〜 期待と注文 〜

 日本で初めての地方開催となる主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)が、福岡市での蔵相会合(八日)を皮切りに、宮崎市での外相会合(十二―十三日)、沖縄県名護市での首脳会議(二十一―二十三日)と相次いで開かれる。日米欧のトップが一堂に会するサミットに、アジアの人々はどのような論議を求めているのか。本紙の「アジア発日本への手紙」欄に寄稿している各国・地域の記者から、サミット、そして議長国・日本への熱い期待と注文が寄せられた。



 ■願いは格差解消への道筋■
 ▼ タイ「カオソド」 チュムチャン・チャムニプラサートさん

 サミットと聞けば、亡くなった小渕恵三前首相の顔が浮かぶ。今年初めに二回もタイを訪問し、サミットに対する「アジアの声」を聞いて回った。庶民的で威張らない態度はタイ国民の共感を呼び、「先進国の形式的な会議」というこれまでのサミットのイメージを変え、何となく会議への期待を抱かせている。
 アジアからの唯一の参加国、日本がサミットに反映させるという「アジアの声」とは何なのだろうか。
 タイのチュアン首相は小渕前首相に「国際金融システムの改革」「世界貿易機関(WTO)の政策協調」などを注文し、「危機を克服した東南アジア経済の力強さを世界にアピールしてもらいたい」と要望している。
 今後の持続的な成長のために、もっともな注文と思うが、私の最大の関心は、先進国と途上国の格差問題にある。
 WTOや世界銀行、アジア開発銀行(ADB)などの国際会議があるたびに、なぜ多くの非政府組織(NGO)が抗議しているのか。米国は昨年、なぜタイのスパチャイ副首相兼商業相がWTO事務局長に就任することに反対したのか。サミットはこうした疑問に答えてほしい。
 タイは、就業者の四五パーセント以上が農林水産業に従事している農業国だ。経済的事情から学校に行けず、働かざるを得ない少年少女も少なくない。途上国の事情を理解しないまま、先進国の都合で新しいルールができても、途上国には戸惑いが広がるばかりだろう。
 富める国はもっと貧しい国やNGOの意見を聞くべきだ。そして「経済のグローバル化とは貧困化ではないのか」との疑念を解消する具体的な青写真を示してもらいたい。

 ■「貧困問題」への対応望む■
  ▼マレーシア・フリーランスライター パドマジャ・パドマンさん

 「話すのは安上がりだが、行動には金がかかる」といわれるが、最も豊かな国々によるサミットは、最貧国の債務救済問題で最小限の進展しかしないことで「安上がり」というレッテルを張られようとしている。
 昨年のケルン・サミットで指導者たちは「グローバリゼーション(世界化)の波に人間の顔を持たせる」と約束、貧困を含む社会問題に取り組むことを確認した。
 九州・沖縄サミットでは、グローバリゼーションによって悪影響を受ける人々を意識し、配慮をみせるだろうか。日本のリーダーシップは、人的開発や資金援助で、社会的正義に向けた論議へ引っ張っていくだろうか。
 サミットは、戦争や軍拡、感染症、貧困、組織犯罪、政治腐敗、環境悪化を減らすための絶好の機会。指導者たちは政治や組織の思惑から離れ、自らの透明性と説明責任を果たすことが必要だ。
 人々は、自分たちに代わって下される決断に注目している。一九九八年、バーミンガム・サミット会場を取り囲んだ人間の鎖は、経済成長とともに社会の公平性を求める世界の人々の国境を越えた連帯を示した。
 途上国の債務帳消しが、指導者たちの真の最優先課題であるのなら、九州・沖縄サミットでは、その実現を目指すべきで、貧しくて弱い者に対する豊かで強い者の優越性の保証という形にならないようにすべきだ。
 豪華な舞台に集まることは、指導者が現実を見ることにはならない。一週間を貧しい共同体で過ごし、人間の尊厳を奪われ、生活必需品にも事欠き、数々の危険に直面している人々の絶望感を感じ取るならば、彼らの視野は広がるだろう。これが多分、将来のサミットのあるべき姿なのだ。

 ■南北和解のムード生かして■
  ▼韓国「韓国日報」 韓基奉さん

 「二十一世紀はアジア太平洋の時代」と、多くの国際専門家らが指摘してきた。しかし、一九九〇年代末、アジアに吹いた経済危機はバラ色の展望を曇らせ、アジアは不確実なミレニアム(新千年紀)を迎えた。アジアの竜は、昇り上がれずに蛇になってしまうのか。
 違うと思う。まだ楽観はできないが、アジアの新しい未来が政治的な面から開かれようとしている。そのシグナルは、六月十三―十五日の歴史的な南北首脳会談だった。
 「通米封南(米国と通じ韓国を封じる)」政策を固持してきた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が韓国を政治的パートナーとして認めたことは、大きな意義がある。
 朝鮮半島の平和と安定は、日本にも大変な政治・経済・軍事・外交的な実益を与えるだろう。南北間の和解と交流は、北朝鮮と日本の国交正常化を早め、韓国と北朝鮮に二またをかけている中国とロシアのあいまいな立場に変化をもたらす。米国も対北朝鮮政策で戦略見直しを迫られそうだ。
 朝鮮半島周辺の大国は今、南北間の和解ムードをさらに生かす努力を積極的に続けていかなければならない時期にある。それは、互いの利益にもなるからだ。
 米ロ首脳会談が六月三―四日、モスクワで開かれたのに続き、小渕恵三前首相の葬儀を機に朝鮮半島周辺の四大国は活発な弔問外交を展開。ロシアのプーチン大統領は七月十八日、中国を訪問する。朝鮮半島周辺の首脳外交は、九州・沖縄サミットでその頂点を迎える。
 地政学的な意味だけでなく、朝鮮半島問題はサミットで重要な焦点となるだろう。南北首脳会談を評価し、これを支持する対応策が出ることを、韓国は期待している。

 ■IT対応へ識字率向上を■
  ▼香港「明報」 施純港さん

 九州・沖縄サミットでは、さまざまな問題が協議されるが、中でも情報技術(IT)に関する問題が大きなテーマとなるといわれている。
 世界の指導者の間では、地球規模で社会に大変革をもたらす情報技術問題について、ひとつの懸念が共有されている。そして、その懸念は、ますます大きくなっているようだ。
 それは、情報技術が富める国と貧しい国との格差をますます広げてしまうということである。そして、その格差を埋めることは多大の困難を伴うだろう。
 この技術格差のゆえに経済的に飛躍できない貧しい国に対する支援は、単に資金や技術を提供すれば事足りるというたぐいのものでなく、困難きわまりない要素を含んでいる。
 技術を使いこなすには、その国民に高い識字率が要求される。しかも、その達成は一朝一夕になされるものでないだけにやっかいだ。
 文字の読み書きができなくては、コンピューターの操作やインターネットの利用もできない。
 技術格差の拡大を防ぐために、サミットでは、識字率の低い発展途上国に対して識字率を向上させる対策を、重要課題として討議してもらいたい。
 識字率が向上すれば、これらの国の人々は知識を得て外の世界に目を開き、インターネットの操作も可能になる。
 インターネットは、書籍やテレビと同じような手段にすぎない。識字ということでいえば、国語に加えて、インターネットを使いこなすためには基礎的な英語の習熟も必要だろう。
 低い識字率のために情報技術への対応が遅れている国への支援は急務だ。



西日本新聞社