
●遠の朝廷に哀愁の響●
銅の青みが古さを際立たせ、ふくよかな味わいだ。高さ百六十センチ、口径八十六センチ。唐草文様が新羅系の軒瓦(のきがわら)の文様と酷似していることから、渡来系の工人との関係も指摘されている。
鐘をつく撞座(つきざ)の位置は古いものほど高いとされ、この観世音寺(福岡県太宰府市)の梵鐘(ぼんしょう)は真ん中辺りに位置している。七世紀末の奈良時代の作で、現存する梵鐘では日本最古級。大きさ、形状がそっくりの京都・妙心寺の梵鐘と兄弟鐘といわれる。
かの菅原道真もこの鐘の音を聞いた。
都府楼はわずかに瓦の色をみる 観音寺はただ鐘の音をきく
突然、遠の朝廷・大宰府に左遷された道真が、「不出門」を誓って詠んだ詩だ。
太宰府の里に響き鳴り渡る鐘の音に哀愁を感じるのは、この不運の人物が重なるからだろう。
九州国宝展には、九世紀半ばに制作された西光寺(福岡市早良区)の梵鐘も並ぶ。観世音寺のものよりひと回り小ぶりで、撞座の位置も低い。
「ボーン」と、余韻が長く奥深い響きの観世音の鐘に対し、西光寺の梵鐘は「カーン」と甲高い。素朴な万葉文化と、きらびやかな平安王朝文化の違いだろうか。
(1998年4月9日朝刊)

