(1)在宅介護
(2)ケアマネジャー
(3)要介護認定
(4)ヘルパー
 

在宅介護     家族の負担減ったか

 ヘルパー(左)の訪問を受け、笑顔を見せる吉田さん夫妻。介護サービスを利用しながら息の長い在宅介護が続く介護用ベッドが置かれた部屋の押し入れに、大人用の紙おむつが山積みになっていた。福岡市早良区の石田和久さん(69)は、ほぼ寝たきりだった妻の豊子さん=当時(64)=を昨年夏に亡くした。三年半に及ぶ在宅介護だった。
 ▼中国に登山旅行
 石田さんの本格的な在宅介護は、初老期痴ほう症の豊子さんが退院した一九九六年末に始まった。食事、排せつ、入浴…。すべてに介助が必要だった。
 「頑張りすぎると体がもたない」と感じた石田さんは、福祉サービスを積極的に使った。昨年四月に介護保険制度が始まっても、訪問介護やデイサービスなどをフル活用した。豊子さんの要介護認定は、最も重い「要介護5」。それまでゼロだったサービスの自己負担は約三万円になった。
 だが、石田さんは利用を減らさなかった。ヘルパーが来れば外食で気分転換。昨年六月にはショートステイを利用し、趣味の登山で四泊五日の中国旅行にも出かけた。
 その後、容体が急変した豊子さんは入院から十日で亡くなった。石田さんは「長く介護するには楽にやること。介護保険を活用しながら、できるだけのことはしてやれたと思う」と静かに語った。
 ▼薄らいだ負担感
 佐賀県鳥栖市の吉田文彦さん(73)は一九九八年秋、ひどい頭痛に襲われ、知人宅で倒れた。脳出血だった。九九年夏に退院したが、右半身にまひが残った。
 吉田さんの妻幸代さん(68)の在宅介護が始まった。やっと歩ける吉田さんを毎週一回、ふろに入れた。下着姿にエプロンを付け、びしょぬれになりながらの介助。八カ月が限界だった。
 吉田さん夫婦は介護保険制度が始まった昨年四月、訪問介護の利用に踏み切った。週一回、入浴のための身体介護を受けた。それまで「国の世話にはなりたくない」と思っていた幸代さんだが、心身の負担感は一気に薄らいだという。
 吉田さんは「要介護2」。利用限度額に余裕があったため、昨年夏から週二日のデイケアにも通い始めた。「以前は『ふろに入れなければ』と思うだけで気が重かった。本当に助かる」と幸代さん。吉田さんも「人に会えるデイケアは楽しい」と笑顔を見せる。
 ▼利用にためらい
 息の長い介護を続けるため、サービスを積極的に利用し始めた介護家族。ただ、サービスの利用は一気に増えたわけではない。厚生労働省によると、要介護度別の利用限度額に対し、利用者が実際に使っているサービス量は昨年七月の時点で四三・二パーセントにとどまっている。
 熊本市の調査(昨年十月)では、在宅サービス利用者の二三・三パーセントが「利用料の負担からサービスを手控えている」と回答。さらに介護保険について「あまり分からない」「分からない」と答えた利用者は計三七・三パーセントにも上った。制度の定着は道半ばだ。
 「呆け老人をかかえる家族の会福岡県支部」の会員でもある石田さんは、サービスの利用をためらっている介護家族の話を聞くたびに、こう呼びかけている。
 「リフレッシュしたら、また新たな気持ちで介護ができる。思い切って一歩を踏み出してみませんか」
   ◇   ◇
 「介護の社会化」を掲げた介護保険制度は、四月でスタートから一年を迎える。「老後の安心」は近づいたのか、遠ざかったのか―。なお模索が続く制度の現状を探る。


ケアマネジャー      利用者と接する中で

 ▼毎日通ってみて
 「よいケアプランを作るためには、利用者の話をじっくり聞くことが大事」と話すケアマネジャーの新垣一美さん(右)「車いすに乗りたいのお…」
 昨年九月上旬、福岡市南区のアパートの一室。ベッドに寝たきりの山田良雄さん(79)=仮名=のつぶやきを、ケアマネジャーの新垣一美さん(44)は聞き逃さなかった。
 山田さんは全身が弱っており「要介護5」。そのケアプラン(介護サービス計画)作りを新垣さんが任されたのは、一カ月前の昨年七月下旬からだった。
 食事介助などをするホームヘルパー、清拭(せいしき)などを担当する訪問看護婦。この二つの在宅サービスを組み合わせたケアプランを作成して、各事業所にサービス提供を依頼。山田さんは利用はしたものの、元気は失せる一方だった。
 新垣さんは当初から「このケアプランでいいだろうか」と思い、山田さん宅を毎日訪問。ほかにどんなサービスが必要かを手探りしていた。
 そんな中での「車いす…」発言。新垣さんはすぐに訪問リハビリのサービスを手配。その結果、山田さんは短時間ながら体を起こせるようになり、笑顔も見せるようになった。新垣さんは「通い続けることで、リハビリに意欲があることが分かり、ケアプランを見直すことができた」と話す。
 ▼報酬の低さ壁に
 ケアマネジャーは介護保険導入に合わせて誕生した専門職。その大きな役目であるケアプラン作りのためには、お年寄りの心身の状況や家族を含めた生活環境を把握することが必要だ。だが、お年寄りと十分に接しているケアマネジャーはそれほど多くはない。
 「よりよい介護をめざすケアマネジャーの会」(大阪市)が昨年末、大阪府内のケアマネジャー約五百五十人を対象に実施した調査でも、約五五パーセントが「利用者や家族の生活状況を把握する時間がない」または「少ない」と訴えている。
 その要因の一つが報酬の低さ。介護保険からケアマネジャーに支払われる報酬は、利用者一人当たり最高でも一カ月八千四百円。事業の独立採算は難しく、同調査によるとケアマネジャーの約五五パーセントが看護婦などとの兼職だ。
 さらに「給付管理」など事務作業も多い。福岡市のあるケアマネジャーは「利用者と話すのは、一カ月でせいぜい三十分程度」と打ち明ける。
 新垣さんのように連日訪問するのはまれなケース。その新垣さんも「山田さんを訪れたのは勤務時間外の朝や晩だった」と実情を打ち明ける。
 ▼会議の時間なく
 在宅のお年寄りにかかわるサービス担当者は複数になる場合が多く、担当者間の連絡・調整が欠かせない。その役目もケアマネジャーに求められているが、同調査によるとケアマネジャーの約六八パーセントが「サービス担当者会議や関係機関との連絡・調整を行う時間がない」または「少ない」と答えている。
 担当者が一堂に集まる会議は最も有効とされ、厚生労働省も開催を求めているが、「やすらぎの郷ケアプランセンター」(福岡県志免町)のケアマネジャー安達満さん(40)は「担当者も忙しく、会議を開くのは困難」と訴える。代わりに各事業所にこまめに電話したり、場合によっては出向いたり、「連日残業」が続くという。


要介護認定     信頼向上へ“三審制”

 ▼自治体間で差異
 事務局を一本化し、たくさんの合議体が一度に二次判定を行う北九州市の認定審査会「現場でみていると、同じ状態の人でも介護保険給付を受ける市町村によって要介護度が違うんですよ」
 全国各地から患者がやってくる福岡市内のある病院のケアマネジャー(44)は、全国一律のはずの要介護認定が、市町村によって異なる実態を打ち明ける。コンピューターによる一次判定の基礎となる訪問調査を委託された場合、判断に迷うケースについては市町村に相談する。だが対応はまちまちだ。
 「私たちが標準と思う判定より、財政力のある自治体は一ランク上、小さな自治体は一ランク下になることが多い。『うちは財政が厳しいので』と、あからさまに言われる自治体もあります」とケアマネジャー。
 このような判断基準の違いが、最終的に要介護認定の差につながっている。
 ▼北九州市の工夫
 さらに、自治体間の格差だけでなく「同じ自治体の中でさえ調査、認定を行う事務局の違いによって差が出ることもある」と、このケアマネジャーは話す。とくに大きな市町村や広域連合になると、二次判定に携わる合議体の数も多くなり、それを束ねる事務局も複数になる。
 かつて、性格が違う五市が合併してできた北九州市では、介護保険制度の導入にあたり、区によってサービスに差が出ないことに重点が置かれた。このため訪問調査を行う調査員六十四人はすべて市職員をあて、認定を行う事務局を市役所に一本化した。
 「調査のレベルが統一され、熟練すれば効率的な調査ができる。事務局を一本化することで認定に関する判断基準を統一でき、公平な審査ができる」と、同市総合保健福祉センター管理課の早崎寿宏認定審査係長。「百万都市で事務局を一本化するのは一見煩雑のようだが、電算化など事務の大幅な効率化が図れた」と、この一年を振り返る。
 ▼不服いまだゼロ
 北九州市では、事務局を一本化したため、二次判定を行う合議体の数は七十四に上った。これを統括するシステムとして設置したのが同市独自の「平準化委員会」。一次判定に比べて二次判定の結果が大きく変更されたり、市民にとって不利益性が高い場合、別の合議体がもう一度、審査判定を行う。そのうえで、どちらの判定を採用するかを平準化委が決める。「一審」「二審」のどちらを採用するかを決める“最高裁”にあたる機関を設けたことで、「認定の三審制」と呼ばれている。
 昨年一月から今年二月までの間、平準化委(医師会、薬剤師会など認定審査会の委員を選出している団体の長七人で構成)が、あらためて個別評価判定を行ったのは更新を含めて約千三百件。同市の認定件数の約二・四パーセントを占める。
 要介護認定に納得がいかず不服申し立てが行われたケースは、これまでに福岡県内で二十四件あるが、北九州市からは出ていない。
 同市の担当者は「事務を効率化する一方で、少しでも市民の不利益になるものはじっくり時間をかけて納得のいく認定を行うことが、介護保険制度全体への信頼性を高めることになる」と、強調している。


ヘルパー      「質」を高めるために

 ▼食事に不満募り
 「介護保険はヘルパーの働き方をどう変えたのか」をテーマに10日、北九州市で開かれたシンポはヘルパーら約120人が集まる盛況だった福岡都市圏に暮らす八十代の北川虎雄さん=仮名=は、寝たきりの妻と二人暮らしだ。
 虎雄さんは料理ができないため、介護保険を活用してホームヘルパーに連日来てもらい、夫婦二人分の食事作りをお願いしている。だが、ヘルパーが仕事をきちんとしてくれず困っている。
 介護保険が始まった昨年四月。当時来ていたヘルパーは、同じ具のみそ汁を一週間ずっと出し続けた。虎雄さんはたまらずに別の業者に代えたものの、新しいヘルパーは親子どんぶりさえ満足に作れない。虎雄さんは「介護保険が始まって、ヘルパーは名前も覚えられんほど次々代わった」と話す。今のヘルパーについても「肉料理が多いので、魚の煮付けをお願いしたが、これがあまりおいしくなくてねえ」とつぶやく。
 ▼苦情が相次いで
 「ヘルパーが時間を守らない」「ヘルパーの仕事が粗く、母(75)はかえって体調を崩した」…。そんな訪問介護に関する苦情・相談が、国民生活センター(東京)と全国の消費生活センターに続々と寄せられている。
 国民生活センターが昨年一月から同十月まででまとめたところ、訪問介護に関する苦情・相談は四十六件。サービス別では有料老人ホームの五十四件に次ぐ多さだった。
 北九州市小倉北区の同市総合保健福祉センターで今月十日、「介護保険はヘルパーの働き方をどう変えたのか」をテーマに、シンポジウム(高齢社会をよくする北九州女性の会主催)が開かれた。ここでもヘルパーの質が話題になった。
 日本ホームヘルパー協会の因利恵会長が「ヘルパーの質が(介護保険が導入されてから)落ちている」と問題提起。その原因として「介護報酬の低さ」が指摘された。
 ▼家事援助に集中
 訪問介護の報酬単価は、原則として三十分以上一時間未満で「家事援助型」千五百三十円▽「複合型」二千七百八十円▽「身体介護型」四千二十円。基本的に単価の一割が利用者負担になるため、利用は自己負担が少ない家事援助に集中している。福岡市の場合でも、訪問介護利用の約五二パーセント(昨年八月)が家事援助だ。
 一方、「ゼンセン同盟日本介護クラフトユニオン」(東京)が昨年六―七月、ヘルパー八百十九人を対象に実施した調査では、パート・登録型の非常勤ヘルパーが全体の五七パーセントを占め、時給も千円前後が中心だった。因会長は「介護報酬が低いためにヘルパーの待遇も悪く、サービスの質低下を招いている」と分析する。
 こうした中、福岡都市圏のヘルパーら十四人でつくる「ヘルパー有志の会」は、介護の質向上を目指して月に一―二回程度、自主的な勉強会を開いている。これまで歯科医や作業療法士らを講師に招き、「口腔(こうくう)衛生」「慢性疾患のリハビリ」などについて学んできた。
 この取り組みは、介護保険制度が始まる一年前の一九九九年春から続いている。会の世話役、原田冊恵さん(53)は「介護保険が始まって以降、利用者の目も厳しくなり、私たちの真剣さも増している」と話し、「ヘルパー一人ひとりがサービスの質を高めていく努力をしていけば、待遇も良くなるはず」と期待を込める。


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