連 鎖 〜 「すがりつく客いる限り」 〜


 名刺の表に「東日本お悩み相談サービス」とあった。  差し出したのは、東京都知事登録のヤミ金融、トイチで働く松岡=仮名=だ。「これからは個人的に、こっちでも稼いでみようかと…」
 客への脅しどころか、貸していない多重債務者からも、利息名目で金品を奪うなどの強盗行為を繰り返してきた松岡。
 「顧客の拡大、そろそろ難しいし。借金膨らました客に、まとめて処理する方法、教えてやるんですよ」。自己破産の方法、相手がヤミ金融なら被害届の出し方、告発状の作り方。「警察で相手にされなければ、検察に行け、泣き寝入りするなってね」
 弁護士に借金整理を依頼すれば、都内では約四十万円が相場といわれる。「それを十万程度で引き受ける。その代わり、おれんとこの支払いは続けてもらうけどね。雪だるまになってるやつは喜ぶよ」


 「ヤミ金はもう頭打ち」。九州の指定暴力団組員、梶原=仮名=も、そう読む。「組織やから、もともとヤミ金が収入のすべてやない。新しいシノギ(稼ぎ)、組ではもう考えよります」
 まず挙げるのは産業廃棄物。「昔からあるけど、これからが旬。確かに国内での取り締まりは厳しくなっとるし、密輸も中国なんかは検査が厳しい。北朝鮮も拉致問題でダメ。今の狙い目はロシアですわ」。ロシアへの産廃不法投棄を請け負うヤミビジネスが有望というのだ。
 次は車。高級車を盗み、盗難車と分からないように細工して売りさばく。「合鍵なくても、わしらのやり方なら、盗むのは簡単。盗難車と見破られんよう、車台番号から車検証まで変える。手間かかるけど、まあ、いい商売や。それでも、ヤミ金はひっそり続けていくやろけどな」



 一月中旬、東京都港区の都貸金業協会では、新規登録業者への登録証交付式が開かれていた。出席者は約八十人。狭い会場は満席だった。交付式は月に二、三度ある。「毎回満員。減る気配はありません」と都の職員。
 ロングコートに茶髪、トレーニングウエア上下にサンダル履き。新規業者の大半はそんな二十代前半の若者だ。十八歳の少年が、後見人を付けて申請したこともあったという。
 職員は、彼らの後ろ姿を見やりながら、「今の制度では、認めない理由は見つからない。ヤミ業者に登録証を交付するために仕事しているのかと思うと、むなしいばかりです」と、目を伏せた。
 手を替え品を替え「カネ」に群がるヤミの男たち。弁護士は刑事告発を、警察は摘発を懸命に続けている。  「でもね」。都内のヤミ業者はうすら笑いを浮かべた。「貸してくれと、すがってくる客がいる限り、この商売、なくならないよ」
 =おわり(社会部・ヤミ金融取材班、コラージュは画像センター・下川光二)




 日弁連の「ヤミ金融対策法要綱」

 日本弁護士連合会が昨年11月、「被害者救済とヤミ金融摘発強化」を目的に作成、緊急立法を求める意見書とともに関係省庁などに提出した。要綱には、出資法に違反する高金利(年29.2%超)での貸金契約は無効とし、もし貸し付けた場合、貸し手は借り手に対して元金も返還請求できないことを明示。ヤミ金融業者を「違法高金利または無登録で営業する業者」と法的に定義し、取り立て行為のほか(1)新聞、雑誌などへの広告(2)郵便やファクス、電話による融資勧誘(3)金融機関への口座開設−などの営業行為を禁じている。現行の出資法、貸金業規制法の罰則強化や、貸金業登録時に保証金1000万円程度を供託させる制度の導入なども盛り込んでいる。

[2003/03/02朝刊掲載]