痛み出して、なかなか治らない)私には、旅慣れた夢枕さんたちが、高山病で苦しむ姿を読んだら、こんな高地を旅するのはとてもとても。それはともかく、写真がきれいです。読ませてくれます。文庫本だから、寝ながら、憧れのチベットを楽しみました。


【 UpDate:2002/06/14 】

■「銭湯の女神」(星野博美、文芸春秋)■
記者1  読みやすくて楽しい文体で、思わず引き込まれました。うーん、こののりは男なのか、女なのか。 はあ、女性カメラマンでした。しかも、男以上にバイタリティーのある。
 香港暮らしが長かったという彼女。視点が低いのです。100円ショップのことを書いた「百円の重み」では私も後ろめたさを感じてしまいました。プラスチック製の健康青竹を見た彼女の父親がつぶやきます。「これ、型を作るの、大変なんだ」「これが百円だったら型を作ったやつには一体、いくら入るのだろう」。
 書いていることばの一つひとつがしんみりと心に入り込んでくるのがいい。入稿のあとに米のアフガン攻撃が始まったという時に書いたあとがきでいわく「私は想像したい。テロで愛する人を失った人の気持ちを想像したい。。命をかけてビルに突撃した人の気持ちを想像したい。空爆の恐怖に脅える人の気持ちを想像したい。想像する力を私の武器にしたい」。いい言葉でしょう。

■「オバハンからの緊急レポート」(督永忠子、創出版)■
 20年以上をパキスタンで暮らし、日パ旅行社を経営する著者。かの米アフガン攻撃のドタバタ騒動を、軽妙かつ舌鋒鋭く書いています。メディアへの批判の目も鋭い。とかく自分たちに都合のいいイメージで撮りたがるテレビのスタッフ。何の下調べもしないで、現地に乗り込んでくる新聞記者……。同業の身にはつらい場面も。画面で出てきた映像ニュースと現実の違いや、報道の現場を考える意味でもおもしろい本でした。

■「死体の見方」(布施英利、東京書籍)■
 のっけに出てくる小説がすごいです。事故で左手を失った女性が切断された手にプラスチック処理を施してバッグに入れて持ち歩くというお話。ある日、そのバックをなくし、それが見つかって手と再会します。時間がとまったままの手と、10年の歳月をへた付け根の腕を比べて初めて腕の喪失感を味わうというストーリーです。作者は美大を出てから解剖学を極めたという経歴の持ち主。あくまでも美術として、死と死体を見つめています。死体の写真も載っていて一見、グロ本のようですが、内容はすこぶるまじめ。地下鉄サリン事件や酒鬼薔薇事件などを、死の概念を通して見つめ直しています。

100円ショップの裏事情は昔TVであってましたね。( ̄▽ ̄;)~製作者側の多々ある葛藤が・・・。それ以上に気になるのが「オバハンの緊レポ」・・・TVの「都合のいいイメージ像」というのは切実に感じます。真実を報道し、真実を知り得ることは大事ですわ(By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2002/05/10 】

記者1 「奇跡の村〜隠れキリシタンの里・今村」(佐藤早苗・河出書房新社)
「深海の使者」(吉村昭・文春文庫)
「巻末の記」(松下竜一・河出書房新社)

 筑紫平野の町、大刀洗に隠れキリシタンの里があるのを知りませんでした。「奇跡の村」は、その隠れキリシタンの里の歴史と人を描いた本です。長崎の浦上や五島に比べ、さほど、ひどい弾圧もなく、ひっそりとこの平野で生き続けてきた信仰の裏には、仲間がわざと改宗して庄屋になり、信者たちを守るという知恵があったようです。隠れる必要がない世の中になって、信者たちはブラジルへ渡りました。

 コーヒー園で働きながら、名をなした人間、そして村に帰ってきた人間。それぞれのドラマが描かれていて興味深いです。この本に誘われるように、先日、今村に行ってきました。美しい天主堂がそびえていました。浦上天主堂を建てた大工が指揮して、信者総出で造った教会です。中も見せてもらいましたが、荘厳な作りの内部は、ステンドグラスがきれいで、いや、感激しました。

 「深海の使者」は3月に死んだ親父の枕元にあった文庫本です。第2次大戦中、日本とドイツの間を、行き来していた伊号潜水艦とUボートの物語です。爆雷などの攻撃にさらされながら3カ月も4カ月もかけた航海で、狭い密室の艦内での生活は想像を絶します。日独互いに情報や物資が必要で、潜水艦に頼らざるを得なかったのです。あの戦争の歴史が立体的に浮かび上がってくる本です。中でも、敵をあざむくために電話での連絡に鹿児島出身者に鹿児島弁で話させたという逸話や、朝日新聞の航空部が欧州への長距離飛行に陸軍の協力を得てチャレンジした話も盛り込まれていて、興味深く読みました。

 「巻末の記」はこのほど完本となった松下センセの全集30巻に納められた巻末の記をまとめて一冊の本にまとめたものです。この本の編集者と縁あっていただいて、じっくり読ませてもらいました。いわば松下センセの集大成のそのまた集大成といった本でしょうか。センセの著述への思いが、作品が生まれるまでの裏話などを通して語られています。その中でも伊藤ルイさんの死の顛末は、圧巻でした。彼女の墓が博多湾に浮かぶ能古島にあることもこの本で知りました。暇を見て、訪ねてみようと思ってます。

(・▽・)本を読んで引き込まれるように足を運ぶ。岩松記者の探究心が伺えますね。私もグルメ記を読んだら食べに行きたくなり、赴くのですが・・・食い意地張ってるだけですかね(笑(By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2002/04/11 】

記者1 「まれに見るバカ」(勢古浩爾、洋泉社新書)
「行きつけの店」(山口瞳、新潮文庫)
「寿司屋のかみさんとっておきの話」(佐川芳枝、講談社文庫)
「異都発掘−新東京物語」(荒俣宏、集英社文庫)

 痛快無比ですよ、この「まれに見るバカ」は。久しぶりに一気読みしました。筆者説くところのバカの定義、バカの罪はわかりやすい。定義はいわく「@とにかく自分のことしか考えないA恥を知らないB自分の正しさを毫も疑わないC悪いのはすべて他人D一見もっともらしい言葉を口にするE欲望を我慢できないF自分が助かるためには人を裏切る」。うーん、自分はいくつ当てはまるのか。そして罪は「やかましい、群れて力を持つ」などなど。その地平から「バカ」が題名に入った本や、田嶋陽子、田原総一郎、佐高信といった著名人をバッサバッサ。いやあ、面白かった。ほんとに。読むと、いかに自分もバカなのか、よーくわかる本でした。

 「行きつけの店」や「寿司屋のかみさん」は食い物本です。行きつけは店の写真もあって楽しい。今は亡き山口さんの食へのこだわりがよくわかる本です。九州では長崎の「とら寿し」、由布院の「亀の井別荘」が紹介されています。「寿司屋」は東京の名登利寿司のおかみさんの本。季節のうまい魚の食べ方など、寿司のうんちくのほか、お店とお客、店員たちとの人情話も織り込んだ本でした。この手の本は鉄道などの旅の時にうってつけなのよね。

 「異都発掘」もグラフがきれいで、楽しい本です。いかにも荒俣さんらしい博学の本だけど、どちらかというと、「へえー」とこれまで知らなかった東京の珍所、名所を教えてくれました。

( ̄▽ ̄;)~・・・バカの定義・・・人によって定義が色々ありそうですね。まぁ、バカと天才は紙一重と言いますし(笑 Bの性格・・・正しいと思ってても相違を見出したら間違いを認める潔さは欲しい所っすね。 (By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2002/02/21 】

記者1 「非戦」(監修・坂本龍一、幻冬舎)
「連鎖」(真保裕一、講談社α文庫)
「戦後ニッポン犯罪史」(礫川全次、批評社)
「江戸東京物語下町篇」(新潮社編、新潮文庫)
「月下美人」(吉村昭、文春文庫)

 一時期、話題になった「非戦」。読んでみました。昨年の米同時多発テロとその報復攻撃を巡っていろんな人が意見を述べています。医師の中村哲さんや作家の宮内勝典さんのほか、歌手や研究者らも。それぞれが自分の体験などを通して、平和を希求しています。説得力のある文もあれば、そうでないのも。
 「連鎖」は福岡−東京の飛行機に乗る時に買った本でしたが、まさにタイムリーというか。雪印の牛肉問題がクローズアップされていたころで、この本も主人公が元食品衛生監視員。放射能汚染食品の輸入を巡って事件が連鎖して起きていきますが、厚生労働省の食品管理の仕組みというのか、構造が読んでいてわかるというのがいい。とてもおもしろいハード・ボイルドでありました。
 「犯罪史」は仕事柄よく読むのだけど、この本にはこれまで知らなかった事件もきっちり納めてあって勉強になりました。
「東京物語」の下町篇は、以前に書いた「都心篇」の続きです。都心篇よりこっちの方が親しみが持てて面白かった(というより、下町の根津に住んでいるからかも)。
「月下美人」は作者の体験をもとにしたであろうと想像される短編集です。「戦争」や「人」に対する吉村さんの姿勢がよく表れている作品たちでした。


【 UpDate:? 】

記者1 「流血の魔術最強の演技〜すべてのプロレスは演技である」(ミスター高橋、講談 社)
「アジアン・ジャパニーズ」(小林紀晴、情報センター出版局)
「安楽病棟」(帚木蓬生、新潮文庫)
「にっぽん心中考」(佐藤清彦、文春文庫)
「私の体験的ノンフィクション術」(佐野眞一、集英社新書)
「空からの民俗学」(宮本常一、岩波現代文庫)

 しばらくアップしていなかったので、たまってしまいました。
 痛快、目からうろこ、の状態で読み終えたのは「流血の魔術……」でした。いやあ、プロレスはどうもうさんくさいと、K1などに入れ込んでいた私は、ただ「うーん」とうなるのみです。すなわち、プロレスは「八百長ではない。最高の演技なのだ」と。流血も実は仕込んだカミソリの刃で、レフェリーが切ってやっていた、とか、その中味は著者自身がずっとこのプロレス界で生きてきただけに、迫力満点。いやあ、久しぶりに一気読みでした。

 「アジアン・ジャパニーズ」は某新聞社のカメラマンだった小林さんによる写真と文の東南アジア、インド紀行です。写真もいいけど、対象は旅して回る日本人。彼らとじっくりとつきあいながら、迫っていいく姿が文章にも濃厚に現れていて、楽しい本でした。

 帚木さんの本はずっと読んできたけど、この「安楽病棟」は何度も途中で止まってしまいました。老人病棟に入る人たちの家庭やその症状をこれでもか、これでもか、と。読み進むのが億劫になってしまいました。

 「日本心中考」はこれまでの日本の心中事件をいろいろとまとめた本です。心中にも時代の背景が色濃く反映されていることがわかります。

 佐野さんのノンフィクションの原点は民俗学者の宮本常一でした。この体験的ノンフィクション術はいわば、宮本常一の仕事はそのまま、ノンフィクション、ジャーナリズムの原点である、と主張します。納得する点多々あり。で、ついでに宮本さんの「空からの民俗学」も買ってきて読んでみました。

(・o・)ぉぉ。「流血の魔術……」を読まれているとわ!いやはや、確かにプロレスラーは「最高の演技者」ですよ。技が向かってきても、それに耐えるタフネス・パフォーマンス。・・・とまぁ、あまりプロレスを知らない私ですが(笑 (By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2001/11/29 】

記者1 「仙人の壺」(南伸坊、新潮文庫)
「父の酒」(安岡章太郎、文春文庫)
「事件記者をやってみた」(野村進、日経ビジネス文庫)
「常識の世界地図」(21世紀研究会編、文春新書)
「百貌百言」(出久根達郎、文春新書)
「江戸東京物語・都心編」(新潮社編)
「死の準備」(日垣隆、吉本隆明ほか、洋泉社新書)
「2人の彼」(群ようこ、毎日新聞社)
「怪文書」(六角弘、光文社新書)

 しばらくアップしていなかったので、たまってしまいました。
 「仙人の壺」は漫画入りで、お気楽に読める本です。中国の故事、怪談を解説を交えて紹介しているのですが、やはり作者の軽妙洒脱な語り口、博識が楽しい。まか不思議な中国の物語は、どこか現代の常識をぽかんと突き抜けていて、思わず「へえー」と感心してしまいます。

 フリーのジャーナリストがいろいろな事件現場を歩いて取材したのが「事件記者をやってみた」。奥尻島の津波災害の現場や、竹下登、金丸信といった政治家と事件、5人の少女が集団飛び降り自殺した町の風景、背景をじっくり描いてます。この本を読んでいる時に、この作者の義弟がアフガンで拘束されてしまったのよね。

 「常識の世界地図」は世界がわかる本です。あいさつの仕方、食物に対するタブー、それぞれの国の常識、色や数に対する考え方、感じ方、宗教の在り方など、東西の国々の違いを比較しています。勉強にはなったなあ。

 「百貌百言」は日本の各界著名人たちの生き方と彼らの言葉を集めた本です。知っていたようで知らなかった人の生き方もあって興味深かった。「江戸東京物語」は絵が美しい。休日に自転車で都心に出かける私のガイド本になりました。

 「死の準備」は10人の著名人たちの死生観を集めました。中でも森崎和江さんの「風になりたや 山の風里の風」には圧倒されました。あと何年生きられるのかわからないけれど、どう生きて、どう死んでいくのか。そんなことを強く問いかけてくれた本でした。

 「怪文書」は週刊誌の記者として活躍された六角さんの本ですが、読んでいると近年の大きな事件のまとめのようで、ああ、そういえばこんな事件もあったなあ、と改めて思い出したり、自分の知らなかった事件の背景を知ったりしてこれまた、勉強になる本ではありました。

(^-^)ゞお久しぶりの「記者読本」の更新です。相変わらず岩松さんの読書量には吃驚!「常識の世界地図」は雑学としても面白そうですね。サッカーW杯ネタでも食文化の違いの点で議論されているネタもありますし、他国との文化の違いを知ることはとても役に立つと思いますね。(;^^)私自身はもっと自国の常識も勉強せねば・・・(笑)(By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2001/10/1 】

記者1 「密告」(真保裕一・講談社文庫)
「日本残酷死刑史」(森川哲郎・日本新書)
「旧約聖書を知っていますか」(阿刀田高・新潮社文庫)
「カメラの前のモノローグ」(マリオ・A、集英社新書)
「100人の20世紀・上下」(朝日文庫)
「現代史の争点」(秦郁彦・文芸春秋)
「私の東京物語」(吉行淳之介・文春文庫)

 2カ月アップしないままでした。このうち、一番読み込んだのは「100人の20世紀」でした。朝日新聞の日曜版に連載されていた企画です。20世紀を生きた著名人たちの素顔に迫っていて、とてもおもしろい。例えば、ヘレン・ケラーの成就しなかった恋、など、伝記では知らなかったようなエピソードもふんだんに盛り込んでいる。文章もほんとによく練れているし、海外での取材もたっぷりやっていて、いや、正直に言って恐るべし、と感じました。

 「カメラの前のモノローグ」は、埴谷雄高、猪熊弦一郎、武満徹の3人に取材した外国人ジャーナリストの作品。本人が撮った写真も味わいあるし、何よりも3人がとても率直に人生を語っている。もしかしたら、取材者がドイツ人だったせいかもしれないけど、取材の視点の柔らかさにほだされてそれぞれの人生をたっぷりと語ったような気がしました。

 「日本残酷死刑史」は帝銀事件の平沢貞通被告を救援する会の事務局長だった森川さんと、その平沢さんの養子になった武彦さんの共著。日本の刑の歴史を奈良時代から現代まで解説しているのだけど、うーん、ほんとに人間って残酷な刑を考え出すもんだなあ。死刑の是非の前に、人間の持つ本性みたいなものを見せられたような気がしました。

 「密告」はそれなりの読ませてくれるのだけど、ちょっと飛躍を感じました。ストーりーの意外性は認めますが……

(;^^)本読みまくってますのね。私は最近、漫画ばっかりです。岩松記者こそ恐るべし(笑)岩松記者の感想を聞いているだけでも「100人の20世紀」は読み応えのある本だと伺えますね。(By ページ担当:ヒロ)


【 UpDate:2001/8/3 】

岩松記者 「海亀通信」(宮内勝典、岩波書店)
「リトル・トリー」(フォレスト・カーター、めるくまーる社)
「鴎外の坂」(森まゆみ、新潮社)
「天才アラーキー写真ノ方法」(荒木経惟、集英社新書)

 宮内さんの本は実にさわやかで、そして意志を感じさせます。この本は宮内さんのホームページに掲載されたエッセイなどをまとめていますが、屋久島などの自然に対する憧憬、そして国や制度の理不尽さへの怒りがこめられています。私が生まれ育った鹿児島の薩摩半島南部の街の隣が宮内さんの故郷でもあり、偶然、高校も一緒だったので、とても興味深く読みました。そう言えば、宮内さんの育った町の中学で英語を教えていた親父が宮内さんのことを「教え子だった」と言っていたなあ。

 「リトル・トリー」はその宮内さんの「海亀通信」で紹介されていた本です。本屋で見かけてすぐ買ってしまいました。両親を亡くしたインディアンの少年が、祖父母に育てられながら、星や大地、川など自然から生き方を学んでいくという、力強い物語です。なんか、読んでいたら元気が出てきそうな……。息子たちに勧めたけど、読んだかなあ。

 森さんの本は今、住んでいる東京・根津の近くに鴎外のゆかりの地がいろいろあるから、手にしました。鴎外がどんな生き方をしたのか。どんな人物だったのか。鴎外の母親や妻らの姿を描くことで、その実像に迫ります。それにしても身近な地名や知っている家などが出てくるって、楽しくってつい引き込まれてしまいました。

 「アラーキー」は売れている本なので、ちょっと手にしたのですが、彼が書いたというよりは、談話をまとめた本ですね。写真の好きな人にはちょっと物足りないかもしれません。思わず名前だけで買ってしまいました。


【 UpDate:2001/6/29 】

岩松記者 「発掘捏造」(毎日新聞旧石器取材班・毎日新聞社)
「情報系これがニュースだ」(日垣隆・文春文庫)
「スイカの丸かじり」(東海林さだお・文春文庫)
「トライアル」(真保裕一・文春文庫)

 記者たちがどうやって事実に近づいていったか。昨年秋に明らかになった旧石器発掘ねつ造問題の舞台裏をあまさず描いたスリルのあるドキュメントですよ。この「発掘捏造」は……。なんて、言ってみましたが、CMですね。これでは。この本の製作にかかわったせいで、何度も何度も読みました。これまでの人生の中でこんなに読み返したことがあったかなあ、というくらい。まあ、興味があったらどうぞ。はい、はっきりいってCMです。

 「情報系……」はこのところはまっている日垣さんの過去のコラムなどをまとめた文庫本です。阪神大震災から読書、宗教、果てはデジタル社会まで、ありとあらゆる分野を取材し、その現実に迫っています。先見の明があるというのか、パソコンなどにいたってはこの作者はずいぶんと前から利用していたんですね。全編通してやはりこの人の切り口はするどいなあ。そういえば、池田小の事件で思い出したけれど、前に読んだこの人の「偽善系U」は、心神喪失の問題、精神障害者と犯罪の問題にも迫っていたなあ。

 「丸かじり」シリーズはこれまでこの欄では書いてこなかったけれど、ほとんど読んでますね。食べ物の話って罪がないからお気楽だし、この東海林さんの文って、ノリがいい。作者には申し訳ないけど、トイレに置いて一編ずつ読んでました。

 「トライアル」は競馬、競艇、競輪と賭け事に絡んだ短編集です。うーん、真保さんの本はやはり長編がおもしろいような。短編だと、プツプツと切れた感じがしてまだ読み足りないというのか……


【 UpDate:2001/1/20 】

岩松記者 「レディ・ジョーカー」(高村薫) うち(毎日新聞)が出版した本では久々のベストセラー。はっきり言って面白い。今、上巻だけど、小説の構成、登場人物の描き方がしっかりしていて、つい夢中になっているのです。中身までは触れないけど、登場する新聞記者の世界がとってもリアル。なんでも「サンデー毎日」編集部が全面協力したそうで、抜かれた際の大阪本社からの連絡は「東京さん、抜かれてまっせ」なんて、現実そのもの。それにしても事件や新聞記者のどろどろした世界を、現実感たっぷりにきっちりと描ける女性って、どんな頭の構造してるんでしょうねえ。


【 UpDate:2/2 】

岩松記者 「チベットわが祖国」(ダライ・ラマ、中公文庫)
「チベット・マンダラの国」(写真・松本栄一、文・奥山直二、小学館)
「私と同じ黒い目のひと」(渡辺一枝、集英社)
「チベット潜行十年」(木村肥佐生)

 このところ、チベット関連の本を集中読み。このほか、図書館で借りてきた本も。理由は単純明解。映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」を見て、世界の屋根といわれるこの国のことを余りに知らなすぎたから。同じアジアにありながら新聞で目にすることは滅多にないでしょ。
 実は20年前、学生時代にインドやネパールを2カ月ほどうろついていたことがあったのだけど、どうしてもチベットには行けなかった。当時はまったく閉ざされた国だった。で、これらの本を読んでいるうちにまたむらむらと……。でも、ほとんど休みがとれないような状況じゃねえ。
 チベットの現在をわかりやすく書いて楽しみながら読めるのは「私と同じ黒い目のひと」。椎名誠さんの奥さんだけど、夫婦そろってすごい人たちです。ダライ・ラマの自叙伝や「チベット潜行十年」は、チベットが中国に支配されて行く政治的な移り変わりを知る上で面白かった。
 同じような形で読む人がいるのか、映画の原作「チベットの7年」(ハインリヒ・ハラー)は図書館でも順番待ち。読めるまでしばらく時間がかかりそうです。


【 UpDate:2/9 】

記者1 「逃亡」(帚木蓬生・新潮社)

  会社の本棚にあったのを何気なく手にしたら、これが面白い。  600nの厚い本だけど、一気読み。戦時中の香港。日本軍の憲兵が終戦を迎え、戦犯として捕らえられるのを恐れて身分を隠し、一般の市民にまぎれて命からがら日本へ。妻子の元に落ち着いたのもつかの間、再び日本を逃げ回る。
 緊張したストーリーの間に香港での憲兵の諜報活動などが詳しく織り込まれていて興味深い。主人公は九州の出身(作者の父親がモデル?)。博多・川端などよく知っている地名が出てきて、物語を一層身近に感じさせる。
 国のために働き、終戦と同時に国が牙をむく。戦勝国が戦犯裁判の名のもとに繰り広げる「勝者のリンチ」。その一方で無数の民間人を殺戮した広島、長崎への原爆が問われない矛盾。強烈な歯ぎしりが聞こえてきそう。
 日本の戦後はこんな様々な問題を置き去りにしたまま、走ってきたんだなあと改めて突きつけられたような思いにとらわれる本だった。


【 UpDate:2/17 】

記者1 「西郷隆盛の世界」(上田滋・中公文庫)、「僕のいた場所」(藤原新也・文春文庫)

 「西郷」は故郷・鹿児島では偉人と言われるけれど、その実、学校ではほとんど学んでこなかった。なぜなのかは知らない。普通は小中学校の社会あたりで、地元出身の歴史的な人物は習うのにね。で、ふと本屋で目にして買ってはみたが、史実と推測がいれ混じっていて、やや読みづらい。途中でリタイア状態。  「僕のいた場所」の藤原さんを初めて読んだのは17年ほど前の「東京漂流」だったかな。そのあとインドの放浪ものを攻めたけど、この人のスタンスはずっと変わっていない。いろいろなエッセイを集めた本。どこか安心して読めるが、その視線はずばりと、現実の世界に安住している自分に切り込んでくる。刺激的で、何のために新聞記者になったのかを改めて考えさせられた。


【 UpDate:2/23 】

記者1 「囚人狂時代」(見沢知廉/ザ・マサダ社)

 昨年、福岡拘置所で看守が脱走を手助けすると言う事件があった。塀の中の世界は新聞記者もよくわからない世界だとつくづく感じた。第一に中での生活の様子などの情報がまったく外に出てこない。拘置所では死刑執行もあるのだけど、これも一切、情報開示されない。死刑判決だけは公開の裁判の中で言い渡すのに、その執行はヒミツなのだ。死刑執行がうしろめたいのなら死刑制度そのものをやめればいいじゃないかと思うのだけど。  この囚人狂時代は、何気なく図書館で手にして借りてきたんだけど、うーん面白い。数々の著名なひとたちの塀の中での生態が赤裸々に語られている。作者の獄中ルポではあるが、八王子の医療刑務所の実態まで描いた塀の中のルポは面白くて、やがて哀しくなる。


【 UpDate:2/26 】

記者1 「総統の防具」(帚木蓬生・日本経済新聞社)

 この前に見沢知廉の「囚人狂時代」を読んだすぐあとに佐賀少年刑務所で拘置中の女性容疑者が自殺するという事件があった。刑務所はこの女性を24時間監視する特別房に入れていたこともわかった。この特別房の話も、囚人狂時代に出てくる。現実の事件が本の世界と直結する。うーん、おもしろいな。
 で、今度は「総統の防具」。この天神プリンセスを担当しているケロケロ・やました氏がすすめてくれた本。前にこのコーナーに書いた「逃亡」と同じで、じわりじわりと物語に引き込んでくれる。舞台は第2次大戦中のドイツ。はじめは突拍子もないような気がするけれど、現実の歴史の中を軸に、作者の描く主人公が深い洞察力と想像力で肉付けしてくれる。途中で事件などあって一気に、というわけにはいかなかったけど、ぐんぐん引き込まれてしまった。それにしても、僕が学校で習った歴史ってなんだったんだろうか。つくづく受験勉強のための歴史学習の空しさを思った。それぐらい登場人物が生き生きしているのです。
 帚木さんはTBSをやめて精神科医になった人。この人はマスコミのインタビューをまったく受け付けないという。先日、福岡西市民センターで講演があったそうだけど、仕事でいけなくて残念。ぜひ、一度、じかに話を聞いてみたいと思う。


【 UpDate:3/3 】

記者1 「脱獄者たち〜管理社会への挑戦」(佐藤清彦・青弓社)
「事件記者〜新婚夫婦殺人事件」(大谷昭宏・幻冬社アウトロー文庫)

 自由になりたいと塀を乗り越えるほどの情熱があれば、塀の外の社会でも成功をおさめるに違いないと思うのだけど、こればかりはそうはいなかないらしい。「脱獄者たち」は主に日本の脱獄事件をまとめた本だけど、結構読ませてくれる。何度も脱獄を繰り返す日本のパピヨンたち。塀の中の看守と服役囚という世界を、日本の監獄の歴史と脱獄事件、あるいは両者がなれあった不祥事などを軸に伝える。日常の世界にとっぷりつかっている身にとってはなかなかわかりにくい世界が身近に感じられておもしろかった。 「事件記者」は若い記者の本を取り上げて読んだ。元読売新聞記者の大谷さんの小説。漫画の「こちら大阪社会部」は愛読書だし、彼が雑誌「ダ・カーポ」で書いているエッセイも欠かさず読んでいるから、興味津々で。登場人物も漫画と同じ「谷」記者だし、刑事の描き方もそっくり似ている。それも仕方ないか。まあ、肩のこるような本じゃないし……。むしろ読んだ人に感想を聞きたいような……。


【 UpDate:3/4 】

記者1 「底抜けビンボー暮らし」(松下竜一・ちくま書房)

 ずいぶん前に話題になった本だったけど、読んでなかった。松下センセが発行する月刊ミニコミ「草の根通信」に連載している生活記をまとめた本。
 松下センセというと、市民運動のリーダーでどうしても硬派に見られがちだけど、どうしてどうして。200万円前後の少ない年収のこと、自分の病気のこと。少ない収入の中からパン屑を求め、のんびりカモメにえさをやって過ごす夫婦の時間。講演を依頼され、25万円の講演料を提示され、思わず旅費込み15万円に値切ってしまう正直ビンボー。いろいろな生活の場面が愚痴になっていないの。逆に行間にビンボーを楽しんでいるさわやかさが感じられて、こんな文章があったんだと、素直に感激してしまった。
 記者と言う昼も夜もないような生活を続けていると、松下センセの余裕がうらやましくもなるが、様々な欲望にとらわれている自分にはきっと縁遠い余裕なんだと、一人妙にナットクしてしまった。


【 UpDate:3/9 】

記者1 「三たびの海峡」(帚木蓬生・新潮文庫)、「弔辞」(新藤兼人・岩波文庫)

 本の世界にもインフルエンザに似た病気があるらしい。「帚木病」のウイルスは脳の深底にしのび込んで、どうにも熱が下がらない。この「海峡」もすでに映画化された代表的な作品だけど、まだ読んでいなかった。一気に読み終えると頭の芯がボウとしびれたような深い感動に襲われた。本を読んでこんなふうになるなんて学生時代以来じゃないかしらん。この本を韓国の反日のプロパガンダみたいに言う人もいるけれど、決してそんな作品じゃないと思った。単純化して表現できない、もっと深いものがある。登場する地名は飯塚や下関、芦屋などよく知っている所だから、ついついのめり込んで読んでしまう。帚木さんはどうも戦前戦後の歴史にスポットをあてて、丁寧に事実を掘り起こし、それに作中人物の情念で肉付けする作業をずっと続けているみたいだ。
 「弔辞」は新藤監督がこれまでに出会ってあの世に見送った人たちの思い出を綴った本。勝新太郎や杉村春子らのほか、一番興味を持ったのが日本画家の甲斐庄楠音(かいのしょう・ただおと)。この本に一枚だけ彼の絵が掲載されているが、とても不思議な絵で、もっとこの人のことを知りたいと思った。


【 UpDate:3/13 】

記者1 「いのちき しています」(松下竜一・三一書房)、「右眼にホロリ」(松下竜一・径書房)  松下センセの話は楽しいな。この2冊も「草の根通信」に掲載したものをまとめたもの。松下センセの家族の歴史が描かれていて、時々、ほろりとしたり、ゲラゲラと笑ったりしながら読んだ。全部実在の人が登場するのでとても身近に感じられるんだな。この中に出てくる「M新聞のK記者」って、うちの長崎支局長の加藤某氏に違いない。松下センセの本、どんどん読んでみようという気になっている。  


【 UpDate:3/16 】

記者1  「あぶらげと恋文」(松下竜一・径書房)、「十二年目の映像」(帚木蓬生・新潮文庫)

 「あぶらげと恋文」は松下センセの若いころの日記である。青春の苦渋と怨嗟が文章の間に満ち満ちている。貧乏ゆえに豆腐屋を継ぐ長男の松下センセ。その豆腐屋とてすんなり継げるものではない。うまく揚がらないあぶらげに腹を立てては地団太を踏み、悔し涙にくれる。自分のプライドをみじんもなく打ち砕く貧乏と病魔。大学へ進む友人らを横目に豆腐作りに苦闘する。弟たちはそんな彼の苦悩を理解はしてくれない。文学をともに志した友は同じ貧乏の中で肺を病み、やがて先に逝ってしまう。豊かな物質に囲まれた現代、どろどろとした泥の海がゆっくりと流れ出すような、そんな青春があったことを知るのもいい。ここに松下センセの原点があったことを知る。
 「十二年目の映像」は帚木さんの本にしてはちょっと面白くなかった。おそらくは東大闘争であろう時計台への立てこもりを内部から撮影したフィルムをめぐって起きる事件をえがいた小説だが、フィルムの行方をめぐって内ゲバが起きるという構図が不可解。そんなフィルムがあったら、それはそれなりに価値あるものだろうけど、そのために党派の殺し合いまでが起きる必然性がまったくないのではないか。この作家が実は性描写も細やかでリアルだということを知った。  


【 UpDate:3/26 】

記者1 「母よ 生きるべし」(松下竜一・講談社)、「記憶の闇-甲山事件1974−1984」(同・河出書房)

この作家はとことん自分の生活をさらけ出し、えぐりだす。それがこの人の在り方なんだろうか。「母よ」は読むんじゃなかった。母は妻の母である。母と娘と、その夫の奇妙な関係。「愛した」母が肺ガンの脳への転移して苦しみながら死んでいく。その姿を切り取って読んでいる者の前にどんと投げ出している。つらくなってくる。
「記憶の闇」は先日、無罪判決が出た甲山事件のドキュメンタリー。これは半分は仕事のため。半分はこの松下センセのものをとりあえず読破してみようと思っているから。24年もかかった裁判。証拠がほとんどないなかでの事件。自分たちの報道の在り方も含めて考えさせられることが多い。  


【 UpDate:4/2 】

記者1 「三島由紀夫−剣と寒紅」(福島次郎・文芸春秋)
「知らないと危ない『犯罪捜査と裁判』基礎知識」(河上和雄・講談社文庫)

「三島」はご存知、いま話題の本。販売差し止めの決定が出たため、同僚があわてて書店に買いに行った。うーん、こんな世界が本当にあったんだ。単純に感激してしまった。あんな衝撃的な死から約30年。当時はまだ中学生だったからよくわからなかったが、その死のうらにはこんな(つまり同性愛という)人生があったんだ。
「基礎知識」は元・東京地検特捜部長の本で、何気なく買ってきたけど、新人記者のサツ回りの教科書としてはうってつけ。  


【 UpDate:4/10 】 記者1 「賞の柩」(帚木蓬生・新潮文庫)
「自殺者」(若一光司・幻冬舎アウトロー文庫)
「神々の物々交換」(荒俣宏・集英社文庫)
「赤目四十八瀧心中未遂」(車谷長吉・文芸春秋)

帚木さんの本はずっと読んでいると似たような構成が多いような……。登場人物たちがそれぞれオムニバス風に描かれてあとで交差する。手紙が登場して作品に意味をもたらす。この本はノーベル賞をめぐる学者の陰謀をテーマにしたスリリングな小説。それなりにおもしろかった。
「自殺者」は日本の戦後の自殺を取り上げている。100人以上の自殺の背景などを読んでいると、ちょっと厭世的な気分になって憂鬱。
 「神々……」は気楽に読める。事件担当のデスクも4年目になると、荒俣さんが世界を駆け回って仕込んだ、博学で知の遊びとも言える楽しい本がストレス解消にもってこいだ。
「赤目……」は文体が暗い。妙にどろどろしている。しかも「併し」という言葉があちこち目について「なんなのだ、この人のこだわりは!!」なんて、叫びそうになる。  


【 UpDate:4/15 】 記者1 「赤目四十八瀧心中未遂」(車谷長吉・文芸春秋)
「かたつむりの歩き方」(姜信子・朝日新聞社)
「天然色日記」(ジミー大西・朝日新聞社)
「金子みすゞ童謡集」(ハルキ文庫)

 前回に「なんじゃこのこだわりはー」と書いた「赤目四十八瀧心中未遂」(車谷長吉・文芸春秋)は実は読み終わるとおもしろかった。こんなぎとぎとした小説を読んだのは学生時代以来じゃないかしらん。最初は読みづらかったけれど、一度入ってしまうと今度は最後まで読んでみなくてはすまないという変な魅力。関西の下町にはどっぷりと入り込んで、その断片を、まるで作中に出てくる豚の臓物の一部のように、読者の前にどさりと投げ出すのだ。異形の世界の出来事だけに、興味はあるし、その臓物がにおいを放っいればいるだけ、興味をますますそそられて最後まで読んでしまう。
 姜信子の「かたつむりの歩き方」(朝日新聞社)は図書館から借りてきた本。姜さんにはかつて韓国に取材に行く前に熊本まで会いに行ったことがあった。さっぱりした人で、だんなの今村さんも気さくないい男だったな。そんなことを思いながら読んだ。子育ての苦労や「在日」へのこだわりなど、この人らしい視点は新鮮だ。
 ジミー大西の「天然色日記」(朝日新聞社)はげらげら笑いながら読んだ。やっぱりジミーはアホや。でも、おもしろい。彼の初恋の話などはじーんときちゃう。
 書店の文庫売り場で手にした「金子みすゞ童謡集」(ハルキ文庫)。かつて山口県の萩に勤務していたころ、守備範囲だった長門市がこの詩人の故郷。ちょうど遺稿集が発掘されてクローズアップされたころで、この人のつぶやくような詩に心洗われる思いがした。当時買った詩集は子供たちの本棚のいずこかへ消えた。それだけに本屋で目にしたとたんに買ってしまった。不幸な結婚をして、離婚のため3歳の子供を引き離されるのを苦に26歳の若さで自殺したひと。このひとの詩を読み返すと、どこか、この不幸な未来を言葉のなかに読み込んでいたように思えてならない。  


【 UpDate:4/23 】

記者1 「血と骨」(梁石日・幻冬舎)
「空夜」(帚木蓬生・講談社文庫)
「アフリカの蹄」(帚木蓬生・同)
「初等ヤクザの犯罪学教室」(浅田次郎・幻冬舎アウトロー文庫)

 「血と骨」はすごい小説だ。モデルは作者の父親?らしいが、読んでいて強烈な存在感を感じる。圧倒されるような暴力。勝手気ままに運命のままに生きる男。その妻や子供の恐怖感が伝わってくる。うーん、この前に読んだ「赤目四十八瀧心中未遂」といい、関西を舞台にした本はどうも、どろどろとしているのに、なぜか魅力的で離してくれない。

「空夜」は帚木さんの本にしてはちょっと……。レンアイ小説なんだなあ。それに比べると「アフリカ……」は構成もダイナミックで読み応え十分。「初等ヤクザ……」は最初は作者本人の経験談なのかな、と思わずにはいられないような本。でもよく読んで、本人の経歴を調べればわかる。それにしてもここまで読者を思わせてしまうなんてねえ。  


【 UpDate:4/28 】

記者1 「チベットの7年」(ハインリヒ・ハラー、新潮出版)
「新聞記者で死にたい」(牧太郎、中公文庫)

「チベット……」はこの読書のページが始まったころ、福岡市総合図書館に予約していた本。映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の原作です。それにしても2月に頼んどいた本が今ごろ? 図書館の担当者に尋ねたら、私の前に借りた人がなくしちゃったそうです。求めるにも時間がかかるので、市の総合図書館が県立図書館から借りて、こちらに貸してくれた次第。「なくしてしまった」人に腹立たしいやら、そこまで手配して連絡をくれる図書館に感激したりしてけっこう複雑な気分で読み始めました。結果は映画はほぼこの原作にそって製作されているんですね。違う部分もあるのだけれど、一緒にチベットに逃れた親友ペーターの時計を偶然買い戻す場面などは原作通り。40年前に出版された古い本ですが、ペーターと結婚したチベット人女性の写真も掲載されていて、このひとがとても美人。映画の登場女性にも似ていて感激しました。
「新聞記者……」はわが社の先輩の本。オウム真理教に立ち向かったサンデー毎日の編集長で、その後、脳卒中に倒れたのですが、必死になって復活してくるんです。その粘りと闘志、記者生活にかける熱意がすごい。若い記者やこれから記者になろうという人にはお勧めの1冊。  


【 UpDate:5/12 】

記者1 「アイドル時代の神話」(小倉千加子・朝日新聞社)
「映画の友人」(中野翠・ちくま文庫)
「カレーライスがやってきた」(大塚滋・朝日文庫)
「風景進化論」(椎名誠・新潮文庫)
「伊勢エビの丸かじり」(東海林さだお・新潮文庫)

いずれも気楽に読める本です。この1週間ほどは久留米方面に出張。よって比較的、肩のこらない本ばかり読んでました。「アイドル……」はよく人物を見ている。ずいぶん前の本だけど、話題の郷ひろみの実態もよく見抜いている。「伊勢エビ」は「丸かじり」シリーズの最新刊。くいもんの話って電車の中でも気楽に読める。特に思考停止状態の時にはもってこい。字面を追っているだけでも楽しくなる。
 蛇足ですが、久留米の街で一人でふらりと入った小料理屋のノートにこのページの佐藤倫子さんの書き置きがあってびっくりしました。久留米総局にいたんですね。毎日も含めて、いろいろな社の記者がよく来るらしい。一見さんの飛び込みでしたが、女性だけでやっているいい雰囲気の店で、魚がとてもうまかった。  


【 UpDate:5/21 】

記者1 「警察が狙撃された日」(谷川葉・三一書房)

 人間って本当に忘れやすい動物だ。3年前に起きた警察庁長官狙撃事件。「狙撃した」と自供した警察官は逮捕もされないまま、事件はうやむやになっていたことをこの本は思い出させてくれた。それにしてもここまで書いていいのか、という内容だ。警察内部にある壁や保身で捜査が左右されてしまう現実。極秘の公安裏部隊チヨダの存在。オウムの事件を通して、魑魅魍魎の世界を暴き出そうとしている。書いたのは数人の新聞記者らしい。面白いのだが、肩のこる本でもありました。一読の価値あり。  


【 UpDate:5/25 】

記者1 「ビジネス・ナンセンス事典」(中島らも・集英社文庫)
「私の遍歴時代」(三島由紀夫・ちくま文庫)
「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩・新潮文庫)

 「ナンセンス事典」の中島さんはアル中患者だったこともあってか、世の中をとってもシニカルに見ている。自分の体験や小噺で、社会を斜めに料理してしまう。ひさうちみきおさんの絵もグッド。例えば「レシピ」の項で紹介するのは「サラリーマン炒め」なる料理。材料のサラリーマンはアクが強いのでたたく。そのうちコブができるとすぱっと切り離す(これを「タンシンフニン」という)。分離したら冷蔵庫へ入れると味が締まる(これを「ヘキチトバシ」という)。これをまな板に戻すと無味無臭になり焼いて食おうが煮て食おうが自由。どうしてもアクがとれないなら「サセン」というスパイス。それでもだめなら「クビキリ」にして捨ててしまいます……というような具合で、にやにやしながら読める。
 「遍歴時代」は先に読んだ「三島由紀夫−剣と寒紅」(福島次郎・文芸春秋)に触発されて引っ張り出したけど、まあ、どういうことはない。
 「D坂」はやはりかつて読んだ短編がいくつか入っているけれど、乱歩の本はいくつになってもおもしろい。「人間椅子」なんて、ぞくりとしてくるような作品。現実的には飛躍がある点もあるけれど、この人の想像力やこだわりは自由に宙を飛びまわってるんだ、と実感した。  


6月1日

記者1
「突破者烈伝」(宮崎学・筑摩書房)▽「大東亜科學奇譚」(荒俣宏・ちくま文庫)▽「無脊椎動物の驚異」(リチャード・ニコフ・青土社)
 「突破者……」は宮崎さんの最新刊。破天荒な生き方をしている彼の身近な人々を扱っているけれど……。やはり「グリコ事件のキツネ目の男」として一番最初に出した本が面白かっただけにくいたりなかった。「突破者……」には「北九州の闘い」の章があって、警察担当の地元記者なら誰でも知っている暴力団のトップを紹介しているけれど、これもどうも……、うーん……
 「大東亜……」は面白い。学校では習ったこともないような市井の学者たち(それもみんなこだわりを持って生きていた)の研究や人生を取り上げていてわくわくしながら読んでしまった。最初に出てくる万能科学者、西村真琴はかの水戸黄門・西村晃の父親。なんと大阪毎日新聞論説顧問で、昭和3年の京都・大礼記念博覧会に金色に輝く巨大な人造人間を出品したという。こんな人がわが社にいたことを初めて知ったが、こんな研究を社として大まじめで出品したというから牧歌的というか、なんと言うべきか。
 「無脊椎……」は朝日新聞の書評欄で見かけて衝動買いした本。生物に興味ある人は楽しい本だけど、ミミズやアリンコ、トンボ、ハエやカ、はてまたメクラウナギなど聞いただけで鳥肌が立つような人にはお勧めできない。原文はユーモラスなんだろうけど、訳文がやや硬調で、それが伝わってこないのが残念です  

6月10日

記者1
香港市民生活見聞」(島尾伸三・新潮文庫)、「活字三昧」「活字学級」(目黒考二・角川文庫)、「あと千回の晩飯」(山田風太郎・朝日新聞社)
 島尾さんはあの島尾敏雄の息子。島尾敏雄に連れられて奄美で育った彼のエッセイは楽しい。この本も彼の本業でもある写真をたっぷり使って香港を楽しく面白く紹介している。肩の凝らない本だから寝ながらでも読めるよ。奥さんの潮田登久子さん の写真展「冷蔵庫」も今、天神のイムズ・アルティアムでやっている(21日まで)けれど、この夫婦のこだわりってすごいよお。
 「活字」シリーズは何を読もうかなって時にもってこいの本。でも、この本も、あの本も……って気になって、結局、書店や図書館でちょっと立ち読みして選んだ本を読むことになる。
 「あと千回……」の山田風太郎さんはこのところ、ずっと死にこだわっているようだ。「人間臨終図巻」もそうだったけれど、自分の死に際をじっと見つめている。「あと千回」の中でも圧巻は思索が宇宙まで飛んでいくところだ。何十億年先かわからないが、いずれ地球も滅ぶ日がある。そんなずっと遠い彼方から自分の生や死をじっと見詰める。読んでいて背筋がずずっと寒くなったような……。  

6月16日

記者1
「理由」(宮部みゆき・朝日新聞社)、「宮本常一を歩く 上・下」(毛利甚八・小学館)、「フルハウス」(柳美里・文芸春秋)
 ちょっと手にして読みはじめた「理由」はぐんぐん引き込まれてしまった。夜勤(午前3時まで)明けというのに、登場人物、場面が複雑に入り組んでいるので途中で読むのを中断すると訳がわからなくなるのではという恐怖にかられて結局、読み終わるまで止められなかった。「不動産の競売妨害」というきわめて現代的な問題を軸に展開するストーリーは息をつかせない(同じような妨害事件が福岡でも摘発されたばかりだ)。  「宮本」は最近読んだ本ではお勧め。作者は「家裁の人」「ケントの方舟」など極めてまじめな作風で知られる漫画家だ。きちんとした地図もついていて、とてもきちんと作られた本。写真もいい。宮本の足跡を追いかける旅をつづった本で、対馬や五島、屋久島など九州の島々が登場する。私自身が鹿児島のとある島で生活したことがあるから、懐かしくってたまらない。ただ、この人は旅を描くだけでなく、今の日本の田舎の状況を正面からつかまえようとしている。例えば過疎について彼は言う。「道は発展と過疎の両方の可能性を秘めた両刃のナイフである」と。新しい価値観をつれてきて人が町とムラを見比べる。うーん。「フルハウス」はどよーんとしてちょっとしんどかったな。今、こんなどろどろした家族関係や男と女のストーリーについていける心境ではないような……。  

7月1日

記者1
「OUT」(桐野夏生・講談社)、「弔辞大全」(倫書房編)、「宣戦布告 上」(麻生幾・講談社)
映画化をめぐって今、話題の「OUT」。地下鉄の中で漠とした不安にとらわれて「何だろう」と考えたらこの本を読むのを途中でやめてしまったせいだと気づいた。つまりそれぐらい引き込まれたというわけ。なぜか?登場する主婦らの犯罪があまりにも危うくて見ていられないからかもしれない。映画だったらどんな描き方になるのだろう。さて映画化はどうなるのかなあ。

 「弔辞大全」は作家や俳優など著名な人々への弔辞をまとめた1冊。弔辞にはそれぞれ生前のエピソードが盛り込まれていて興味深い。しかし、この本の弔辞を書いた人たちも多くが鬼籍に入っている……

 「宣戦布告」はおもしろいぞお。極めてリアル。日本の公安警察や自衛隊、県警などの組織が詳しく描かれていて「ほんとにここまで書いていいの」という気になる。本当に現実の日本でも起こりうることだけに、余計にリアルに感じてしまうのだ。「下」の方も早く読みたいのだけど、先輩が借りていってしまった。いつになったら返してくれるのかなあ。  


7月17日

記者1
「インド夜想曲」(アントニオ・タブッキ、白水社)、「性愛人類史観エロトポリス」(荒俣宏・集英社)、「島へ」(高田宏・小学館文庫)
 このところ、忙しくてほとんど本を読む暇がなかった(山笠に狂っていたため)。虚脱状態で仕事していたら、かつてこの欄で書いた車谷長吉の「赤目四十八瀧心中未遂」が直木賞のニュース。ちょっと読みにくい文章だったが、濃い作品だったなあ映画化したら面白いだろうな。

 「インド夜想曲」は不思議な本。よく読みこまないとなんだかわからなくなってしまう。「エロトポリス」は荒俣独特の雑学大成の一つ。ピンナップの歴史から性をひもといた。写真を眺めているだけでも楽しい。「島へ」は12の島への旅の物語。私も島で育ったからどうしても島にはこだわってしまう。ぶらり旅がしたいなあ。  


7月24日

記者1
「宣戦布告・下」(麻生幾・講談社)、「アフリカを食べる」(松本仁一・朝日文庫)、「私のものの見方考え方」(松本清張・学陽書房)
 いつか日本にも現実にこんな事態が来るのではないかと思わせた「宣戦布告」の下巻をようやく読み終えた。法的にもがんじがらめになって身動きができない日本の防衛体制が下巻ではこれでもか、と描いている。平和ボケした今の日本を考えれば、強烈なインパクトを持った本だった。

 「アフリカを食べる」の作者は朝日新聞の記者。文庫本を買って読んでいるうちにかつて図書館で借りたことがあったのを思い出した。それでも面白くて最後まで一気読み。アフリカの特派員だった作者は、象やミドリザル、いもむし、羊の頭……。ありとあらゆるものを食べるが、単なるグルメと違って、アフリカの風土や民俗、生活とからめて語られていて興味をそそるのだ。いやみのない文章で、こんな記者になりたいと思わせる本です。

 「私の……」は清張さんの人生論。学歴がなくて苦労した彼の生き方や憲法9条に対する考え方などを語っている。清張さんの作品の背景にあるものが見えてくるような……  


8月6日

記者1
「不夜城」(馳星周・講談社)、「新聞が面白くない理由」(岩瀬達哉・講談社)、「現代<死語>ノート」(小林信彦・岩波新書)
 映画化されて話題になった「不夜城」をようやく手にした。映画はどうかしらないけれど、本は面白いねえ。ハードボイルドだよ。かつて学生時代に飲み歩いていた新宿が舞台だけど、ずいぶん行ってないな。この本にあるように、今や中国人や台湾人の街になっているのかしらん。そんな話も聞くけれど本当かしらん。いま浦島みたいな気持ちで読みました。すごい虚無的な主人公にしろ、すごく描き方が面白いのだけれど、終わり方はちょっと納得できなかった。こんな最期ってあるかい。B級映画のノリだな。

 「新聞……」はあちこちの書評で取り上げていたけれど、うーん、できればコメントは避けたいな。言わんとすることはすなわち正義。しかし、そんなに一面的に新聞の世界も切れるのかな、というのが実際に働いている記者の実感ではないのかなあ。いろいろなところで、この業界も改革していこうという気運は生まれているけれど、いろいろな各社の事情もあってそうドラスティックには変化できないのが現実ではないだろうか。この手の本は、みんな正義漢になってしまうから、最近、ちょっと苦手。

 「死語ノート」は結構、楽しんだ。読みながら「そうそう、こんな言葉があった」なんてうなずきながらページをめくった。もちろん知らなかった言葉もあるし、今も使うこともある流行語にまつわる歴史が勉強になる。

 ところで槌田さんのいう住井さんの娘って、増田れい子さんではないでしょうか。うちの社の先輩で、住井さんの娘って、増田さんしか知らないのだけれど……。熊井さんって熊井啓監督の奥さんでしょう? 間違っていたらごめんだけど。  


8月10日

記者1
「墜落死体−御巣鷹山の日航機123便」(飯塚訓・講談社)、「人間」(鎌田慧・ちくま文庫)、「新樹の言葉」(太宰治・新潮文庫)
 読みながら泣けてきた本だった。この「墜落死体」は。著者は当時、群馬県警の幹部として現場で指揮をとった。あれから13年にもなるんだなあ。あの事故の時、甲子園で球児らを追っていた私。そのころ、事故の現場ではいうに言われぬ苦労があったんだ。献身的に働いた医者や看護婦、警察官、自衛隊。その中で子供の遺体を前に「俺にはもうできない」と天を仰いで検死を拒否した刑事もいたという。自分の子供とだぶって見えて仕様がなかったに違いない。その気持ちが伝わってきて、辛かった。

 「人間」は鎌田さんのルポの一冊。いろいろな立場で自分らしさを貫いて生きている人たちを紹介している。学校から締め出されたけれど、逆境に負けずに自分の道を切り開いていった「内申書裁判」の保坂展人さんの半生や、裁判官だったのに、ずさんな捜査を見抜いて弁護士に転身し、死刑囚の無罪を勝ち取った財田川事件の矢野伊吉さん……。読みやすくていい本だと思う。

 「新樹の言葉」は雑誌「ダ・カーポ」に載っていた「読みたい文庫」の一覧の中にあったので、思わず買ってしまった。でも、今は心境として、この本にはきちんと対峙できるような状態じゃなかった。なんか辛気くさいというのか、うっとおしいというのか……。最後まで読まずにパス。  


8月20日

記者1
 「同盟漂流」(船橋洋一・岩波書店)、「西方冗土−カンサイ帝国の栄光と衰退」(中島らも・集英社文庫)
 ごつい本です、「同盟漂流」は。しかし、新聞やテレビを見てもなかなかわかりにくい政治の世界をずばりとえぐりだしています。かゆいところに手が届くというのか……。沖縄の基地返還をめぐるアメリカ、日本や韓国、中国の動きを綿密に書いています。クリントンや橋本元総理が何を考えて動いていたのか。アメリカの軍部中枢はどんな動きをしたのか。筆者は朝日新聞の記者。強烈な取材力を見せ付けられたうな気がしました。気合を入れて読まないと、眠くなるかもしれません。

 らもさんの本はほんとに楽しいよね。本人の出身地である関西をおもしろおかしく描いてくれています。途中で噴き出すこと数回。寝転がって読めますよお。

 ところでオフ会はいつやるの。善は急げ。飲み会も急げ。→横尾記者  


9月2日

記者1
「カリスマ−中内功とダイエーの戦後」(佐野眞一・日経BP社)、「天使に見捨てられた夜」(桐野夏生・講談社文庫)
これまたごつい本だよ、「カリスマ」は……。作者がライフワークとして取材してき たものをすべてぶちまけたような。戦後の流通業界の雄の表と裏をえぐりとっていま す。成功の底にある権力闘争。それに突き進まざるをえなかったと思われる戦争体 験。一人の人物を見事に描ききっているんです。もちろん、書かれるほうはいい気分 じゃないけれど……。 「天使……」は結構楽しんで読めたけれど、つじつまのあうようなあわないような部 分もあって、ちょっと不完全燃焼。

 


10月5日

記者1
「アフリカで寝る」(松本仁一・朝日文庫)、「日本逆さ望遠鏡」(鎌田慧・実業之日本社)、「島の時間−九州・沖縄謎の始まり」(赤瀬川原平・平凡社)、「眺めのいい部屋」(渡辺一枝・集英社)、「やさしいオキナワ」(池澤夏樹・PARCO出版)
 てっきり読書のページは終わったものと思っていたからずっとアップしていなかったら、なんといつの間にか再開していたんですねえ。で、この2週間に読んだのを上げました。「アフリカで寝る」は以前に読んだ「アフリカを食べる」と同じ著者の本。取材の旅先でのホテルや現地人のテントなど過ごした体験を描いている。ほとんど知らないアフリカ世界が真に迫ってくる感じだ。アフリカの多くの国々の飢餓状況を産み出している背景まで書き込んでいる。  「逆さ望遠鏡」は様々な企業人や産業界をルポした本。この不況時代を考えるきっかけになる本です。「島の時間」「やさしいオキナワ」は図書館で借りてきたけれど、いずれもほんのりとした気持ちで読める作品です。「島の時間」はいわば赤瀬川さんの原点探しの旅。「オキナワ」は写真たっぷりで楽しい。  「眺めのいい部屋」の写真は作者のご主人の椎名誠さんが撮影したもの。ふむふむとうなずきながら読めるコラムでした。

 


10月13日

記者1
「宿命」(高沢皓司・新潮社)、「新聞報道と顔写真・写真のウソとマコト」(小林弘忠・中公新書)、「不思議な世界」(山田太一・ちくま文庫)
 30年近く前になる「よど号ハイジャック事件」。「宿命」はあの事件で北朝鮮に渡った日本赤軍メンバーを追跡した力作。作者は北朝鮮に何度も渡航してメンバーと接触し交流するうちにわいてきた疑問を丁寧に追跡する。「メンバーのうち一人はなぜ公に出てこないのか」「メンバーの花嫁らはどうやって北朝鮮に入ったのか」。いろんな疑問に対する答えは読んでのお楽しみ。そら恐ろしくなってくる。

「新聞報道」は毎日新聞の先輩が書いた本だが、単なる顔写真にとどまらず、新聞と写真の関係について歴史的にも、また統計的にも洞察している。バブル時期の前後の社会と新聞のかかわりについての記述は耳が痛い。「広告収入は上昇、報道側はさらに景気をあおって株式投資をすすめるようになった。(中略)報道側も花見酒経済に酔いはじめ、着ぶくれ状態となっていた証拠が『みんなで報道すれば、それは正義となる』との突撃報道、報道のパック化現象で(中略)昭和のはじめからとくに顕著となっていた勧善懲悪報道の<完成>であったといえるだろう」。今も当時と同じような状況は続いていないかあ?

「不思議……」は気楽に読める本だが、薬とアルコールに浸った体験をつづる「睡眠薬系統」(中島らも)と心中事件を起こしたばかりの東郷青児との出会いを赤裸々に描く「或る男の断面」(宇野千代)はちょっと背筋が冷たくなるような……

 


10月19日

記者1
「漂流街」(馳星周・徳間書店)、「死んでもカメラを離しません」(宮嶋茂樹・クレスト社)、「報道写真家岡村昭彦」(松澤和正・NOVA出版)
 はっきり言ってあんまり面白くなかったな。「漂流街」は。セックスと暴力で彩られたバイオレンス小説。「不夜城」当たりをイメージして読み始めたけど、ちょっとねえ。ブラジル人と日本人のハーフを主人公に据えて東京の街を舞台に、在日の外国人と日本人の差別の構造もするどく描き出してはいるんだけど、あまりにもアナーキー。金や性への欲望(読んだらきっとこれもややワンパターンという気になる)がぐるぐる渦巻いていて、その描写があまりにもリアルなだけに、読んでいて全体のバランスが……。まあ、好きな人は好きかも。何作か読んで、私にはこの人が西村寿行さんのようなあるパターンを感じてしまうんですけど……。「死んでも……」は突撃取材の裏を教えてくれるから面白い。新聞社の報道写真とは違ったスタンスで獲物を追いかける姿は、いろいろな意味で教えられた。獲物に対する嗅覚というか、ねばりというか、最近、スマートになりすぎた報道の現場に対してはある種の警告ではなかろうかとすら思った。

 すごくまじめに対象に迫った本だったのが「岡村昭彦」。若い人は知らない人も多いかもしれないが、ベトナム戦争を追い続けた報道写真家。その生き様を自分の生き方と重ね合わせてたどった作品で、つい引き込まれてしまった。岡村のルポなども多用して、その生い立ちから、ベトナム、アイルランドなどの取材活動の足取りを作者がたどる旅を描いている。よんでいるうちに岡村というジャーナリストの重さ、大きさをひしひし感じて、もっと彼の本や写真集を開いてみたいという気持ちになってしまった。報道するとはどういうことなのか。現場に行くとは何を意味するのか。この本を読めば、岡村がそう問いかけていることを感じてしまいます。

 


10月29日

記者1
活字博物誌」(椎名誠・岩波新書)、「催眠」(松岡圭祐・小学館)
 最近、旅から旅でちょっと面白くなくなったなあ、と思っていた椎名さんの「活字博物誌」は、おススメの一冊。エッセイ風に語りながら、さりげなくいろいろな本の 紹介をしてくれる。すぐにでも図書館に行ってその本を探したくなるような、そんな気持ちにしてくれる「博物誌」です。いいなあ。やっぱりこの人の文章は。本を読んでいる量もその質も、そして深みも、段違いと感心しながら読んでしまいました。「催眠」はもしかしたら私の睡眠薬がわりになるかもと思いながら手にした本でしたが、どっこい。しっかり最後まで読み飛ばしてしまう本でした。多重人格の女性を主人公にした物語で、バイオレンスやセックスの描写はないのだけど、ずっと緊張しながらの読書になってしまいました。それほど引き込まれる本です。催眠や多重人格の描写は専門家に言わせたらどうなんだろうか。ちょっとそんなことを考えてしまいました。

 


11月6日

記者1
「淳」(土師守・新潮社)、「異見(あまのじゃく)」(鳥越俊太郎・現代人文社)
 2冊とも現代のジャーナリズムを考えさせられる本。「淳」はこのページの参加者の一人、簑原さんが書いていたけれど、本当はこの手の本は私は苦手。やっぱり最後の淳君の卒業式の場面では泣けてしまった。お父さんの守さんが指摘する「被害者へのマスコミ攻勢」。取材の現場にある者として身を切られる思いがする。しかし、かといって現場を放棄するわけにもいかないし……。難しい問題だが、要は現場にいる一人一人の記者たちの節度ある態度と良心にかかっている。  「異見」の鳥越さんは福岡出身で毎日のOB。だからと言って勧めるわけではないけれど、新聞やテレビの世界にこれから入ろうという人は一読の価値あり。彼のジャーナリズム日誌。新聞記者を経てテレビの世界で活躍しているだけあって、幅の広い視点を持っている。一つの事件が起きるとすぐに金太郎の飴的な現状に陥ってしまう日本のマスコミ状況を冷静な目で見つめ、本来のジャーナリズムとは何かを問いかけている。現場にいて安易に流されがちな私たちにとって耳の痛い言葉が多かった。

 


11月13日

記者1
「海燕ホテル・ブルー」(船戸与一・角川書店)、「受精」(帚木蓬生・角川書店)
 アトランダムに読んでいるつもりだけど、見直してみるとフィクションを読みたい時期とそうでない時期があるみたいだ。「海燕……」は導入がうまい。小説はやっぱり書き出しだなと思う。何気なく手にした本なのに、ぐんぐん引きずられて読んでしまった。あらすじを書くのは違反と思うが、男と女の出会い、安住することで、失うことの怖さを知り、繰り返される犯罪(なんのこっちゃ)。まあ、読めばわかります。面白くて一気読み。  「受精」は帚木さんの最新刊。久しぶりにこの人の本を手にした。ちょっと荒唐無稽に感じるのは、彼の作品がこれまですこぶるリアリティーがあったためだと思う。仕掛けがあまりに大がかりすぎて、なじめない。でも、風邪を引いた夜、のどが痛くて午前3時に目が覚め、この本を手にしたら、結局、朝までかかって一気読み。悪い作者ではある。おかげで今日はふらふらだ。

 


11月25日

記者1
「国家と犯罪」(船戸与一・小学館)、「現代ヤクザのうら知識」(溝口敦・宝島社文庫)、「清貧の食卓」(山本容郎編・中央公論文庫)、「ブランド魚入門」(野村祐三・詳伝社)
 このところ忙しくて重たい本を読む余裕なし。地下鉄や会社のソファーで寝ころんで読むような本が多かった。「現代ヤクザ……」はあの世界の実態を時折、実名を入れながら書いているのだけど、よく聞く話も多かった。ざっと目を通した程度。「清貧の食卓」は楽しいよお。いろいろな著名人たちがいわゆるグルメではなく、こだわりの食べ物をそれぞれたっぷり描いている。食欲の秋にはもってこいの1冊だな。「ブランド魚入門」は魚釣りや酒の肴として魚が大好きな私にはたまらない本でした。関アジの関アジたるゆえんや、枕崎のカツオのうまさの秘密などがかきこんであるし、知らない土地のそれぞれの名物の魚のあれこれが、まるで旅をしているように読めて楽しかった。

 で、一番、読み込んだのは「国家と犯罪」でした。

 世界各地の少数民族を訪ね歩いている、いわばルポなのですが、この人の視点がスルドイ。メキシコのサパティスタ民族解放軍、キューバの現状。そして今や膨れ上がる中国とその下で抑圧されるチベットの現状。その中国の中で船戸はそこでこう結論しています。「こうして中華人民共和国の少数民族の民族主義は辺境での孤独な戦いを強いられることになるだろう。そうさせるのはもちろん先進諸国住民の薄っぺらなエゴイズムである。景気の好不調に一喜一憂するだけの存在と化したわたしたちの厚顔無恥さがそれを赦すのである」

 耳に痛い、そしてしびれる言葉でありました。

 


12月1日

記者1
「夜を賭けて」(梁石日・幻冬舎文庫)、「Z」(梁石日・毎日新聞社)、「キューバ・ガイド」(カルメン・R・アルフォンソ・H、海風書房)、「有名人の子供はつらい」(マルコム・フォーブス他、草思社)
 ごつい小説だった「血と骨」に魅せられて、この作者の本を2冊読みました。いずれも破天荒で、骨太な作者の生き方を感じさせる本です。「夜を賭けて」は大阪の造幣廠近くのアパッチ部落に生きる在日朝鮮人たちのたくましさ、悲しさを描いた力作。主人公が大村の収容所に入れられて苦しむ姿に、これまで知らなかった日本の過去の外国人政策を身にしみて感じました。この収容所のことを書いた本を探してみようと思ってます。  「Z」の意味は本の半ばまで読まないと分かりません。在日の主人公が韓国での自分の戸籍が死亡抹消されていることを知ってから事件に巻き込まれていきます。筋書きとは別に第2次世界大戦後の朝鮮半島の混乱や、今の政治状況に至るまでに大変な事件があったことを教えてくれました。それにしても知らないことが多すぎると、反省することしきりです。  「キューバ・ガイド」は博多山笠を一緒にかく仲間にキューバ人がいて、彼の国のことをあまりに知らないことに気づいて読んでみました。結構、シビアな政治状況の国という認識はあったけど、読んでいると自然や気候は天国みたいで……。「有名人の子供はつらい」はホント面白かったよ。世界中の著名人の子供たちの生き方を追った本。酒におぼれて身をほろぼしたガンジーの子供や親子2代、研究で放射能を浴びて白血病で亡くなったキュリー夫人母娘など……。読んでいてつくづく本の題名の意味がわかった。

 


12月8日

記者1
「燃える地の果てに」(逢坂剛・文芸春秋社)、「雷鳴」(梁石日・徳間書店)、「肝臓先生」(坂口安吾・角川文庫)
 うちのサツキャップが「面白いよ」と勧めてくれたが、横文字の登場人物が出てくる小説は苦手で1カ月ほど「つん読」状態だった「燃える地の果てに」。ところが、どっこい、読み始めると止まらない。1966年、スペインに核兵器4個を積んだアメリカの爆撃機が墜落した事件を題材に、過去と現在、日本とスペインを結んで描く傑作だ。当時の世界の政治状況に加えて「ギター」という小道具と「スパイ」の存在がぴりりと全体を締めている。性描写も抑制がきいていて目障りじゃない。いい本です。行ったことのない国の情景が目に浮かんでくるようで。  「雷鳴」は韓国済州島に生きる女性の物語。激しい、骨太な男たちの生き様を描いた作品が多い作者だが、これはどちらかというと哀しい恋の物語。自分より8歳も年下の夫と結婚させられた女性が、かなわぬ恋と、相手の死で自分の生きる道を見つけ、因習にとらわれた島から逃れていく話。かつての日本の侵略の様子やそれに協力してしまう島の人々の姿も。  映画「カンゾー先生」を見て、原作はいかなりや、と買い求めた「肝臓先生」。うーん、映画と同じような描写はあるにはあるが、舞台も物語も全然違うじゃないか。参りました。原作とはあるけれど、映画は完全な「今村昌平ワールド」だったのねえ。

 


12月15日

記者1
「子宮の中の子守歌」(梁石日・青峰社)、「会社人間たちの末路」(朝日新聞社会部・ダイヤモンド社)、「荒木!」(飯沢耕太郎・白水社)
 作者の自伝とも言える「子宮の中の子守歌」。そのある一面が切り取られてその後の彼の作品に膨らんでいるというのがよくわかる。たとえば「血と骨」に出てくる巨魁の父親。「子宮の……」の中でも乱暴で勝手気ままな親父として登場する。傷心の まま大阪を飛び出して仙台に流れて生きる主人公。一見、無意味と思える人生に女性たちの存在が陰影となって登場する。生というよりも死に向かって突き進んでいるとしか思えないカオスの世界だ。やっぱりどろどろした本だった。

 「会社人間たちの末路」は朝日の連載をまとめた本。改めて読むと、自分もやはり会社人間なのかなあと、思ってしまう。背筋が凍るような話もあるんです。はあ〜。中でも自殺した鉄工所部長の話は哀しかったなあ。

 感動したのは「荒木!」だった。かの天才写真家、荒木経惟論。彼の生い立ちから家族、妻、陽子さんとの出会いとその死などをじっくり描いている。もちろん写真も多数。彼の写真を見ながら読んでいるとちょっと目があつくなってくる。そして、彼 の写真にひかれるのか、わかった。彼の写真には「死」が見え隠れするのだ。本の中で紹介されている吉増剛造の詩「詩の舟」がいいなあ。「荒木陽子さんに」という献辞を持つ詩。

  「それとは知らずに死の舟が行く
   ーー腕を上げて、手をひらいたり、ただにぎってみたり」

 写真集「センチメンタルな旅」の柳川の川下りの写真となぜかだぶって見えてきて……

 


12月21日

記者1
「猟奇連続殺人の系譜」(コリン・ウイルソン、青弓社)、「司法戦争」(中嶋博行・講談社)、「シベリア動物誌」(福田俊司・岩波新書)
 かつてはよく読んだコリン・ウィルソンだけど、このところは全然手にすることはなかった。図書館で見かけて「どれどれ」と手にしたが、やっぱり……。猟奇犯罪の紹介で、読んでいて最後はくたびれて、ふう、とため息ついちゃうんだよなあ。サツ担当だから、結構、興味はあるんだけど、やはり実際に起きた事件のことを読むというのは疲れるもんである。  「司法戦争」は熱中しました。日本の司法界へのアメリカ弁護士らの進出と、日本の司法制度を陪審制度に変えるという2本の糸が複雑に絡み合いながら起きる殺人事件。その舞台が最高裁判所で、解決するのが検察と裁判所の交流で判事になっている女性検事というのだから……。ちょっと飛躍は感じるけれど、決して嫌みがない。小説を楽しみながら日本の裁判制度の在り方が学べるという一石ニ鳥の本。

 動物ものと言えばすぐにアフリカとか暖かい所を思い浮かべるけれど、どうしてどうして。寒いシベリアにもいろいろな生き物が生きている。この「シベリア動物記」はそんな生き物を実にきれいな写真と巧みな文章で紹介した本。トラやシロクマなどの動物や昆虫もいいけれど、美しい火山のある風景には参ったね。一度は訪れてみたいという気持ちにさせる写真の数々でした。

 


平成11年1月4日

記者1
「夜の河を渡れ」(梁石日・徳間文庫)、「人間臨終図巻」(山田風太郎・徳間書店)、「17歳」(橋口譲二・角川書店)
 「夜……」はまるで馳星周を読んでいるような錯覚に陥ってしまった。何せ舞台は新宿。馳の強烈な暴力シーンなどを除けば、街の底辺で絡み合いうごめいている人間像は一緒だ。それぞれが強烈な個性で生きている姿はやはり引きつけられずにはいられない。  「人間臨終図巻」は下巻。かつて上巻は読んだのだけど、中下巻はまだ読んでなかった。図書館で探してきたけど、いつも貸し出し中なんだもの。いろいろな著名人の死に様を集めた本。上巻は若いうちに亡くなった有名人だったけれど、下巻はかなり年をとって死んだ人たちの物語だ。のたうち回ってあの世に行く人、瞑目しながら悟りのうちに向かう人。いろいろな死があるんだと感じる。どちらかというと上巻の方が若くして死んだ人たちを集めているだけに強烈だったなあ。

 手にするのは2度目の「17歳」は文字通り17歳の肖像を集めた写真集。以前は何気なくめくって「ふーん」という感じだったが、今度は結構、楽しみながら眺めた。もしかしたら自分の娘がその年になったので興味があったのかもしれない。最近読んだ本や小遣い、将来の夢などのコメントも掲載されていて、自分の17歳の時と比べてみてしまう。結構、みんなしっかりしているんだなあ、と感心した。いつ撮影したのか失念してしまったけれど、10年後、20年後の彼らの肖像を集めた写真集をぜひ見たいな。

 


平成11年1月11日

記者1
「王の闇」(沢木耕太郎・文春文庫)、「刑事たちの夏」(久間十義・日経新聞社)、「果つる底なき」(池井戸潤・講談社)
 マラソンの瀬古や交通事故で亡くなったボクシングチャンピオンの大場など、スポーツのシーンで活躍した人々を追ったノンフィクション。それぞれの主人公たちに大きな影響を与えた人物が登場する。自分の肉体の限界に挑む主人公とそれを見守る人物たちとのぴりぴりした緊張関係がとても興味深い。誰でも知っているような有名なスポーツマンたちのある意味では裏の顔が見えたような……。

 「えっ、こんな面白い小説を新聞でやっていたの?」とうなってしまったのが「刑事たちの夏」だった。大蔵官僚の飛び降り死を巡って国家や官僚内部の権力争いが水面下でうごめいて、事件をゆがめていく。それに立ち向かっていく、ある意味では破滅的な刑事。金と権力に泥まみれになった現代日本の政治構造は昨年もいろいろな事件で承知の事実。それだけにこの小説にはリアリティーがある。読ませる小説でした。

 もう一冊の「果つる底なき」は今度は銀行を舞台にした本。ある行員の死を発端に、次々に事件が起きる。絡み合った糸はある会社に対する融資をめぐる疑惑を発端にときほぐれていく。ちょっと物足りないと感じたのは主人公があまりに沈着冷静、怒りや悲しみの希薄な人間に見えるせいかもしれない。だってこの前に読んだ「刑事たちの夏」に比べると、この主人公は現代っ子らしくって、妙に生き方もスマートで、なんか人間味がないんだもの。

 


1月20日

記者1
「会長はなぜ自殺したか」(読売新聞社会部・新潮社)、「空の色紙」(帚木蓬生・新潮文庫)、「贅沢貧乏のマリア」(群ようこ・角川文庫)
 「会長……」はいい本だ。紙面をにぎわした大蔵省や銀行の事件の背景を実に丁寧に描いている。自殺した第一勧銀会長の宮崎邦治が佐賀の出身だったことを初めて知った。きわめてまじめな人だったようだ。西南学院から九大法学部。東大や京大のエリートが幅をきかす都銀のなかにあってひたすら実直に生きてきて、不祥事が明るみに出て自殺した。「武士とは死ぬことと見つけたり」の葉隠れの精神を貫いたような生き方だったのだ。上司追従型の日本式サラリーマン社会にいつの間にかどっぷりつかり、最後は失意の中に散っていった。総会屋や官僚、銀行マンたちの実態に鋭く迫った本で、参考になります。 「空の色紙」は帚木さんの初期のころの作品3本を収めた本。そのうち「空の色紙」は知覧から特攻隊で散っていった兄の妻と結婚した主人公の心に潜む嫉妬を絶妙に描いている。九大のファントム墜落事件をベースにした作品もあって、やはりこの人の本は身近に感じられる。群さんの本はかつてはよく読んだのだけど、最近は手にしていなかったなあ。自分の生活を重ね合わせながら、森茉莉の人生を描いている。ふーん、人間の描き方にはこんなエッセイ風の方法もあるんだ、と正直、感心してしまった。

 


1月28日

記者1
「Twelve.Y.O」(福井晴敏・講談社)、「色ざんげ」(宇野千代・新潮文庫)、「スカウト」(後藤正治・講談社)
 人間の想像力とは果てることがないものらしい。「T……」はまさにそれを感じさせてくれる本だった。飛躍は感じるが、それを嫌味なく落ち着かせているし、日米の防衛問題にもぐさりと大胆にメスを入れている。作中の登場人物が語る国家観、軍事防衛への意見はそのまま筆者のものなのだろう。題名の意味は本を半ば過ぎまで読んでいってわかる。日本の国家としての精神年齢と、主人公が心に大きな傷を負った年齢と……。それらをうまくかみ合わせて世界を描く。あんまり言わない方がいいかな。

 「色ざんげ」は正月に実家にあったのを拝借してきた本。実は宇野さんの本を読むのは初めて。レンアイというものは実は、昔も今も変わらないものなんですねえ。ただ、コミュニケーションの手段が限られていた昔の方が、奥ゆかしいというか、逆に 想像力をかき立てて激しいというか……。緊急の連絡は電報なんだもの。

 「スカウト」はプロ野球にあんまり興味のない私でも、へえーと感心しながら読みました。木庭教さんを中心に、有望な選手たちを見いだし、育てていくスカウトたちの姿を追っていく。その中には昨年、沖縄で飛び降り自殺した三輪田さんも。野球にかける情熱や思いが伝わってきました。

 


2月10日

記者1
「屍鬼 上・下」(小野不由美・新潮社)、「トンデモ本の世界」(と学会編・宝島社文庫)、「会いたかった人」(中野翠・徳間書店)
 お勧めできません、この「屍鬼」は。ホラー小説なるもんはこれまで読んだことはなかったのですが、会社の本棚にあってつい手にしたのが間違いでした。なにしろ上下で1200ページ。そのほとんどがおどろおどろしい文体で書かれていて、内容もこれまた死、死、死のオンパレード。途中でよっぽど読むのをやめようかと思ったけれど、やはり結末を知りたいのが人の常。うなりながら最後まで読んでしまいました。ようするにドラキュラとゾンビ、オオカミ男の世界が日本の寒村にそのままやってきたというお話でした。まあ、ホラーが好きな人は好きでしょうけど……

 うって変わってげたげた笑いながら読んだのが「トンデモ本の世界」でした。いるんですねえ、世の中にはけったいな人が。そんなけったいな人たちが書いた本を紹介しているんだけど、これが面白い。冗談ではなく、よく読みこなしている。そして矛盾や常識との違いを突きつける。出版の世界ってけっこうええかげんに本を出しているだなあと、思ってしましました。

 「会いたかった人」は本などを読むためのガイドになる本ですね。中野さんが世界のいろいろな人を取り上げて「会いたかったあ」と言う訳です。それぞれの文章は短くて残念だけど、結構、気になる人がいて、次はこの人に関連した本を探してみようと思います。ダイアン・アーバスに熊谷守一、左卜全など、種種雑多な人たちのオンパレードで、楽しいです。

 


2月24日

記者1
「ナイト・トレイン異境行」(辺見庸・文芸春秋)、「リプレーの奇人不思議館」(伴田良輔訳・河出書房新社)、「笑うヤミ金融」(北田明子・ダイヤモンド社)
「ナイト・トレイン異境行」(辺見庸・文芸春秋)  いい本です。作者のベトナム滞在記なんだけど、ホテルのベッドやネズミ、その他もろもろの事象を描きながら、作者の魂をそこに盛り込んでいます。もののとらえ方、描き方が巧みなんですよねえ、この人は……。書くことのおもしろさを再認識させてくれた本でした。

「リプレーの奇人不思議館」(伴田良輔訳・河出書房新社)  眺める本です。かつてアメリカの新聞に掲載されたどっきり写真を集めています。かなり無意味なことにかける人たちの物語。「えっ、こんな人もいたの」と思わせます。今で言えば某スポーツに掲載されるような奇人たちです。

「笑うヤミ金融」(北田明子・ダイヤモンド社)  システム金融ってご存じ? 今、あちこちで摘発されているヤミ金融です。作者の友人がこれにやられて、その実態を暴き出す経過をつづっています。大阪の事件ですが、本拠地は博多だったそうです。勉強になりました。でも、こんな事件はほんとは新聞が調査報道でやらなくてはならないんだけど……。


3月8日

記者1
「元禄御畳奉行の日記・尾張藩士の見た浮世」(神坂次郎・中公新書)、「かけがえのない日々」(柳田邦男・エンジョイ出版)、「高橋和巳という人」(高橋たか子・河出書房)、「断層海流」(梁石日・青峰社)

 面白い本に巡り会うとほこほこと幸せな気持ちになるもんだ。酒席でも結構な話題になる。「元禄御畳奉行の日記」はまさにそんな本。1600年代後半を生きた尾張藩の武士の日記。27年間8863日にわたって時代の様々な事象をつづった記録マニア、朝日文左衛門は酒好き女好き、芝居好きの侍。世相を赤裸々に書き留めている。

 これが楽しいんだな。あんな時代から贅沢する奴はぜいたくしている。徹底的に酒を飲み、ただれた生活をする侍たち。ちまたには不倫や心中などがありふれて、刃傷ざたの事件もぞろ。まったく300年後の今もそんな世相は全然変わってないじゃない。これはもしかしたら世紀末という共通項でくくれる事象なのだろうかな。実はこの本を読んだのは「かけがえのない日々」で紹介していたから。医療に造詣の深いまじめなジャーナリストのエッセイ集だけど、結構、自分の私的な部分もあからさまに書いていて興味深く読みました。

 残り2冊は期待はずれ。かつて浪人時代から大学にかけて高橋和巳にぞっこんだった。その妻による高橋和巳の思い出は彼の死後にも出版された。この本はそれから25年目ということで、高橋和己に対する思いがどう変わっているのか、興味深かったのだけど……。「断層海流」の筋書きがやや強引だし、結末もなんか中途半端な気がしてならなかった。


3月18日

記者1
「汝を子に迎えん−人を殺めし汝なれど」(松下竜一・河出書房新社)、「写真とグロテスク」(飯沢耕太郎・トレビィル社)、「カミーユ・クローデル」(レース=マリー・バクス、みすず書房)、「西蔵放浪」(藤原新也・朝日文芸文庫)

 横尾記者ではないけれど、転勤つきものの宮仕え。この時期になるとやはり落ち着きません。私も大阪へ。5月から単身赴任で、あれやこれやと、よしなしごとに時間を費やしている次第です。こんな時こそ活字世界に逃げ込むに限ります。「汝……」は読み始めたら本の方が離してくれません。睡眠不足もなんのそのの一気読み。3人の母子を残虐に殺害した人間を、養子として迎え、生きることの意味を考えようという女性の牧師。犯罪の背景は、その罪とは、償うとは……。いろいろな問題をぐっと突きつけてきます。

 「写真とグロテスク」は図書館で借りてきたけれど、ずいぶんと落丁というか破いてあって腹が立ちました。写真の歴史を別の側面から紹介しているのだけど、肝心の写真が破かれてちゃねえ。ひどい奴もいるもんだ。「カミーユ」はかつて見た映画を思い出しながら読みました。映画は史実に結構忠実に作っていたんです。それにしてもカミーユは薄幸な女性です。

 心がざわついているときには「西蔵」です。旅の物語ではあるけれど、決して観光や旅行ではありません。作者の自分を探す旅というのか……。決してこびず、決して怖じけず。淡々とその国と人々と歴史を見つめ、その中にインドから放浪してきた自分の行く末を求めようとしている深い味わいの本です。まあ、いろいろな嫌なことがあったら、またページをめくろうと思っています。

 


4月2日

記者1
「人生道」(青木雄二・徳間文庫)、「愛蘭土紀行T」(司馬遼太郎・朝日文芸)。「大阪学」(大谷晃一・新潮文庫)

 「人生道」は、かの漫画「ナニワ金融道」の作者の本です。巻頭は漫画。なぜ、彼が「ナニワ金融道」を描き始めたのかがよくわかります。いわば自伝。その激しさというか、さすがに関西でんな……と感心してしまいます。あとがきはあの「突破者」の宮崎学さん。同じ京都出身で、育った境遇もほんとに似ているんですね、2人とも。

 NHKの番組を見て「これは読んでみないと」と思いこんで買ってきました。なぜアイルランドの紛争はいつまでもくすぶるのか。隣同士の島国なのに、文化も気質もなぜこう違うのか。底に流れる歴史や民族性を解き明かしていく旅です。それにしてもこの作者はさすがです。見識の高さと言うべきか、洞察力と言うべきか……。続いてUもよもうっと。

 「大阪学」の作者は元朝日新聞の記者だそうです。転勤先のことは少しくらい勉強しておかなければ、と手にしました。不法駐車やお笑い、きつねうどん、スーパーなど文化や生活の面で関西と関東の違いを際だたせているのが面白いですねえ。なるほどと思うことも多々。徹底的に自分をおとしめて笑いをとって相手の中に入っていこうとする大阪。建前を大事にして箔を付けて勝負しようという東京。楽しくも面白い文化論です。

 


4月20日

記者1
「沖縄・先島への道」(司馬遼太郎・朝日文庫)、「豆腐屋の四季」(松下竜一・講談社文庫)、「ルイズー父に貰いし名は」(松下竜一・講談社文庫)、「早く昔になればいい」(久世光彦・新潮文庫)

 「愛蘭土紀行」の2巻を読む前に、誘惑に負けて「沖縄・先島」に手を出してしまいました。ちょうどセンバツの優勝旗が初めて沖縄に渡ったころ。興味深く読んで読み終えた夜中、ちょうどNHKでこの本をそのまま映像にしたシリーズをやってい て、その美しい自然、人の心に触れられたような気がして倍の感動でした。

 松下センセの本はずいぶん読んだような気がしていましたが、その原点でもある本を読み忘れていました。「豆腐屋」はいい本です。感じ入りました。自分の人生をあるがままに受け入れて生きるセンセの姿がぽっと心に灯をともしてくれます。特に母親のことを回想する文章は涙なしでは読めませんでした。いろいろなハンディを背負った子どものセンセを「強くあれ」と諭すのではなく、あくまでも「優しくあれ」と教えた母親の偉大さ。目のそこひを優しさの表われで星と表現した母の強さ。うー、参りました。この本はテレビ化されたそうだけど、なんとか見られないかなあ。

 「ルイズ」もいい本です。Tシャツ訴訟の原告だった伊藤ルイさんのことは聞き知ってはいたけれど、こんなに哀しくて激しい人生を生きていたなんて……。今は亡き人になってしまったのが悔やまれます。もっと早くこの本を読んでいれば……と思 いました。

 「早く……」は幻想的でどこか滅びを感じさせる文章に魅せられてしまいました。初めてこの作家の本を手にしたけれど、ちょっと病みつきになりそうな……。

 


5月31日

記者1
「兵士に聞け」(杉山隆男・新潮文庫)ほか

 大阪に転勤するはずだったのに、体調を崩して引っ越し前日に入院するというていたらく。以来、1カ月、病院暮らしが続いていて、この欄もごぶさたしていました。仕事への本格復帰はまだまだ先になりそうです。1カ月のうち、前半はうんうんうなっていて読書どころではありませんでした。ベッドに縛りつけられたままの後半はテレビとラジオ、読書しかない生活。差し入れてもらった本などアトランダムに読みふけりました。1カ月分の書名を羅列します。

「兵士に聞け」(杉山隆男・新潮文庫)、本来なら新聞が避けては通れないテーマ。素顔の自衛隊に迫ったルポ。面白かった)▽「小国主義」(田中彰・岩波新書、明治からの日本の帝国主義(軍事大国路線)を小国主義の視点からとらえなおした著作で、目からうろこの箇所も)▽「古代エジプトを発掘する」(高宮いずみ・岩波新書、ふーんとうなづきながら)▽「癌になって考えたこと」(竹中文良・文春文庫、ベッドの上だったので憂鬱になった)▽「中国医学はいかにつくられたか」(山田慶兒・岩波新書、途中でリタイア)▽「医の現在」(高久史麿・同、現代医療のまとめで、参考書を読んでいるような……)▽「愚か者の舟」(海老沢泰久・文芸春秋、バブル経済を背景にしたミステリーだけど……)▽「トライアル」(真保裕一・同、いろいろなギャンブルをテーマにした短編集)▽「蒋介石」(保阪正康・文春文庫、文中に誤植を見つけてしまった)▽「子どもにウケる科学手品77」(後藤道夫・講談社、ほんとに子供が喜びそうな本)▽「科学鑑定」(石山G夫・文春新書、福岡の事件なども取り上げています。参考書に近いかな)


6月14日

記者1
☆「森に降る雨」(関川夏央・文春文庫)☆「トランクの中の日本〜米従軍カメラマンの非公式記録」(ジョー・オダネル、小学館)☆「青春を山に賭けて」(植村直己・文春文庫)☆「地を這う虫」(高村薫・文春文庫)

☆「森に降る雨」(関川夏央・文春文庫)
 どこか偏屈者のにおいをぷんぷんさせている作者だけど、読んでいるうちにその生い立ちなどを知って納得。文章が勉強になる。言い回しや修飾語がぴりりと効いているのだけど、それが嫌味になっていないのがすごい。

☆「トランクの中の日本〜米従軍カメラマンの非公式記録」(ジョー・オダネル、小学館)
 図書館から何気なく借りてきた写真集だけど、考えさせられることが多かった。戦後直後の佐世保、長崎、博多の街や風景を撮影したモノクロ写真。この筆者は占領軍としてだけではなく、一人の人間として被爆地ナガサキなどの惨状をファインダーを通して見つめていた。スミソニアン博物館で写真展を企画したら、アメリカの在郷軍人会からいちゃもんがついてお蔵入りになったといういわくつきの写真だ。その中でも、長崎で、死んだ弟の遺体を荼毘する少年の写真は心を揺さぶる。直立不動でぐっと前を見つめる少年のまなざしが痛い。生きていれば70歳近くになっているはずなんだけれど……

☆「青春を山に賭けて」(植村直己・文春文庫)
 マッキンリーで遭難死した植村さんだが、彼の人生についてはこれまで全然知らなかった。単に冒険家として見ていただけだったが、いやどうして。豪快な生き方をしたんだなあ。その生き方を知ると、なんか元気がわいてくるような……

☆「地を這う虫」(高村薫・文春文庫)
 元刑事たちを主人公にした短編集です。読みやすいし、読ませます。いろいろな事件や出来事を通して、どうしても前の仕事(刑事)の本能を捨てきれない男たちの姿を描きます。あっという間に読んでしまった。


6月24日

 
記者1
「ヒトラーの震え・毛沢東の摺り足」(小長谷正明・中公新書)、「生の時死の時」(共同通信社編)、「インターネット中毒」(キンバリー・ヤング、毎日新聞社)

「ヒトラーの震え・毛沢東の摺り足」(小長谷正明・中公新書)
 NHKでかつて放映された「映像の世紀」シリーズの録画ビデオを最近、見ていたら、連れ合いが「末期のヒトラーの手が震えて変」と言いおった。そのことが頭にひっかかっていたらなんと本になっていたのですねえ。よかれあしかれ、歴史を作った人たちというのはなんらかの病を抱えていたんです。歴代アメリカの大統領にレーニン、スターリン、そして毛沢東。もし彼らが肝心な時に病気でなかったら……。そんな仮説を考えるとそら恐ろしくなります。ヒトラーだって、もし正常な判断力があったら無謀な冬のソ連進軍なんてことはやらなかったかもしれないし、そうなると、世界の歴史は変わっていた……なんて。

「生の時死の時」(共同通信社編)
 共同通信の企画ものをまとめた本。世界各地での死にまつわる話を並べていて、読ませます。それぞれの民族や宗教による死のとらえ方の違いはそのまま、生きることに対するこだわりや価値観となって反映されていることが浮き彫りになります。どちらかというと各地の死にまつわる見聞録のようで、読みやすい、こなれた本ではありました。

「インターネット中毒」(キンバリー・ヤング、毎日新聞社)
 しばらく前に話題になった本です。ネットの魅力に埋没してしまった海の向こうの人たちの事例がこれでもか、これでもかと。ネット中毒はアル中や薬物中毒と一緒なのだそうです。家庭破壊や人格破壊につながるのだそうです。家でパソコンをいじっていると、この本を盾に「あなたも中毒だ」といじめるので、途中で嫌になってしまいました。

 


7月7日

記者1
「アイランド・ライフ」(ジェフリー・S・アイリッシュ、淡交社)、「刻まれたシーン」(後藤正治、ブレーンセンター)、「ルポライター事始」(竹中労、ちくま文庫)

 うーん、最近皆さん、更新してないので寂しい。仕事が忙しいのかな。私の場合は忙しくなると、本の世界に逃げ込みたくなるのだけど……。

 「アイランド……」で描かれている島は、東シナ海に浮かぶ鹿児島県の下甑島です。実は私自身もこの島で小学校の3年間を過ごしました。作者が暮らした手打という集落にはその3年間、一度も行ったことはないのですが、読みながらその言葉遣い、風習、島の人々の暮らし、そして精神的な豊かさを感じて「分かる、分かる」とうなずいていました。時として、外国人の方が日本人よりも日本の本当の姿を見ているような気がします。この作者も島に渡って漁師として過ごし、人々の心の糸に優しく触れてきたのです。阿久根市を熊本県にしてしまうなど、多少のミスはご愛敬。人の心の感じ方は世界中、共通なんだということを教えてくれる本でした。

 「刻まれたシーン」はスポーツ界の名だたる人たちのドラマを追ったルポルタージュです。へえ、こんな名場面もあったの。なんて感心しながら読みました。あとがきを読んだら、なんと朝日新聞で連載された企画だったのね。

 竹中労と言うと若い人の中には知らない人も多いかもしれないけれど、すごいおっさんだったのです。この人の文体、独特で、読みにくさを感じるかもしれないけれど、私は学生だったころ、結構熱中しました。なんと亡くなってから文庫本になったのですね。この歳(厄年)になっても、この人の毒舌、はちゃめちゃさにぐんぐんと引き込まれてしまうのです。芸能ジャーリズムの分野だけでなく、沖縄や中国、アジアへも広く目を向けて、ひたすら己に正直に生きたおじさんです。ルポの根幹である「書くこと」への志を、苦さをもって思い出させてくれました。


8月2日

記者1
「永遠の仔」上・下(天童荒太・幻冬舎)、「露出者」(下関マグロ・メディアワークス)、「芥川龍之介」(関口安義・岩波新書)、「中学生日記」(QQB・青林工藝社)

 それぞれつらい過去を背負った3人の少年少女の物語が、複雑に絡み合って展開していきます。「永遠の仔」。今も問題になっている児童虐待をこれでもか、これでもか、と。虐待は、今の自分には関係ないことだと思っても、この本はそれをぐいと突きつけてきます。それに事件が加わって……。引き込まれてしまって上下を一気に読み終えました。面白かったですが、憂鬱にもなりました。

 筆者の下関マグロの名は知ってますか? モノの本やその手の世界では有名人です。自分の電話番号を女性週刊誌などに掲載して反応を待つ。いわば自宅テレクラを実践したのですねえ。自分の生い立ちやこだわりも語りながら、かかってきた電話などを紹介してます。うーん、あからさま。私には想像も及ばない世界ではあります。それだけに楽しく読んじゃいました。好きな人には好きな世界です。

 「芥川……」は改めてかの大作家の人生を知る本です。彼の周囲で同時代に生きたのはそうそうたる人たちだったのです。時代が違うとはいえ、当時の世の中や人生に真正面に向き合っていた群像を知ればしるほど、自分たちの生きている時代やおのれの人生を考えさせられます。

 「中学生日記」は漫画です。日経新聞だったかな、なんか賞を受けた本だったので、さっそく予約して読んでみましたが、面白い。中学生になったばかりの息子の姿とだぶらせながら、げらげら笑って読んじゃいました。せいいっぱい背伸びして大人を意識しながらも、その一方でまだ幼い心。虚栄と見栄と、傷つきやすいこころ。たいがいの大人が忘れてしまった青臭いあのころですよ。「よくわかる」漫画でした。

 

 

8月23日

記者1
「男の顔面」(荒木経惟・文芸春秋)、「家はあれども帰るを得ず」(関川夏央・文春文庫)、「知識的大衆諸君これもマンガだ」(同)、「地球生活記・世界ぐるりと家めぐり」(小松義夫・福音館)

 やはりアラーキーは女の写真だなあ。街角で撮ったおじさんたちを並べた写真集。生活に疲れた顔あり、遊びに夢中の顔あり。それぞれ味があります。今、興味があることや若い人たちについてのアンケートも一緒に載せていて、こちらの方が結構面白い。でも、かの写真家のイメージはやはりねえ。

 関川さんの本2冊。「マンガ」は結構熱中して読んだのもあって、ふんふんとうなずきながら興味深く読めました。「家」の方はこの人のどこかさめている部分がぐいぐいと前面に出てきているので、「読める」という気分の時でないと、それが鼻についちゃって……。男と女の関係についても、友だち感覚というのかな。ちょっと私にはついていけないような。  地球生活記は楽しい写真集です。世界中の人々の家が勢ぞろい。へエー、ホウーと、思わず言ってしまいそうな写真たちでした。においのある写真があるとすれば、この本の写真のことを言うのだろうなあと感じましたね。生活感が写真の中に込められているのです。

 


9月3日

記者1
「奇病の人」(マルセ太郎・講談社)、「あぶく銭師たちよ−昭和虚人伝」(佐野眞一・ちくま文庫)、「パチンコの歴史」(溝上憲文・晩聲社)

 マルセ太郎の本は面白いよ。がん宣告から入院などの体験と、そこで出会った人々のことを描いているのだけど、深刻ぶってない。彼の芸の原点が見えてきます。梁石日と同じ大阪・猪飼野の出身で、在日韓国人。なぜ芸人の道に進んだのか。彼の半生記でもあって、生きるパワーみたいなものを分けてくれる本でした。  金もうけに走った様々な人たちのルポルタージュが「あぶく銭師たち」です。かつてリクルート事件のまっただ中にいた社長、福岡進出でも大きな波紋を呼んだ大手予備校の経営者、テレビでもおなじみの占い師……。彼らがなぜ金儲けに走るのか。その仕事や業績の実態はどうだったのか。丹念に取材しています。そしてかなり実像に迫っているのです。同じ活字の仕事をしている身にとってとても参考になりました。
 全然もうからないので最近はとんと足が遠のいたパチンコ。この本はその題名の通り、興隆の歴史を追った仕事です。戦後、何も楽しみのなかった日本でどうしてパチンコが盛んになっていったのか。プリペイドカード導入でどんな思惑が動いたのか。一大娯楽産業になった裏側を描きます。でも、すっかりパチンコそのものに興味を失っている私にとっては、この本を読むことはなんか勉強しているような感じでもありました。

 


10月19日

記者1
「孤高の人」(瀬戸内寂聴・筑摩書房)、「オヤジとおふくろ」(文芸春秋編・文春文庫)、「見仏記」(いとうせいこう、みうらじゅん・角川文庫)

 うーむ、参ったな。そんな読後感でした、この「孤高の人」は。ロシア文学や絵本 などの翻訳で知られる湯浅芳子の物語。巻頭の写真でみると、どうしても男に見えて しまう。本文を読んでいて納得しました。なんとかの宮本百合子とレスビアンの関係 にあったんですねえ。男の立場から興味本位で見るべきではありません。真剣に相手 を愛し、傷つき……。その一人の女性の生き方を、親しくつきあってきた文学の先輩 として淡々と描いているんです。なにも最近の風潮ではないんですねえ。と言うより も、現代よりも時代が古くて周囲の偏見が強かっただけに、今よりずっと強いという のか、我が道を行くというのか……。いつもその時代にとって古くて新しい問題であ る愛と性と文学を、湯浅芳子という人間を通して描いています。これは一種のルポル タージュですね。

 「オヤジとおふくろ」はまあ、自分もそんな年になってしまったんだな、と読んだ あとに思いました。若いころは自分が生きることに必死で、親父やおふくろのことを 考えようともしなかったのに、だんだん彼らが年老いて、かつて彼らに反抗していた ように息子や娘が反抗期に入ってくる。親って一体、なんなんだろうか。その気持ち がきっとこの本を読ませたのだろうと思います。中でも早坂暁さんの「途方に暮れ て」はじんときました。やはり作家の人たちの描く親父やおふくろは趣がいささか違 います。

 楽しい本です、「見仏記」。かつて京都で浪人していたころ、寺を巡って仏像を見 るのが好きでした。時間があれば奈良まで足をのばして。仏像をじっと見るなんて、 こちらが何か思いを持って持っていなければ、まともに凝視できないのかもしれませ ん。読んでいて久しぶりに懐かしい感覚がよみがえってきました。せっぱ詰まったと いうのか、あとに逃げ場がないというのか。だからじっと仏像をみていたのかもしれ ません。この本は仏像めぐりの気軽なガイド本みたいです。でも、みうらじゅんって 小学生のころから仏像に思い入れがあったオタクですね。漫画もあるから気軽に読め ます。実は彼らが大宰府を訪ねた章がとても気になっていて、今度の休みにでもさっ そく仏像探訪に出かけようと思ってます。

ps:うーん、ほんとに誰もアップしないのねえ。こちらも刺激がないなあ。 「えっ、こんな本を読んでいるの」とかつてはつられて本屋に買いに走ったのだけれ ど……。みんな本を読んでないのかなあ。それとも読んでもアップしないのかなあ。 いずれにしてもアクセスしてくれる人に申し訳ないと思わないのかなあ……と最近い らいらしている私です。


11月8日

記者1
「お言葉ですが……」(高島俊男・文春文庫)、「貧乏だけど幸せ」(コロナブックス編集部・荒俣宏解説)、「県民性こだわり事典」(毎日新聞社編・PHP文庫)、「檀一雄の光と影・恵子からの発信」(入江杏子。文芸春秋)

 「日本語練習帳」が売れていましたが「お言葉ですが……」もほんとにためになる 本。というより、新聞の世界で働いているので、耳の痛い話が多かったです。例えば よく使われる「拉致」という言葉。新聞では「ら致」となって、なんかしまらない語 感になってしまう。毎日新聞では「赤本」という基本的な辞書があって、それに従う とどうしても「ら致」になっちゃうんです。高島さんは漢字の使い方を安易だと批判 しています。新聞社の漢字の使い方については近年、ルビを振るなど、ずいぶんゆる やかにはなってきているんだけど、漢字や日本語の使い方についてもっと敏感になっ ていいのでは、と痛感させられた本でした。

 「貧乏だけど幸せ」は写真がいい。今みたいに何でも手に入る時代ではなかったこ ろの写真集。荒俣さんの解説はとばし読みしてしまったけれど、写真はどこか懐かし くて、それでいて日本人がたくましく見えて……。これもいい本です。

 「県民……」は毎日新聞が編集した本です。東京の紙面で掲載された話のようで す。いろいろと飲み屋でも、ちょっとした話題にできる話が満載。例えば、全国で もっとも切り花の消費が多いのは鹿児島市だって知ってました? みんな先祖を大事 にしてよくお墓参りに行くからだそうです。

 「檀一雄の光と影」はかつて沢木耕太郎が書いた「檀」と対照的な本です。「檀」 が妻の立場から檀一雄に迫ったとすれば、「光と影」は愛人の立場からその像を描い ています。2冊を読み比べるととても興味深い。一人の男の見方描き方がかくも違う のかと。一読の価値ありです。

 ところで、この読書欄に隠しページがあるのをご存じ?  私の顔をクリックすると、友人のカエル大王の読書ページが……。 この人の読書の傾向はかなりオタクです、はい。

 


11月29日

記者1
「将軍と呼ばれた男−戦争報道写真家・岡村昭彦の生涯」(玉木明・洋泉社)、「上野英信の肖像」(岡友幸・海鳥社)、「精神の瓦礫−ニッポン・バブルの爪痕」(斎藤貴男・岩波書店)、「ノーベル賞科学者のアタマの中」(青野由利・築地書館)

 岡村昭彦と言えばベトナム戦争の写真です。私が新聞記者になってしばらくして彼は亡くなってしまいました。概して、マスコミの世界での彼の評価はあまりいいものではなかったと感じていました。この本はそんな目のくもりを取り払ってくれました。なぜ、岡村はベトナムへと駆り立てられていったのか。彼の生涯を丹念に追うことでその意志に迫っています。育ちというのか、彼の中に流れる血というのか……。
 おもしろいのは岡村と同じ世代である本多勝一や開高健の生き方と対比させていることです。庶民の持つノン・モラル(非社会)性と対照的に、公のために生きざるを得 なかった岡村の像を描き出しているのです。
 上野英信さんの写真が満載の本でした。この本もなぜ、英信さんが筑豊にこだわって生きたかを彼の記述を中心に描いています。写真の中には上記の岡村昭彦が英信さんのところを訪ねてきた時の様子や、私が敬愛する松下竜一さんと一緒の若かりしころのショットもありました。一つの道にこだわり続ける。そのことのすばらしさをつくづく感じましたねえ。  「精神の瓦礫」は現代の日本社会の断面をいろいろとえぐり出した本です。ジャーナリストとして丹念にいろいろな現象を歩いて取材しています。地上げに始まり長銀の問題、NTT株、地方の小笠原空港の問題、震災や地域振興券、変わっていく職人たち、さらに漫画家、弘兼憲史の変転まで、幅広いテーマを拾い上げています。人間としての理性や節度を失い、浅ましい欲望をむきだしにした現代の日本人の姿をそのままさらけ出して問うてます。読ませてくれる本でした。
 「ノーベル賞」は私の新聞社の同期が書いた本。うーん、難しい。私にははっきりいってついていけなかった。途中でパスしてしまいました。

 


12月16日

記者1
「開高健 青春の闇」(向井敏・文春文庫)、「裸の王様・流亡記」(開高健・角川文庫)、「青の炎」(貴志祐介・角川書店)

 ★大好きだった開高の若きころを書いた「青春の闇」は、読んでいてただうなずくばかりでした。作者が評論家だったのは知っていましたが、開高と同じ高校で学び、同じ文学の仲間として活動していたことは知りませんでした。晩年のあの太った姿しか知らない人は、やせて飢えた開高の姿を知ることになります。そして、若き開高の文学に対する志の高さと言ったら! 開高とその周囲を取り巻く人間たちは、がっぷりと組み合って生きているのです。改めて、人間・開高健を見直しました。

 ★で、もう一度読んでみようと手にとったのが「裸の王様・流亡記」。表記の作品のほか、著名な「パニック」も入ってます。開高の若きころの作品たちです。懐かしく読み返しました。前述「青春の闇」の読後だったせいもあって、かつてと違った感じを受けました。特に言葉の一つ一つを吟味して全体をかっちり構成してあるところに新鮮な驚きを覚えました。しかも、それぞれの登場人物のことをよく調べ上げていること! 「パニック」の県庁の役人たち、「裸の王様」の画家。まるで開高自身がその登場人物であったかのような錯覚を覚えるほど書き込まれています。考えてみれば、かつては筋を追う読み方をしていたのかも。こうやって全体をとらえなおして読んでみると、開高というのは本当にすごい作家だったと再認識しました。

 ★「青の炎」は目の前に座っている記者から借りました。主人公の高校生が登場してくる最初の学校での描写は、なんか表現が硬くて妙に肩に力が入っているような感じがしたのですが、そのあとはぐんぐん引き込まれて一気読み。綿密な殺人の計画を練って実行に移す高校生のお話なんですが、インターネットも登場するし、設定としてはとても興味深い。でも、ところどころに少し飛躍も感じてしまいました。ドラマを見るような感覚で読めます。

 


平成12年1月7日

記者1
「生きている兵隊」(石川達三・中公文庫)、「族譜の果て」(梁石日・幻冬社文庫)、「修羅を生きる」(同)、「柔らかな頬」(桐野夏生・講談社)

「生きている兵隊」(石川達三・中公文庫)  復刻されて話題になった本でした。いわゆる発禁になったという。どこが発禁の対象になったのか。おそらくは軍隊の作戦とか志気にかかわるとかいう部分なのだろうけれど……。淡々と戦争の現実を描いています。いわゆる主人公は、兵隊たちです。それぞれの人生を背負って戦争に駆り立てられて、そして人間そのものまでがそれぞれ変化していく。その姿をドラマチックにではなく、極めて客観的に描き出すことで、戦争というものへの想像力をかき立てます。ここに表現されたもろもろがそのまま戦争の現実なのではないかと思います。

「族譜の果て」(梁石日・幻冬社文庫)、「修羅を生きる」(同)  「族譜」は大阪を舞台に生きる青年実業家のお話でした。したたかで、えげつなくて、それでいてどこかに人間くささが詰まっていて。いわゆるこの作者の売り物です。どこかに闇を見つめているような主人公。成功を夢見て、破れ傷つき、さすらっていく。この人の作品にはいつもそんな人物が出てきます。その理由は「修羅を生きる」を読んでよくわかりました。修羅は作者の半生記です。大阪で在日朝鮮人として育ち、様々な挫折を経てきた彼の物語でした。すなわち、その生きざまは「血と骨」であり、「族譜の果て」であり……。実体験に基づいて小説の世界を構築してきたことがよくわかります。

「柔らかな頬」(桐野夏生・講談社)  この小説には救いがありません。そう感じてしまいました。北海道から逃げるように東京へ出てきた主人公の女性。結婚して、子供ができ、不倫。その果てに子供が北海道の別荘地へ行方不明になってしまう。縦糸にはミステリー。横糸にはそれぞれの登場人物たちの人生を描いて、一つの物語を織り上げています。しかし、行方不明になったのが子供。しかも最後まで誰が犯人なのか、わからないままです。犯人像はすべて主人公らの夢の中に出てくるのです。隔靴掻痒。読後になんともやりきれないものが残ってしまいます。おそらく作者はそれを狙っているのだろうけれど、ぴたり、それにはまってしまったのかなあ。

 で、次に読みたいもの。『毛沢東秘録』(産経新聞社編・扶桑社)。昨年から話題になっていてぜひ読みたいと書店に行っては立ち読みしていたのですが、その度に買いそびれていました。そうしたらなんとカエル記者に先を越されてしまった。カエル記者の読書歴を知りたい人は私の「似顔絵」をクリック!

 


平成12年1月20日

記者1
★「クリムゾンの迷宮」(貴志祐介・角川ホラー文庫)、★「水の眠り灰の夢」(桐野夏生・文春文庫)、★「地下街の雨」(宮部みゆき・集英社文庫)、★「原点」(黒田清・三五館)

★「クリムゾンの迷宮」(貴志祐介・角川ホラー文庫)

 同僚が「面白いですよ」と勧めてくれたが、うーん、なんとも荒唐無稽。ふと気が ついたら、荒野にほうりこまれていて、それが実は殺人のシーンを撮影するためだっ たという、ほとんど現実にはありえない筋書きなんですね。ふーん、とページをめ くっていたらいつの間にか最後まで読んでしまいました。というのは、やはり、怖い お話で次はどうなるのか、というスリル感と、この作者の文章のリズム感のせいで しょうか。

★「水の眠り灰の夢」(桐野夏生・文春文庫)

 さすが、と言うべきです。この人の取材力と構成力にはほんとに舌を巻いてしまい ます。いわゆるかつて週刊誌で活躍していた梶山季之のような「トップ屋」を主人公 にすえて、女、薬、事件。そしてそれに絡む右翼などをいきいきと描いています。主 人公が記者クラブなどで友人とかわす会話なども、ほんと、現実そのもの。この作 者、よく知っている。きっちり描き込んでいるし、事件の展開も気になって一気読 み。

★「地下街の雨」(宮部みゆき・集英社文庫)

 短編集。正直言っていまいち。表題の作品がウィットに富んでいて面白かった。あ とはどうも、私には食い足りないというか、読後に空腹感を覚えました。

★「原点」(黒田清・三五館)

 副題に「新聞記者物語」とあります。かつて大阪読売の社会部長としてならしたあ の黒田さんが、若い時の体験をつづっています。事件記者だったころの話などは身に つまされる話も多くて興味深く読みました。共感を覚えるのは、私自身が年取ってき たせいかもしれません。今ならそんな取材はできっこないや、というような話まであ ります。涙もろい、この人の原点は実に納得できるものでした。  


平成12年2月4日

記者1
「キジバトの記」(上野晴子・裏山書房)、「私だけの勲章」(後藤正治・同時代ライブラリー)、「獄の息子は発狂寸前」(見沢知廉・ザ・マサダ)、「異端は未来の扉を開く」(梁石日・アートン)

 「キジバトの記」(上野晴子・裏山書房)
 あの上野英信さんの奥さんの本。英信さんの人となりがくっきり浮かび上がってき ます。晴子さんに対しては暴君でもあった英信さん。気むずかしくて、その一方で人 なつこくて子供っぽい面も持っていた夫。そんなありのままの姿を飾らずに、淡々と 描いています。すんなり心に入ってくる文章の秘密は、長年連れ添った英信さんへの 愛情と、彼女が短歌をやっていたことにあります。筑豊という土地を愛し続けた上野 英信の素顔が、浮かび上がってくる本です。

 「私だけの勲章」(後藤正治・同時代ライブラリー)
 大阪・穴底街道の流しのおじさんたち。京大の学生運動家たちのその後。日航機墜 落事件を取材したテレビのクルーたち。代打男、川藤幸三。様々な男たちの背中を追 いかけたルポルタージュ。なんと作者にとっては初めてのノンフィクション短編集だ そうです。 中でも流しの男たちの人生がいい。しんねり、じっとりと生きる男たち の哀感が、行間ににじみ出ている。きっと作者自身の思い入れがあるに違いありませ ん。

 「獄の息子は発狂寸前」(見沢知廉・ザ・マサダ)
 あの「囚人狂時代」作者の12年間の獄中記。自意識過剰と甘えと。それだけが目立 ちました。その経験は読ませるのですが、結局、頭の中にあるのは自分のことだけな のかな。キャンディーズの伊藤蘭の写真を獄中からほしがって、それを母親がコピー して届けてもらうなど、ちょっとくだらんという気に。そもそも何のために獄へ入っ たのか。殺人です。「組織を守るため」などという大義名分があっても、死んだ(殺 した)者に対する思いなどがこの本kら感じられませんでした。

 「異端は未来の扉を開く」(梁石日・アートン)
 作者の対談やコラムなどを集めた本。で、これを読めば、彼の小説のあり方、スタ ンスがわかります。これを読んでから彼の小説を読むときっと面白くないでしょう。 おそらく。なぜならこのコラムの数々で、父親や生まれ育った大阪の街や、半生を描 いているので、あとから小説を読むと「なんだ、体験談じゃないか」なんて思うん じゃないだろうか。  


平成12年2月16日

記者1
「沈まぬ太陽(一)〜(五)」(山崎豊子・新潮社)

 読みましたよ、この5冊。大作ではありました。
 でも、面白かったね。ナショナル・フラッグの航空会社を巡る労使対立から、左 遷、出世という日本の会社のどろどろした側面。それに政治家やマスコミ、利権屋が うごめく世界を描いています。息をつかせぬ展開で、一気に読んでしまいました。
 いわゆる勧善懲悪ものではないけれど、主人公・恩地のあまりにも清廉潔白さは ちょっと気になりました。でも、それも権力におもねて出世や金を虎視眈々とねらう 登場人物たちとの対比で目立つせいかな。
 週刊朝日などではずいぶんとブーイングが出ているようです。なぜか。第三巻はか の日航機墜落事故をテーマにしています。その遺族らが実名。事故の状況や後始末な どがそっくりそのままノンフィクション。だからあとの四巻もどうしてもああ、これ はフィクションじゃないんだという錯覚に陥ってしまいます。航空業界を取り巻くい わゆる利権の構造やそれにかかわる人物たちも「ああ、これはあの人か」とたっぷり 想像させてくれます。日本の航空会社名やそれぞれの関係もそのまま事実を反映して いるようです。
 ただ、それはそれで、綿密な取材力と筆致をたっぷり堪能させてくれる本ではあり ました。
これだけ話題になっているなら、一読してはいかかでしょう。  


平成12年2月29日

記者1
「ハリー・ポッターと賢者の石」(J・K・ローリング、静山社)、「実録刑務所暮らし」(別冊宝島編集部編、宝島社文庫)、「業界紙諸君!」(佐野真一、ちくま文庫)、「女たちのジハード」(篠田節子、集英社)

 小5の二男が勧めてくれた「ハリー」は読むのに普通の本よりも時間がかかりました。なぜか。立ち止まり立ち止まりしながら、じっくり空想を巡らせたせいです。挿し絵もないから、イメージを膨らませながら読むのに時間がかかるのです。年をとるということは、つまり、こんな想像力を少しずつ失っていくことだと、知りました。それにしても楽しい本です。あれやこれや空想しながら読む。思わず別の世界に入ってしまったかのような錯覚を覚える大人のための童話ではないでしょうか。すでに映画化の話も進んでいるとか。どんな出来になるのか、今から楽しみです。全部で7巻になるそうで、次の巻の翻訳が楽しみではあります。

 「実録」はふんふんとうなずきながら読んだ本。いわゆる体験ものです。見沢知廉やらいろいろ出ていました。塀の中でどんな生活が営まれているのか、よくわかります。

 私も全国に3500もの業界紙があるとは知りませんでした。うなぎに葬祭、こんにゃく……。ありとあらゆる業界にそれぞれの新聞があるのです。その内幕ものですが、「へえー」とたまげるような話が詰め込んであります。新聞というものを考える上でも勉強になる本でした。

 「女たち」は本屋に文庫本が並んでいるのを見て「確か、会社にもあったな」と思って手にした本です。正直、面白かった。一つの会社に勤める女性たちの生き方をオムニバス風に描て、一つの小説を構成しています。いろいろな価値観を持つ女性たちが生き生きと描かれていて、ほとんど男だけという(何人かの女性ももちろんいますが)世界で暮らしている私にとっては、新鮮な本でした。というより、私が世間知らずなのかもしれませんが……。  


平成12年3月23日

記者1
「毛沢東秘録」(産経新聞社)、「黒い家」(貴志祐介・角川ホラー文庫)、「中国革命の夢が潰えたとき」(諸星清佳・中公新書)、「ありふれた老い・ある老人介護の家族風景」(松下竜一・作品社)

 カエル記者(私の顔をクリックすると出てくる)が先に読んでいて、ぜひ読みたいな、と思っていた本「毛沢東秘録」をようやく手にしました。毛沢東の実像についてはこれまでいろいろな本が出ているのですが、この本はまあ総まとめみたいなものです。中国共産党内での権力闘争の激しさ。誰が何のために起こした文化大革命だったのか。実に詳しく描いてあってわかりやすいのです。ただ、気になったのはこれらの記述のほとんどが、文献を集めてまとめなおしたものであること。現実に生きている関係者の取材などがないため、新聞社の取材班がまとめたにしてはやや食い足りない感じもしました。現実的にはそんな取材が中国でははなはだ困難であることはわかりますが。

 「黒い家」は怖いお話です。保険会社に舞い込んだ一本の電話から始まる保険金殺人事件。それも自分の子供を殺して保険金を請求するという筋なんですが、え、と驚く大逆転もあり、なんですが、詳しくは書きません。読む楽しみを奪いたくありませんから。この小説の中でも頼りにならない警察の記述が出てきます。時代を先取りしていたとも言えます。後輩が勧めてくれた本で「転勤準備で忙しくて読む暇があるもんか」と思っていたけれど、少しだけ読むつもりがのめり込んでしまいました。

 「中国革命…」はやはり大戦後の動乱期の中国を描いた本ですが、ちょっと研究書みたいで、途中で何度も挫折しながら読みました。これといって感想はありません。  敬愛する松下センセの「ありふれた老い」は西日本新聞の連載をまとめた本です。老いて次第にぼけていく実父と彼を介護する家族たちのいろいろな情景を思いを込めて描いています。4月1日から始まる介護保険制度。難しい制度の内容を把握する前に、介護の実態を知ることも大切なのではないでしょうか。  


平成12年4月17日

記者1
「顔に降りかかる雨」(桐野夏生・講談社文庫)、「十三人目の人格」(貴志祐介・角川文庫)、「東京学」(小川和佑・新潮文庫)

 東京に単身赴任して3週間。有珠山噴火に小渕さん倒れる、石原都知事の暴言など、わさわさしていてなかなか落ち着いて本を読む時間がとれません。寝る前にちびりちびりと読んでますが「十三人目の人格」はとうとう徹夜して読んでしまいました。舞台を阪神大震災にとって「生体離脱」と多重人格とを合わせたホラー。うーん、思い出すとぞくぞくしてしまいます。筋は読んでのお楽しみ。「顔に……」も面白かったけれど、一気に読ませたのは「十三人……」でした。「東京学」はかつて読んだ本「大阪学」に対抗してかかれた本です。東京の歴史や街の成り立ち、そこに住む人々の気質、言葉、はては風俗にいたるまで楽しく読ませる本です。私自身が今、東京の下町・根津に住んでいるので、とても興味深く読みました。なるほど、と思わせる記述多し。「名古屋学」という本も出ているようですが、「博多学」という本はでないのかなあ。こちらの方はぜひ読みたいと思うのですが……  


平成12年6月2日

記者1
「面白すぎる日記たち〜逆説的日本語読本」(鴨下信一・文芸春秋)、「日本の公安警察」(青木理・講談社現代新書)、「新聞に見る日本語の大疑問」(毎日新聞校閲部編・東京書籍)、「なんだか変!」(毎日新聞とうきょう支局編・毎日新聞社)

 ご無沙汰!。久しく更新しないまま過ごしていました。私自身も日記をつけてはいるんだけれど、「面白すぎる……」に出てくる面々の日記にはとてもかないそうにありません。それくらい面白いのです。めちゃくちゃな生活を暴露する徳富蘆花の日記。性についてのことを妻に悟られぬようローマ字で記した石川啄木などなど。多彩な人たちの日記が次々と登場します。その生活ぶりが想像できて楽しいんです。

 「日本の公安警察」はちょっとマニアックではありますが、ここまで書いちゃっていいのかと思うほどです。かつてはあまり公安警察について語られることはなかったように思います。だからそんな感想を持つのかもしれません。公安の組織、歴史から様々な事件への関与などについて具体的に書かれています。

 「新聞に見る……」はわが社の校閲部によるコラム集。わかっていたつもりだったのに、目からうろこ、という言葉の問題が満載。例えば「ドラエモン どらえモン ドラえもん」で正しいのはどれ? ほうらわかんないでしょう。もう一冊の「なんだか変!」は記者の素朴な疑問を突っ込んで取材してみた企画です。都内版で連載され、ホームページにも掲載し、読者とのやりとりまでまとめた本。これも楽しく読めます。  


平成12年6月21日

記者1
「土曜日に会いましょう」(永六輔・毎日新聞社)、「世界遺産厳選55」(小学館文庫)、「世界遺産行ってみたい55」(同)、「日本のゴミ」(佐野真一・ちくま文庫)、「東京自転車日記」(泉麻人・新潮文庫)

 今回は軽めの本がぞろぞろ。「土曜日……」は毎日新聞の関東の各県版に連載している永さんのコラムをまとめた本。ラジオと連動している企画で、活字でラジオの楽しさをたっぷり教えてくれる。福岡でも週1回ラジオで話す機会があったけれど、その時、映像がない分、かえって想像力をたくましくさせてくれるというラジオの魅力を知りました。「世界遺産」シリーズは写真がきれいな文庫本。世界各国の名所旧跡を案内してくれる本です。精神的にくたびれたとき、ぼーっと眺めるのに最適でした。「東京自転車日記」もお気楽本。泉さんがふらふらと東京を自転車で散歩して書いたエッセー。この人、結構、昆虫などにも詳しくて、それが面白かったな。

 「日本のゴミ」は自動車からOA機器、医療用品、食にいたるあらゆるゴミの問題を掘り下げた本です。ゴミ問題を考えるうえで、いろいろと参考になる本でした。  


平成12年7月15日

記者1
「朗読者」(ベルンハルト・シュリンク、新潮社)、「辺境近境写真篇」(松村映三・村上春樹、新潮文庫)、「日本の警察がダメになった50の理由」(久保博司・別冊宝島編集部、宝島社)

 あっという間にベストセラーになった「朗読者」。前半はエロチックで、これは一体、どんな筋書きになるのかな、と思っていたら、後半にぐっと重たいテーマが待っていました。15歳の少年が出会って愛欲の日々を送るようになったアンナは少年に朗読をせがむのです。そして突然、アンナは姿を消す。この朗読が、あとで意味を持ってくるのです。ナチスの強制収容所の看守として裁かれるアンナと、主人公が法廷で再会する。暗い話なのだけれど、なぜか、読ませるのです。極めて西欧的な、というべきか、とにかく面白い本でした。でも、この主人公の性格がどこか覚めていてなじめないのは私だけかなあ。

 「辺境……」は写真がいいよ。ノモンハンにメキシコ、瀬戸内海のからす島に神戸。アトランダムに訪ねたあちこちの写真。村上春樹の文章が詩みたいで……。特にノモンハンはいい。

 「警察……」は読んで字のごとし。このところの不祥事の生まれてきた背景を追った本です。これは仕事のため読んだような感じでした。


平成12年10月10日

記者1
「蕨の家−上野英信と晴子」(上野朱・海鳥社)、「山頭火」(石寒太・文春文庫)、「防壁」(真保裕一・講談社文庫)、「怪しい人々」(東野圭吾・光文社文庫)、「海の沈黙」(三好徹・集英社文庫)

 うーん、最近誰も更新しないのねえ。かえる記者(私の顔をクリックすると出てくる)だけが、着実に更新しているみたいだけれど。
 で、私もこのところ読書量がめっきり減りました。秋に期待です。お勧めは「蕨の家」です。上野英信さんの息子の朱さんが書いた本。英信さんの妻晴子さんが書いた「きじばとの記」で、筑豊に命を捧げた英信さんの素顔がくっきりとイメージできたのですが、この朱さんの本でさらにそれが深まりました。息子として、極めて沈着な眼差しで、父母を描いています。この父母にしてこの子あり、というところですか。きわめてつましい生活がいきいきととらえられています。悲惨さを感じさせなくて、逆に思わず笑ってしまいそうな描写もあります。
 「山頭火」は旅をしたくなる本でした。断片的に山頭火の句や人柄を読んだことはあるのですが、まとめて彼の作品、彼の生き方を読んだのは初めてでした。自由気ままに生きて愛された山頭火。でも、底に流れているのは、自分の人生に対する諦念?

 酒と旅に明け暮れた彼の破滅的な生き方は、やはり、どこかひかれるものがあります。秋の夜にはもってこいの本ではないかな。
 「防壁」「怪しい人々」はそれぞれ東京−博多の帰省の際に買って読みました。短編集で、どれをどう書いていいのやら。「海の沈黙」は地下鉄の文庫から借りたのですが、作中の新聞記者の描き方がいわゆる杓子定規というのか、あまりにも定型的でした。


平成12年11月6日

記者1
「密告」(ピエール・アスリーヌ、作品社)、「奪取」(真保裕一、講談社)、「特派員が死んだ夏」(立原伸行)

 「密告」は前半がとても入りにくかった。原作者のせいなのか、訳者のせいなのか、まわりくどい表現が多くてげんなり。でも、後半は読ませる。「朗読者」に刺激された、と原作者が書いてある通り、ナチスを巡るお話です。というよりも、フランスのナチ協力者たちの戦後とでも言うべきか。この本が今なお「戦後」を背負って生きている欧州の現実なのかもしれません。ナチへの協力者となって隣人のユダヤ人を「密告」した婦人。別の隣人はフランス解放後に彼女を「密告」。彼女は街頭で丸刈りにされ引き回された。古い資料を調べているうちに主人公は、そんな人間たちの歴史と罪をさらしてしまう……。最初のまだるっこさを我慢して読めば、あとはぐいぐいと引き込まれてしまいます。

 かなり前の本だけど、おもしろかった「奪取」。偽札作りにかける連中の話だけど、まあ、よく取材しているというか。印刷技術のお話を読んでいるかのような錯覚を覚えてしまうほど。でも、その詳しい描写、知識が作品にリアリティーをきっちり与えています。

 「特派員が……」の原作者は毎日の記者です。だからというわけではありませんが、新聞社内の様子や記者同士のやりとりなどディテールがきっちりしています。前作はさほどおもしろいとは思わなかったのですが、この作品は厚みがあって読ませます。


平成12年11月27日

記者1
「偽善系−やつらはヘンだ!」(日垣隆・文芸春秋社)、「藤原悪魔」(藤原新也・文春文庫)、「地図から消えた東京遺産」(田中聡・祥伝社黄金文庫)、「明治快女伝わたしはわたしよ」(森まゆみ・文春文庫)

 痛快な本でした。「偽善系……」は。ほんとに言いたいことをはっきり言ってくれ ます。今の新聞ではなかなか表現しにくい、かゆいところに手が届くような内容の本 です。郵便を、携帯電話を、教育を、少年法を、そして裁判やこれまで名著といわれ た書物を、ばっさばっさとめった切り。痛快無比ではあります。もともと歯に気に着 せぬコラムで知られる筆者。うーん、面白かった。

 「藤原悪魔」はコラムもいいけれど、中に掲載された藤原さんの写真がいい。眉毛 のある犬の写真は笑わせてくれる。バリの棚田の写真も幻想的で美しい。コラムは笑 いから静かな悲しみへと、生きていることの意味を考えさせられて中身が濃いです。  「地図から消えた東京遺産」は通勤途中で読むにはうってつけの本でした。休みの 日には、自転車に乗って東京の街のあちこちをふらふらしているのだけど、この本は 東京の歴史をあれこれ網羅していて参考になりました。

 昔から女の人は元気だったんだ。「明治快女伝」はそう思わせてくれる本です。伊 藤野枝、平塚らいてう、林芙美子ら、数多くの女性らの人生を紹介しています。女性 への抑圧が強かった時代だっただけに、なんか、現代の女性よりも元気があって迫力 があると感じるのは僕だけだろうかな。


平成13年1月9日

記者1
「アンジェラの灰」(フランク・マコート、クレストブック新潮社)、「不思議の町・根津」(森まゆみ、ちくま文庫)、「朽ちた樹々の枝の下で」(真保裕一、講談社)、「ヨーロッパ残酷物語」(山口椿、幻冬舎アウトロー文庫)

 映画をみて、そう言えば、女房が昔、本を買っていたな、と思い出して読んだのが「アンジェラの灰」。映像がとても深くて、感動した映画でしたが、この本に実に忠実に製作しているのがわかってなんか、ほっとしました。映画もよかったけれど、原作も味わいが深くてよかった。

 「不思議の町・根津」は今、住んでいる東京の下町の根津にまつわるいろいろな話で、おもしろい本でした。いわく、かつては遊郭街だった、とか、あの家に内田百フが下宿していた家だとか。飲み屋での戯れ言に役に立つ本です。いい意味で。真保さんの本って読ませてくれるのよね。この「朽ちた……」も一気読み。北海道を舞台にした自衛隊の不祥事を、どきどきはらはらの展開で読ませてくれました。もう一冊の本はほとんどパス。半分くらい読んだけれど、文体も構成も全然なじめない。パス、パス!


平成13年2月13日

記者1
「火花・北条民雄の生涯」(高山文彦・飛鳥新社)、「悪意」(東野圭吾・講談社文庫)、「グリコ・森永事件最重要参考人M」(宮崎学、大谷昭宏・幻冬舎アウトロー文庫)

 本当に読み応えのある本でしたよ、この「火花」は。ハンセン病に倒れ、「いのちの初夜」を書いて23歳で逝った作家、北条民雄。その生涯を追いかけた渾身のルポルタージュです。感動しました。ハンセン病という当時恐れられた病だけに、近親者は隠そうとする。作者はそのベールをていねいにはいでいきます。それが、単なるルポルタージュでないのは、北条の才を見いだして手紙をやりとりしていた川端康成の人生、そして第2次大戦前というきなくさい時代を織り込みながら、一つの時代を切り取っているのです。題名は北条が友人に宛てた手紙の一句からとっています。曰く「人生は暗い。だが、たたかう火花が、一瞬黒闇を照らすこともあるのだ」。

 いい本です。北条を苦しめたハンセン病の国家賠償訴訟の判決は5月に言い渡されますが、この本を読めば、ハンセン病とは何であったのか、はっきりとわかります。

 「悪意」も面白い本でした。流行作家の友人が殺害される事件を巡るミステリー。あらましを述べるのは違反でしょうが、え、え、と思わせる展開はさすが。すぐにテレビドラマにでもなりそうなお話でした。

 「グリコ……」は大谷さんが、疑惑の本人、宮崎さんに挑むような形で推理が進みます。それぞれの論理展開にはそれなりに説得力があって、うなずかせます。それにしても、あんなに大きな事件だったのに、このところ、あまり耳にしなくなったなあ。


平成13年4月9日

記者1
「落語特選・上」(麻生芳伸編、筑摩書房)、「江戸前食物誌」(池波正太郎、角川ランティエ叢書)、「男の生活の愉しみ」(宮脇檀、PHP文庫)

 2年前の今ごろ、入院生活で落語の楽しさを知りました。消灯時間になってベッドの上でできることといったらじっとラジオをイヤホンで聴くこと。NHKでやっていた落語を聴いて、落語家の表情や仕草を想像しては楽しんでいました。で、東京単身赴任生活。休みの日は映画か、落語です。上野の鈴本演芸場は自宅から自転車で10分。ふらり出かけてはほぼ半日、お江戸の文化を堪能しています。そんなことから「落語特選」を手にしました。話の原型で、これを読んで落語を聴けば、それぞれの咄家がアレンジして個性を演出しているのがわかります。  池波正太郎はやはり粋です。食べることにかけてはほんとに粋です。そばに天ぷら、寿司。お店の紹介をしながら粋な食べ方をさらり。それでいて嫌味がありません。時々行くさくら鍋の「みの家」なども紹介してして身近に感じた本でした。

 粋、といえば宮脇さんの「男の生活の愉しみ」もそうです。食べること、そしてその料理を作ってみることをひとくさり。さらに台所の道具類、いすの選び方、旅を各地の鍋でくくってみたり、ホテルの観察など楽しい本です。心の余裕がなければ、人生は楽しめない。そんなことを語りかけてくれた本でした。


平成13年5月17日

記者1
「知識人99人の死に方」(荒俣宏監修、角川ソフィア文庫)、「不良中年は楽しい」(嵐山光三郎、講談社文庫)、「偽善系U・正義の味方にご用心」(日垣隆、文芸春秋)

 山田風太郎の「人間臨終図鑑」のコンパクト版といったところかな、この「知識人99人の死に方」は。のたうち回って死ぬ人あり、死期をさとって大往生する人あり。壮絶だったり、穏やかだったり。読んでいるといろいろと思うことあり、です。一体自分はどんな死に方をするんだろう。その時をどう迎えるのだろう。人の死に方から、自分のこれからを考えてしまいました。これって、やはり年取ったからかなあ。

 嵐山さんのこの本はわかる。ほんとによくわかる。仕事もなにもあったもんじゃねえ、と大見得きって生きたいよ、そりゃあ。それがままならぬからこうやって悩みながら生きてんじゃねえか。なんて反論もしたくなりました。要するに不良中年になるにはいろいろ身にまとったものを思い切って捨てなくてはなりません。でも、小市民はそれができないが故に小市民なんです。簡単に飛べるようなら何十年も小市民やってません。わかるんだけど、無理なんだよなあ。そんな自分の情けない中年人生を改めて実感させてくれた本でした。

 「偽善系U」は相変わらず舌鋒するどくバッタバッタと世相を斬りまくってます。その中でも、評論家の佐高信さんに向けた刃の鋭いこと。佐高さんの反論がぜひ読みたいと思いました。


平成13年6月29日

記者1
「発掘捏造」(毎日新聞旧石器取材班・毎日新聞社)、「情報系これがニュースだ」(日垣隆・文春文庫)、「スイカの丸かじり」(東海林さだお・文春文庫)、「トライアル」(真保裕一・文春文庫)

 記者たちがどうやって事実に近づいていったか。昨年秋に明らかになった旧石器発掘ねつ造問題の舞台裏をあまさず描いたスリルのあるドキュメントですよ。この「発掘捏造」は……。なんて、言ってみましたが、CMですね。これでは。この本の製作にかかわったせいで、何度も何度も読みました。これまでの人生の中でこんなに読み返したことがあったかなあ、というくらい。まあ、興味があったらどうぞ。はい、はっきりいってCMです。

 「情報系……」はこのところはまっている日垣さんの過去のコラムなどをまとめた文庫本です。阪神大震災から読書、宗教、果てはデジタル社会まで、ありとあらゆる分野を取材し、その現実に迫っています。先見の明があるというのか、パソコンなどにいたってはこの作者はずいぶんと前から利用していたんですね。全編通してやはりこの人の切り口はするどいなあ。そういえば、池田小の事件で思い出したけれど、前に読んだこの人の「偽善系U」は、心神喪失の問題、精神障害者と犯罪の問題にも迫っていたなあ。

 「丸かじり」シリーズはこれまでこの欄では書いてこなかったけれど、ほとんど読んでますね。食べ物の話って罪がないからお気楽だし、この東海林さんの文って、ノリがいい。作者には申し訳ないけど、トイレに置いて一編ずつ読んでました。

 「トライアル」は競馬、競艇、競輪と賭け事に絡んだ短編集です。うーん、真保さんの本はやはり長編がおもしろいような。短編だと、プツプツと切れた感じがしてまだ読み足りないというのか……


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