地方と世界 距離縮む
 わが国初の地方開催となった主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)は二十三日、すべての公式日程を終えて閉幕した。国内各地の誘致合戦を経て、九州・沖縄三都市での分散開催が決まって一年二カ月余。蔵相会合(八日、福岡市)、外相会合(十二―十三日、宮崎市)、首脳会議(二十一―二十三日、沖縄県名護市)を無事終えた三都市は、それぞれ安ど感とともに、サミット開催経験を今後の都市戦略や地域づくりにどう生かしていくかを迫られている。取材班の記者で、九州・沖縄サミットが地域に残したものや今後の課題などを話し合った。

←写真説明=福岡蔵相会合に向かう閣僚らを、小旗を振って歓迎する市民 =8日、福岡市早良区百道浜
蔵相会合外相会合首脳会議総括

蔵相会合(福岡市) 外相会合(宮崎市)
■「経済」に市民の関心

 A 一九九七年のアジア開発銀行(ADB)福岡総会に比べて、福岡蔵相会合は「地味だ」との声が経済界や市民に多かったね。
 B ADBに続いて通訳ボランティアを務めた女性会社員は「英語を使う機会がほとんどなかった」とがっかりしていたよ。
 A 経済効果はあったのかな。
 C 福岡市の百貨店では期間中、来店客が約二割減。関係者は「中元商戦や夏物セールの稼ぎどきにぶつかって痛手」と嘆いていた。
 B タクシー会社も交通規制で大幅に車を減らし、減収だった。
 C 「警備が厳重すぎた」という声も強かった。
 A 福岡県警は交通規制も含めて全警察官の半数にあたる総勢五千人を投入。会場周辺には「ベランダに出るな」「外出を控えろ」と、自治会を通じて一種の“おふれ”も出た。
 B 市民に最も影響が大きかったのは交通規制だ。都心部では検問が七十カ所。都心部の交通量は「まるで正月」のように減り、県警からすれば「市民の協力で大成功」。しかし実態は「規制で嫌な思いをするよりは」と市民がマイカー利用を渋々がまんした、というところだろう。

 ●飛躍への布石に
 D 経済効果は薄く警備は厳しすぎと、やや辛口意見が出たが、全体的印象はどうかな。
 B 福岡市幹部は「市民と各国蔵相との交流の場面が少なかった」と残念がっていた。せっかくの歓迎行事でゲストの参加がなく中止したものも。その意味では、地元の期待が大きすぎた面もあった。
 C ただ、前日にあった「世界経済シンポジウム」は市民の関心が高かったね。
 A 主催者は参加者五百人を見込んでいたが、当日は約八百人が一般参加。会場から質問も相次ぎ、経済問題への関心の高さがうかがえた。
 B 経済効果は薄かったかもしれないが、福岡市がトップクラスの国際会議をやれる実力を世界に示した意義は大きい。今後、いろんな面で福岡がいっそう飛躍する布石になったと思う。

■「手作り」の国際化進む

 G 宮崎県は外相会合を無事に乗り切り、誘致開始から四年がかりで悲願を達成した。
 F 受け入れ態勢に対する参加各国の評価は高かった。共同会見で三人の外相が周到な準備ともてなしに賛辞を贈ったが、世界規模の会議では異例のことだ。
 E 宮崎の熱意は並々ならぬものがあった。シーガイアの国際会議場を「サミット」と名付けたのが象徴的。全国の地方都市に先駆けてサミット誘致に乗り出した宮崎が、初の地方開催に道を開いた功績は大きい。だが、一方では「シーガイア救済目的」との批判もあった。それでも千二百億円を超すシーガイアの累積赤字が外相会合で消えるわけではないし、これからが正念場だ。
 G 受け入れ準備は大変だったろうね。
 F 県の旗振りで全市町村・議会、主要企業・団体、マスコミなどが協力推進協議会をつくり、その中の各専門委員会が歓迎ムードの盛り上げ方まで研究した。

 ●知名度がアップ
 E でも、宮崎市以外の地域は冷めていたし、沖縄、福岡との連携にも疑問符が付いた。
 G 外相会合には国、県、宮崎市が約六十億円投じたようだね。
 F 宮崎情報の発信をねらった広報やマスコミ対応が手厚く、知名度アップなどに一定の効果を上げた。
 G 県民は「国際化」を身近に感じたと思う。子どもたちが外相会合を機に学んだことも多かった。国際交流員によるサミット出前教室、小中高生向けサミット副読本の配布など経済効果より教育効果をねらった仕掛けが目立った。
 F 歓迎準備に小学生から大人まで加わり「手作りの国際化」が進んだ。二百五十人にのぼる通訳ボランティアも、地方の国際化を担う人材発掘につながった。
 E シーガイアに合格点が付いたのは確かだが、県がいうシーガイアを目玉とした国際会議・観光都市づくりには限界がある。施設のりっぱさや大型会議誘致だけでは行き詰まるよ。成功熱が冷めないうちに新たな戦略を打ち出さないといけない。

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首脳会議(沖縄・名護市)
■基地の実態アピール

   H 過去の東京サミットとは雰囲気が随分違っていた。
 I サミットで地元主催の首脳歓迎レセプションが開かれるのは異例のこと。沖縄の伝統芸能を披露するなど「沖縄色」を演出、評判はよかったようだ。
 J 首脳の市町村訪問も米国とフランスを除いて実現した。どこも大変な歓迎ぶりで、首脳と地元との交流という意味では成功だったと思う。外務省は当初「とてもできっこない」と冷ややかだったけどね。
 K 大逆転劇で沖縄開催が決まったのが昨年四月。その時はまだ会議場の万国津梁(しんりよう)館も完成していなかった。宿泊地や警備など心配する声はあったが、大きなトラブルもなく終わったのは評価していい。
 H だが、海外のマスコミからは約八百億円という過去最大規模のサミット開催費用に批判も出た。今回は、途上国の債務帳消し問題が焦点の一つだっただけに、超豪華な万国津梁館や夕食会メニューなどに「ぜいたく」という批判を浴びたわけだが、サミットは簡素化の傾向にあるだけに政府も教訓とすべきだろう。

 ●多数の見学希望
 I 評判が悪かったのが警備の厳しさだ。期間中は全国から約二万人が応援に駆けつけ警官だらけだった。「サミット爆砕」を叫ぶ過激派もいたから仕方ないのかもしれないが、「窒息しそうだ」と漏らす海外ジャーナリストもいた。
 H 基地問題で成果はあったのか。
 I 基地の整理・縮小については事実上、何も進展していない。サミットの議題で取り上げられたわけでもないし、日米首脳会談でも日米特別行動委員会(SACO)最終報告の実施を確認しただけ。沖縄県民にとっては期待はずれだ。

 J それは当初から予想されたことだ。クリントン米大統領が「平和の礎(いしじ)」演説で、沖縄が基地を望んでいないことを確認した意味の方が大きい。
 K 沖縄県が実施したプレスツアーでも基地見学の希望が多かった。基地を抱えた沖縄の実態を本土や海外のマスコミが肌で知ったことはマイナスではない。
 J 海外の報道をみても、サミットだけでなく米兵不祥事や基地反対運動に触れる記事があった。サミットがなければ注目されることはなかったはずだ。

 ●計り知れぬ財産
 H 課題はむしろサミット後、沖縄からの発信をどうつなげていくかだろう。
 I 道路や通信網などインフラは格段に整備された。「オキナワ」の知名度が上がったのも間違いない。これは計り知れない財産だ。復帰以来の課題である公共事業や基地に頼らない「自立経済の確立」につなげたいね。
 J 基地問題でいえば、普天間飛行場移設のヤマ場はこれから。サミット後に先延ばししていた政府と地元の協議が始まればいろんな問題が表面化してくるだろう。

 K その通りだ。賛成派だって建設場所や方法をめぐっては決して一枚岩じゃない。建設業者の思惑も絡んで内情は複雑だ。反対派も「今からが勝負だ」とみている。
 H 基地削減に向けた道筋は依然見えてこない。基地問題は沖縄だけで解決できる問題ではない。ポストサミットにこそ、本土や海外に向けた発信を粘り強く続けていくことが必要だ。

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総   括
■目離せぬ沖縄の今後

 N さて、今回のサミット全体を総括してみたい。日本では初の地方開催だったが、そのことはどう意義づけ、評価されるのかな。
 M サミットも四半世紀の歴史を重ね、全体としては既に首都以外での開催が定着しており、日本もようやくその流れに乗ったわけだが、初の地方開催のメーン会場として沖縄が選ばれたという一点に特別な意味合いが感じられる。
 L 一つは、日本が主要八カ国(G8)の中で他国と渡り合っていく際、その立脚点として、アジアの代表であるということを明確に示す狙いがあったということだ。もちろん、福岡や宮崎でもそうした役割を果たせたとは思うが、歴史的に見てもアジアとの交流が深い沖縄の風土が持つ発信力の強さは群を抜いている。
 N 今回の成果の一つとして、G8が開発途上国や非政府組織(NGO)との連携の重要性を明確に打ち出した点が挙げられるが、そのことを印象づける舞台として沖縄は象徴的だった。

 ●波及効果を利用
 M ただ、もう一つの視点として、サミットという政治イベントの持つ波及効果を利用して、日米安保体制の中で揺れ続けてきた沖縄県の位置付けに一石を投じたいという政府の思惑も透けてみえた。
 N 「沖縄返還後初めての米大統領訪問」という事実が及ぼすインパクトは大きい。沖縄開催を決断した小渕恵三前首相の頭の中には、そうした意味合いも、かなりの比重を占めていたと思う。
 L つまり、日米関係のあり方は当面、大きな方向転換は難しいので、沖縄県民には米軍基地問題をもっと現実的に受けとめてほしい、というメッセージを発したということか。
 M 結果的に沖縄で行われることになった日米首脳会談も、日米両政府がそうした意図の下、協力関係を確認したと受けとめられる内容だった。
 L そうした視点も含めて、サミット後の沖縄が政治的にどう取り扱われていくのか、一層、目が離せなくなったことだけは間違いない。