安武記者安武記者の読書歴

平成12年5月29日

安武記者
「長崎のチンチン電車」(葦書房、1500円)

 環境にやさしい乗り物として近年、世界的に見直されている路面電車。九州では長崎と北九州市、熊本市、鹿児島市でがんばっている。北九州市出身なので、路面電車にはもともと愛着があった。大学と初任地で第2の故郷と思っている鹿児島市でもお世話になった。そして長崎市に赴任。「いいなあ路面電車のある街は」と思っていたら、この本が出た。長崎の電車はどこまで乗っても100円というのがいい。長崎の観光地で売っているアイスクリームとともに、長崎の「100円名物」と名づけてよいと密かに思っている。でも、この本を読むまで、てっきり市交通局が電車を走らせていると思っていた。長崎電気軌道という、れっきとした株式会社が経営していたなんて。しかもこの不景気な世の中で黒字を続けていると知ってたまげた。その経営努力には頭が下がる。

 別にバリバリのエコロジー派ではないけれど、チンチンとかねを鳴らしながら、のんびりと走る路面電車は21世紀に残したいもののひとつ。行政もやっと、その良さに気づいたのか、パークアンドライドなる方式を長崎市内に導入、公共交通機関、とくに電車の利用を呼びかけはじめた。長崎のチンチン電車を紙面でも応援してあげたいと思う。


平成12年2月22日

安武記者
「涙の取材手帳」(鬼沢慶一著、幻冬舎、\1500)

 取材で知り合った芸能レポーターの鬼さんから「ぼくね、初めて本を出したんだ。読んで感想聞かせてよ」と送っていただいた一冊。知らなかった。鬼沢さんって、いわゆる芸能レポーターの草分け的存在の、すごい人だったのね。

 本に出てくるのは、石原裕次郎、美空ひばり、勝新太郎、山口百恵、松田聖子、村田英雄、都はるみなど、そうそうたる顔ぶれの大スターの裏話。「あの時、スターたちに何が起こっていたのか。幻の大スクープの数々」という腰巻の宣伝文は大げさじゃない。虚業といわれる芸能界だが、歌手や俳優なども、スポットライトの影ではふつうの人間。スターになればなるほど、孤独になり、ひとり悩む。

 そこで頼りにされたのが鬼さん。相談相手として夜中に電話がかかってきたり、記者会見の前に別室で相談にっったり。なぜ彼がそこまで信頼されたのか。ひとつは芸能界の人脈があったからだが、やはりその人柄、うそをつかない誠実さが人をひきつけたのだと思う。単なる取材する側と取材される側という関係を超えて、どこまで人間同士のつきあいができるか。スターの不幸な面に光をあてた、この本を読んで自問自答した。


平成13年2月13日

安武記者
「聖水」(青来有一著、文芸春秋)

 純文学を対象とする芥川賞の受賞作は、ふだんあまり読まないのだが、今回は村上龍以来の長崎県出身者である青来さんの受賞。これは読まない手はないでしょう。単行本発売(まもなく)を前に某記者が探してきた純文学雑誌「文学界」の洛詩(だったと思う)をとりあげて、一夜で読破しました。これまで芥川賞に何度もノミネートされながら、賞を逃してきた青来さん。今回は編集者のアドバイスを大いに受け入れて、長崎という土地の記憶をこれでもかと作品にちりばめたそうです。

 簡単に言うと、長崎らしさ。東京在住の審査員の先生方のいうローカル色を強めたのです。長崎に来て1年半の私にとっては、小説に出てくる地名もほぼ理解できて、四国(私が日本で唯一、足を踏み入れてない地域)かどこかを舞台にしたものよりはずっとすんなり頭に入ったし、読みながら「ああ、あのへんね」と、だいたいの情景が頭に浮かぶのがなんとも気持ちよかった。隠れキリシタンには、以前から興味があったが、エピソードとして出てくる「ウノスケ縛り」は強烈に頭にこびりついた。想像しただけで苦しくなるような体位ではないか。拷問に使われた縛りだというから、当然とはいえ、いやはやこういう縛られ方だけはされたくない(もちろん、どんな形でも縛られるのはいやだけど)。

でも、この「ウノスケ縛り」という言葉はなかなか、妙な迫力というか、不気味さとういか、そういったものが漂っていて、すっかり気に入ってしまった。気に入ると使ってみたくなるのが性分で、「おい、何だよ、この原稿。おまえ、うのすけ縛りにしたろか」などと使って周囲からけげんな顔をされ、それを見て一人悦に入っている今日このごろなのである。ところで青来さんは私と同い年。ペンネームの由来が「セーラームーン」からきているときいて、そのおちゃめぶりが結構いいんじゃないと、より親近感を抱くようになったのでした。


表紙に戻る