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民雄(55)=仮名=は、真夏の宮城県・仙台空港に降り立った。手押し車に載せた荷物の中身は、プラスチック製の「090金融」の看板。A3判コピー用紙ほどの大きさで計百枚、五十キロ近くあった。福岡県内の自宅に届いた宅配便の包みのまま、持ってきた。
ヤミ金融の看板を仙台市内に張って回るのが、「旅」の目的だった。一枚が二百円。二万円で請け負った。
旅費をもらい、午前の便で福岡空港をたった。だが日が高いうちは「仕事」はできない。時間つぶしに観光地をぶらつく気にもならない。「どの辺りにしようか」。レンタカーに看板を積み込み、重い気分で見知らぬ市街地へ向かった。
「利息払えんのやったら、カンバンや」。あるヤミ業者から、こう持ちかけられたのは初夏だった。民雄には090金融だけで十社から百八十万円ほどの借金があった。「学生はすぐごまかしよる。あんたなら安心や」。報酬はそのまま利息支払いに充てられた。
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深夜一時を過ぎると、人通りが絶えた。仙台市の国道沿い。ガードレールに専用の留め具で看板を固定する。同業者の看板はほとんどない。090金融“先進地”の福岡とはまるで違う光景。
「この一枚で、何人を自分と同じ目に遭わせるんだろう。何人が、あいつらの罠(わな)に落ちるんだろうか」。罪悪感を振り払うように、懐中電灯のスイッチを入れた。電柱の表示で確認した場所と取り付けた枚数を報告書に書き込んだ。
これまで張った看板は、優に千枚を超える。仙台、新潟、名古屋…。九州は全県回った。
民雄は妻と別れ、福岡県内の小さな町で男手一つ、七人の子を育ててきた。三人は独立したが、末娘はまだ小学生だ。
「もし逮捕されたら…」。目の前で止まったパトカーに身がすくんだこともあった。しかし、「そこ、看板はだめよ」と注意はされても、事情まで聴かれたことはない。ほっとする半面、違法業者の看板をなぜ野放しにするのか、もどかしさも募った。
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発端は二月だった。「かみさんの出産費用がいるんよ。三十万」。金融業で集金係をする知人から借金を申し込まれた。民雄は日銭を稼ぐ自営の運送業者。子どもたちを養うのが精いっぱいだった。きっぱり断った。
一週間後、再び訪れた知人は手を合わせた。「うちの社長が民雄さん名義なら貸すというんで、名義だけでも」。二十万円なら、と渋々応じた。
それから三カ月。「社長」から電話があった。「あんた、うちから二十万借りとるやろうが」。知人は行方をくらましていた。「かみさん」も「出産」もすべてうそだった。
十日で一割もの利息をとるトイチ業者だった。利息は月六万円、期限が過ぎると一日千円の罰金を支払わされる。
その月末、予定した仕事が延期になり、早くも利息返済に行き詰まった。駅前の090金融の看板が目に入った。「日銭が入れば、いつでも返せる」。初めてだったが、抵抗感はなかった。
民雄の「地獄」が始まった。返済期日が来る度に、別業者を探した。利息はトイチどころか、週五割や一日一割まであった。いつも「日銭が入れば…」と自分に言い聞かせ、深みにはまっていった。
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[2002/12/27朝刊掲載]
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