新時代を駆ける
[トップインタビュー]

てんぼう・あきひこ
 1964年、出光興産入社。福岡支店で、ガソリンスタンド勤務など新入社員時代を過ごし「出光マン」人生をスタートさせる。その後、多くの油田開発プロジェクトに15年間にわたり携わったほか、原油輸入に多額の外貨を使う国際金融部門を担当し、ロンドンの現地法人社長、取締役経理部長などを歴任。2002年6月に創業家の出光家以外から25年ぶりに社長に就任した。06年10月に東京証券取引所第一部に上場を果たした。趣味は料理。休日は、自ら食材を買い出しに行き、腕をふるう。1939年東京生まれ。東京大学経済学部卒。
天坊 昭彦氏

出光興産社長

天坊 昭彦氏

[出光興産ホームページ]  http://www.idemitsu.co.jp/

人と地域尊重脈々と
九州・福岡の道しるべ 西日本新聞社創刊130周年企画


 西日本新聞社の多田昭重社長が、九州と関わりが深い企業のトップと対談する本紙創刊130周年企画「地域の未来を語ろう」に、石油元売り大手「出光興産」(本社・東京)の天坊昭彦社長に登場していただいた。
 同社は、福岡・宗像出身の出光佐三氏が1911年、門司で興した九州ゆかりの企業。創業95周年を迎えた2006年10月、株式を東京証券取引所第一部に上場した。対談は、上場を機に加速する出光の新たな成長戦略や九州での事業展開、地域貢献など多岐にわたった。
[2007年3月31日朝刊掲載]
出光興産の今後の成長戦略や地域とのかかわりについて語り合う天坊・出光興産社長(左)と、多田・西日本新聞社社長
出光興産の今後の成長戦略や
地域とのかかわりについて語り合う
天坊・出光興産社長(左)と、多田・西日本新聞社社長
●株式上場で会社を変革

 多田 東証一部上場から5カ月余り。株価は順調に推移していますね。
 天坊 おかげさまで終値は今のところ、ずっと初値(1万5百円)を上回っています。
 多田 創業家以外から25年ぶりに社長に就任なさり、非上場の従来方針を転換しての上場でした。並大抵の決断ではなかったと思います。さぞご苦労があったのでは。
 天坊 上場は、私の社長就任前に決定したことであります。私自身はそんなにすごいことをやったという気持ちは全然ありません。世の中の変化に対応していろんな改革をしていかないと、会社は発展できません。出光には、関係する全国5千のSS(サービス・ステーション)を運営しているたくさんの販売店や、多くの協力事業会社もあります。こうした方々をはじめ、大きな社会的責任をきちっと果たすには、会社は経営の仕組みや財務などが健全でなくてはいけません。責任を果たすために「やるんだ」と思っていました。上場していなかったら今、もっと大変な苦労をしなきゃいけなかったんじゃないかなと思います。
 多田 ピーク時に2兆円を超えていた有利子負債は、9千億円台にまで減少しました。革命的なことですね。上場によって社風も変わりますか。
 天坊 上場するためには、会社の仕組みを変えなければならないこともありました。
 ただ一方で強調しておきたいのは、企業理念・根本はまったく変えていないということです。私たちの精神的支柱は何と言っても創業者、出光佐三の「人間尊重の事業経営」にあります。これはそのまま受け継ぎ、実践していくことが大事であると社員にも言っています。
 多田 これからの事業展開はどのようにお考えなのでしょうか。
 天坊 石油・石油化学(基盤)事業、高付加価値事業、資源開発事業が三本柱と考えています。
 今、当社の売り上げの約95%が石油と石油化学の製品販売です。石油エネルギーの国内需要は減少傾向にありますが、2030年でも日本の一次エネルギーの4割を石油が占める見込みです。当社の事業の中心は今後も石油と石油化学になるだろうと思っています。しかし同業他社も多くて価格競争が激しく、これだけで利益を出すのは難しくなっています。
 多田 そこで次世代ディスプレー(画面表示装置)の「有機ELディスプレー」などの開発にも取り組んでおられるわけですね。


●新素材が成長の原動力 九電と共同で地熱活用

 天坊 有機ELディスプレーは、自ら発光する有機物を利用しています。当社が開発した有機EL材料を用いたディスプレーは、液晶と比べても色が鮮明で節電も期待できます。当社の研究開発が生んだ新素材を生かした事業は、他社と差異化でき、収益を見込める高付加価値事業です。今後は成長の原動力にしたいと思っています。
 有機ELディスプレーは現状では、製作コストが高いという点はありますが、ソニーと一緒に、早く実用化しようと研究しているところです。米ラスベガスの電気製品ショーにソニーが11インチ、27インチのテレビを出品したら大反響があったそうです。
 多田 資源開発にはどのように取り組んでおられるのですか。
 天坊 当社は他の国内の石油会社と違い、石油以外でも石炭とかウランとか地熱とか資源開発を行っています。これも少しずつ規模を大きくしたいと思っています。石油開発の現場はノルウェー領北海にあり、日量3万バレルの取り分があります。当社精製能力(日量約64万バレル)の約5%に相当します。ノルウェー鉱区はさらに獲得を目指していきます。
 このほかベトナムに3つの鉱区を持っており、1つの鉱区で昨年石油を見つけました。近くにさらにもう一本試掘に成功すれば日量2万〜3万バレルの生産ができると期待しています。
 多田 天然資源に乏しい日本では、エネルギー源の供給確保は大きな課題ですね。
 天坊 ほぼ全量を輸入に依存している石油、ガス、石炭などの安定確保の取り組みは非常に大事です。また、あまり知られていませんが、火山国・日本には豊富な地熱があります。これを活用していく必要があります。
 当社は大分県・九重町で九州電力と共同で地熱利用の発電事業に取り組んでおります。阿蘇山の周辺など、他にも地熱開発に有望な地点はたくさんあります。
 しかし、有力地の多くは国立公園内にあり、開発・調査が厳しく制限されており、また温泉法の規制があります。この2つの問題を解決するための制度変更が必要です。地熱は二酸化炭素などを排出しないクリーンエネルギー。フィリピンなどでも普及が進んでおり、当社も積極展開したいと思います。
   

●社会貢献は地道に継続 温暖化防止に積極協力

 多田 出光は社会・文化貢献活動も熱心ですね。4月1日から出光美術館(東京)収蔵品を集めた「美のこころ-東洋の至宝 出光コレクション」展(西日本新聞社など主催)が福岡市美術館で始まります。
 天坊 創業者の出光佐三が収集してきた出光美術館の所蔵品には国宝もあります。当社が1986年に初めて外債を発行した際、私は金融関係者への記念品として出光美術館の所蔵品カタログを配布したのですが、欧州の多くの関係者が出光美術館に来たか、その存在を知っていました。今回の福岡でのコレクション展には、所蔵品の中から優れた美術品を数多く出展しています。
 当社は、地方で開催する出光コレクションの展示会に協賛という形で支援しています。また美術館は門司にもあり、常設展などを開いています。当社提供のテレビ番組『題名のない音楽会』も既に40年以上続いています。目先の変わったことでなく、こうした活動の継続で社会に貢献したいと考えています。
 多田 社長は石油連盟政策委員会の委員長を務められています。どのような活動をなさっているのでしょうか。
 天坊 石油や石炭エネルギー供給者は、大量の二酸化炭素を発生させる素をつくっているといえ、地球温暖化への取り組みは連盟にとって重要な課題です。政府は10年度までに、バイオ燃料を原油換算で年間50万キロリットル使う目標を掲げています。連盟は、バイオエタノールをETBEという化合物にしてガソリンに混合し、21万キロリットル分を使うと表明しています。
 また政府・与党はガソリン税など道路特定財源の暫定税率を08年度以降も維持し、道路歳出を上回る税収を一般財源化しようとしています。これに連盟は強く抗議しています。自動車ユーザーは「使い道を道路整備に特定する」と約束したから本来の税率の2倍以上に引き上げられた暫定税率を容認してきたのです。道路特定財源は全額道路整備に充当すべきであり、そうでないなら減税するのが筋です。


出光興産株式会社

 1911年、福岡県宗像郡赤間村(現宗像市赤間)出身の出光佐三氏(1885―1981年)が門司に出光商会を設立し筑豊の炭鉱などを相手に機械油の販売に乗り出したのが始まり。「人間尊重の事業経営」を掲げ、「消費者本位」を旗印に事業を拡大し1940年に社名を出光興産に変更。戦後、製油所建設や石油化学に進出し、現在は石油元売り2位。石油・石油化学事業を軸に高機能樹脂・電子材料など次世代ビジネスにも力を入れている。国内18カ所、海外36都市に事業拠点を持ち、売上高は連結で3兆3100億円(2007年3月期見込み)。従業員は約7500人。