ポイ捨て防止に効果

 ●10円払い戻し
 昼休み。紙カップのジュースを飲み終えた生徒が、次々にカップ回収機の前に立った。ふたを開け、紙カップを逆さにして入れ、ふたをする。
 「カッタン」
 カップと引き換えに十円玉が出てきた。
 福岡県甘木市にある朝倉高校。食堂のジュース自動販売機を「デポジット式」に替えてから、丸二年。生徒はみな慣れた様子でカップを入れ、十円を手にしている。
 デポジットとは「預かり金」のこと。朝倉高校では、カップジュースの代金(八十―百円)に十円の「容器預かり金」が含まれていて、カップを専用回収機に入れれば、十円を払い戻す仕組みになっている。  「せっかく十円戻ってくるんだから、カップは捨てられない」「飲んだら必ず(回収機に)持っていく」。生徒は「当たり前のこと」と言わんばかりだ。
 言葉を裏付ける数字もある。校内のカップの回収率は九九パーセント。二年間、ほぼ変わりない。回収したカップはトイレットペーパーの材料になる。

 ●回収率は90パーセント
 九州に「デポジットの先進地」と呼ばれる島がある。大分県姫島村。人口三千人足らずの島に全国から行政、市民団体の視察が後を絶たない。
 姫島村では、島内で販売する缶入りジュースやビール(五百ミリリットル未満)がデポジットの対象。缶に「預かり金十円」と書いたシールが張ってあるので、すぐに分かる。
 一般的な缶ジュースは百三十円。島外よりも十円高いが、空き缶を店に持っていけば、十円を返してくれる。店に集まった空き缶は、村が回収、圧縮して、資源回収業者に売却する。
 二〇〇〇年度の空き缶回収率は九二パーセント。一九八四年にデポジットを導入して以来、ずっと九〇パーセント前後を維持している。  残りの約一〇パーセントは「家庭にたまっている分と、シールを珍しがる観光客が島外に持ち帰った分」(同村保健衛生課)。住民には、完全に定着していると言っていい。
 そもそも、姫島村がデポジットを始めたのは、空き缶の散乱防止とリサイクルを進めるためだった。狙いは的中。いま、村でポイ捨てされた空き缶を見つけるのは難しい。

 ●脱焼却炉から
 朝倉高校は、ダイオキシン排出規制で校内のごみ焼却炉を撤去したのをきっかけに、少しでもごみを減らそうと、紙カップのジュース自販機をデポジット式にした。
 以前は、植え込みや校舎のかげにカップがポイ捨てされていたが、「今はまずない」と生徒指導担当の日野欣典教諭。食堂の従業員も「先生や生徒が散らかったカップを拾う姿を見なくなった」と断言する。  「預かり金」を活用して、紙カップや空き缶を捨てずに再利用に回す。どちらも、ささやかな取り組みだが、ごみを減らす効果は、はっきりと表れている。

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 デポジットは意外と、九州のあちこちで実践されています。国の法律にすることは見送られましたが、関心を持つ企業や学校は増えており、市民運動も活発です。都市でも、農村でも、深刻なごみ問題。デポジットを通して、「いかにごみを出さずに再利用するか」を考えてみませんか。

※写真説明:デポジット式の紙コップの回収率は100%近い=福岡県甘木市の朝倉高校

2000/05/22朝刊掲載




 産業界にも変化の芽

 ●予想外の反響
 福岡市に本社を置くクリーニング会社「きょくとう」。昨年秋から、業界の先陣を切って、クリーニングハンガーのデポジットを始めた。
 仕組みは簡単。クリーニング代にハンガー一本あたり十円の「貸し出し料」を上乗せし、客がハンガーを店に戻してくれれば十円を返す。
 「初めはお客さんの抵抗を予想して、ドキドキした。でも、逆にお客さんにほめてもらっている」。岩崎美恵営業指導課長は「予想外の反響」を実感している。
 ハンガーはプラスチック製で、自社工場で殺菌、洗浄して再利用する。回収率は約五〇パーセント。標準的な工場で一カ所当たり、毎日数千本単位のハンガーが再利用されているという。
 デポジット導入前は、針金のハンガーを店で無料回収していた。だが、形状が変わりやすく、さびやすい針金は再利用には不向きなので、すべて産業廃棄物として処分していた。産業廃棄物は、衛生的なリサイクル品へと変身を遂げた。

 ●1号は入来商
 学校、官庁、企業、ショッピングセンター…。「アペックス」(本社・愛知県)が全国に設置しているデポジット式の紙カップ飲料販売機は、昨年一年間で、約一・五倍に増えた。
 利用者が回収機に使用済みカップを入れると、十円を返却する。こうして集めた年間約二百万個のカップは、静岡県内の製紙会社でトイレットペーパーに再生。できるだけ、自販機の設置先に購入してもらっている。
 全国第一号は鹿児島県の入来商業高校。一九九七年、環境教育とごみの散乱防止を目的に設置したところ、「ごみがなくなった」いう評判が県内外に広がった。九州・山口には、全国の四分の一近い九十二台が設置されている。
 デポジット式の増加について、アペックス環境部は「ごみゼロに取り組む企業や学校が増えている。世の中の流れに乗ってきたようだ」と受け止めている。

 ●大量廃棄社会
 「お客さんの環境に対する意識の高さを痛感する。時流でしょうか」。ハンガーデポジットに対する利用者の反応のよさを、きょくとうの岩崎課長は「時流」という言葉を使って強調した。
 経済成長の時代は「大量生産、大量消費、大量廃棄社会」を生んだ。ごみはいつの間にか、環境を脅かす存在になった。
 次第に、消費者は環境問題に敏感になった。産業界も「つくりっぱなし」ではいられない。三年前から、農業資材のデポジットに取り組むJA串間市大束(宮崎県)の幹部は「ごみの不法処理で風評被害が出ては大変。デポジットで、産地のクリーンイメージを大事にしたい」と語る。
 「時流」に乗って、廃棄する商品や資材の処理対策に力を入れる事業者は徐々に増えている。だが、回収方法、再生産、再利用と連なる「循環ルート」が整った商品は、まだまだ少ない。

※写真説明:クリーニングハンガーをはじめ、デポジットは産業界で少しずつ広がり始めている

2000/05/23朝刊掲載



 風穴を開けるために

 ●高校生も参加
 二月下旬の日曜日。福岡市博多区のビルの一室で、デポジット(預かり金)制度をテーマにした市民学習会が開かれた。会場いっぱいの六十人が集まった。
 「デポジットしたいもの」について、十人程度のグループごとに意見を出すと、不法投棄やリサイクルが懸案となっている物が次々に挙がった。自動車、家電、ペットボトル、弁当容器、食品トレー、電池、布団。どれも、生活に身近な大量生産商品ばかりだ。
 参加者の顔触れは、高校生、主婦、議員、町内会長とさまざま。福岡県内だけでなく、長崎県からも駆けつけ、活発に意見を交わした。
 「ごみ問題に風穴を開けたい人たちが、デポジットに期待する思いが伝わってきた」
 学習会を主催した市民団体「ワーカーズ・ごみ問題研究会」(事務局・福岡市)の片山純子代表は、会場のムードに手ごたえを感じた。


 ●地方から実践
  二十一万三千人―。
 昨年二月、市民団体が国会に提出したデポジット法制定を求める請願に添えた署名は、見込みを大きく上回った。
 署名の中心となったのは福岡県の「I LOVE 遠賀川流域住民交流会デポジット法制化を求める事務局」(妹川征男事務局長)。各地の市民団体と連携して集めた。
 請願は実らなかった。だが、妹川さんらは次の行動をすぐに起こした。市町村単位でデポジットを始めるための試案づくりへの挑戦だ。
 「国会で法制化されるのは、いつになるか分からない。自治体を巻き込んで実践し、住民を啓発しながら具体的な効果をアピールしたい」と妹川さん。地方からデポジットを広げようという熱意は、少しも冷めていない。

 ●入り口で抑制
 いま、ごみ処理の多くの面を市町村が負っている。多額の公費を投じ、ときに住民と対立しながら、ごみの後始末に四苦八苦している。住民や市町村では「こちらに比べて、メーカーの処理責任が軽いのではないか」という批判が募る。
 片山さんは「家電リサイクル法も、容器包装リサイクル法も、ごみの後始末のための法律。ごみ対策を『出口』から『入り口』に引き戻し、ものをつくる段階で手を打たなければならない。『出口』の対策ばかりでは、ごみ問題は解決しない」と主張する。
 西南学院大学経済学部の小出秀雄助教授(環境経済学)も「今後はメーカーが廃棄された商品を責任持って処理、再利用する流れが強まる」と指摘する。
 生産―流通―販売―消費―回収―再資源化・再利用。その流れの中で、産業界と消費者、行政が役割を分担する点にデポジットの特徴がある。メーカーがごみ処理の責任を負う「拡大生産者責任」も反映されている。
 「デポジットの理念は循環型社会づくりに通じている」。片山さんは確信している。
 (この連載は地域報道センター・前田隆夫が担当しました)


※写真説明:学習会で模造紙いっぱいに書かれた「デポジットしたいもの」。市民の関心も高まりつつある

2000/05/24朝刊掲載