まだ果たしていない「約束」があった。 「博多で暮らす子どもたちに渡してください」。旅の途中、紙面に登場してもらった鹿児島県川内市の中国料理店「中華園」の奥さん林靖子さん(48)から茶封筒に入った双子の兄妹への手紙を預かったのは、一月九日のことだった。
取材ノートの最後のページにセロハンテープで張り付けていた茶封筒。鹿児島、宮崎、熊本…。二十八日、九州各地を回った旅の思い出話と一緒に手紙を届けた。
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「母からの手紙に励まされました」と話す林広典さん、紀江さん兄妹 |
広典さん(21)、紀江さん(21)兄妹は福岡市・天神に近い同市中央区春吉のマンションに暮らす。広典さんは一浪後、九州大に入学し、現在医学部の二年生。紀江さんは九州大経済学部の三年生だ。それぞれの個室と台所兼居間。家から送られてきた中華なべや、茶わん蒸しを作るときに使うという蒸し器もあった。
茶封筒を手渡す。手紙に目を落とした二人は照れくさそうに笑った。見せてもらった一枚の便せんには、こう書いてあった。
「広君へ 頑張りすぎて体を壊さないでね。健康第一。困ったことがあったらすぐ連絡してね」
「のんちゃんへ 目標に向かってつっぱしれ!みんなで応援しているからね」
「愛してるよ 靖子」
母からのラブレター。二人は「母の愛情を感じました」「温かい応援に感激しました」と、短い言葉に思いを込めた。
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頑張り屋の二人。朝六時には起きて朝食と昼用の弁当を作る。休みの日も家で机に向かう。医師と税理士になる夢が二人の背中を押し続ける。
「両親が、お店をしているから税理士は身近な存在でした。私が税理士になったら両親の役にたてると思って」と紀江さん。広典さんは「医師としての経験を積んで、いつかは川内に帰りたい。今でも、鹿児島弁のイントネーションが抜けないんですよ」と、笑いながら話してくれた。
川内にいたころ、親子のコミュニケーションの場は、毎夜通っていた自宅近くの温泉。野菜を刻み、中華なべを懸命に振る両親の背中が間近にあった。それが家族の絆(きずな)を太くした。
離れていても古里に心を通わせる二人から靖子さん、そして父親の義秀さん(49)への返信。
「家業を継がず、医師になる夢を認めてくれて、感謝しています」「無理をしないで。体に気をつけてください」
取材の礼を言ってマンションを出た。雲間から陽光が降り注ぐ。春。家族や友人たちとの別れ、そして新しい出会いが始まる季節が、また巡ってきた。
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昨年末、奄美大島の名瀬港から始めた「あなたに会いたい 九州on the road」は今回で最終回。五人の記者が交代で北上、二カ月かかった旅の途中、韓国・釜山にも足を延ばした。名瀬から終着点の福岡市までの全行程は、約二千五百七十キロ。JRを乗り継げば、博多から北海道の中央部・旭川までの距離とほぼ同じになった。
雪深い山里で元気に遊ぶ小学生たちがいた。江戸時代からの石垣を守り続ける老夫婦がいた。イチゴづくりに将来を託す農業青年がいた…。たくましく、心豊かに生きる人々の暮らしがそこにあった。身をもって感じた私たちの古里・九州の広さ。しばらく間を置いて、「あなた」に会う旅をまた、始めたいと思う。 (社会部・田端良成)
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