趙 章恩さんプロフィール

 西日本新聞社は、2003年1月から、韓国有数のITジャーナリスト趙章恩さんに「韓国のIT事情」をリポートしていただくことになりました。随時、IT先進国・韓国の最新情報をネット発信していきます。

 趙さんはITジャーナリストであると同時に、世界中から殺到するIT視察団を切り盛りするコーディネーターとしても知られています。「韓国インターネットの技を盗め!」(アスキー刊)などの著書があり、2002年5月には、西日本新聞社などが実施した日韓ITイベントにパネリストとして参加するなど、韓日両国を中心に飛び回っています。

 3歳から高校卒業まで韓日を行き来する生活で、日本語も完璧。九州とも縁が深く、阿蘇山などを訪れています。ISPコアラのインタビューでは「韓国から、ものすごい観光客が福岡を目指してフェリーに乗っているようですね。韓国でも、福岡は奇麗なところがたくさんあることで有名です。韓国との交流も一番盛んなところですね」と語っています。

 趙さんの韓国ITリポートは、西日本新聞社ホームページでしか見ることができません。鋭い分析力と現場感覚あふれる「趙ワールド」をお楽しみください。

   
   
 

第三回

ネット先進国・韓国のTVドラマ事情
テレビとネットで同時オンエア
VODでビデオ予約不要

 
         
       
   韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」が、日本のテレビでもオンエアされ、大ヒットした。こうしたトレンディ・ドラマは韓国でも人気が高いが、その放送形態は、日本では考えられないだろう。というのは、テレビとインターネットで、同時にオンエアされるケースが多いからだ。ネット先進国ならではの動きだが、急速に高速ネット化が進む日本でも、今後はテレビとネットの同時放送が当たり前になるだろう。

 韓国のテレビ局がネットに流す番組は、ドラマに限らず、ニュースやバラエティ番組など、多岐にわたる。しかも、ほとんどの番組はVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスによって、いつでも見ることができるので、とても便利。「ドラマが始まっちゃうから」と急いで帰宅したり、「頼んでいたのに、どうして予約録画してくれなかったの」とお母さんとけんかするといったことは、韓国では昔話になりつつある。

いつでも、何度でも、どこからでも、見たい番組がインターネットで視聴できる。これは、高速ネット社会ならではの恩恵である。

 最近人気が高い番組は、女性が主人公となったドラマだ。朝鮮時代の女刑事物語や、王様の食事を担当する宮女たちの暗闘と禁じられた愛(宮女は王様しか愛してはいけないので)を描いたドラマは視聴率四〇パーセントを超えた。

ネット上に、ドラマのファンクラブがいくつも結成された。「登場人物の誰々を殺すな」とか「ハッピーエンドにしろ」とか、もう大騒ぎ。韓国のドラマは、放送分すべてを事前に制作するのではなく、撮影と放映がぎりぎりのタイミングで進む。このため、ファンの「声」がドラマに反映されやすい。「冬のソナタ」だって、「男性主人公を殺すな」というネットでの声が反映され、あの結果になったのだ。

 インターネットで視聴する番組は、国営放送に近いKBSは無料だが、民放(SBSとMBC)は有料だ。冒頭に二分間ほど動画広告が流れ、番組が始まる。VODの料金は、「番組一話分を、二十四時間の間に視聴する」で五百ウォン(約五十円)。ダウンロードするなら一千ウォン(約百円)。ドラマのシナリオも二百ウォン(約二十円)で売っている。

 最近は、ネット版とテレビ版とでは、ドラマの最終回だけ違うものを流すのがはやっている。ネットユーザーが「お金を出しても、もったいなくない」と思うようなサービスとして、NG場面集やスターのインタビューなど、色々な付加コンテンツを提供し、楽しませてくれる。

 それでも、ネットユーザーは不満だ。テレビ局が収益増を狙うあまり、ショッピング・ビジネスに力を入れ過ぎているからだ。「冬のソナタ」でも、主人公がプレゼントされた「ポラリス・ネックレス」やマフラーなどがブレイクした。これも、テレビ局と企業の提携による広告の影響だ。

 韓国の場合、番組のスポンサーであっても、企業名を出すPPL広告は禁じられている。このため、さりげなく、主人公を利用して商品を登場させ、どんどんネットで販売している。VODの番組が終わるまで、しつこく「今画面に登場しているこの指輪を買いませんか?」と、スパムメール並みの広告がつきまとうので、気が散ってしょうがない。

 他にも、「途中で画面がストップした」「画質が悪い」など、苦情は絶えない。テレビ局は「質の高いサービスをするために、VODを有料化する」と言ったのだが、画質、バッファリングの問題は二年たっても改善されていない。

 韓国のネットユーザーたちは「有料化には賛成するとしても、無駄遣いはしたくない」と考えている。ネットで見られるだけで満足していた時代は終わった。家にテレビもビデオも置かず、コンピューターで何でも済ませてしまう家庭が増えている中で、ネット放送はさらなるレベルアップが求められている。

 日本でも、テレビ番組をネットでVODサービスする試みが一部で始まっているが、韓国のように、テレビ番組を同時にネットでも放映したり、テレビ放映直後に、間髪いれずVODサービスを提供するといった環境になるには、もう少し時間がかかりそうだ。

しかし韓国のネットユーザーと同様に、日本のネットユーザーも「有料でもいいから、早くサービスして!」という気持ちが強いのではないだろうか。私も、早く日本の人気ドラマをネットで見てみたい。

◇ ◇

※ (注1)VOD=ビデオ・オン・デマンド。テレビ番組を、インターネットを利用して、好きな時に何度でも見ることができるサービス機能。映像のデータベース化と、ブロードバンド環境が必要。

※ (注2)PPL=ペイ・パー・リード。アフィリエイト(ホームページにバナー広告などを設置し、商品販売や会員獲得などについて提携する個人や法人)のサイト内に設置された広告経由で、ユーザーが会員登録などを行った件数によって支払われる報酬形態。

※ (注3)バッファリング=データを一時的にコンピューターに蓄積していき、データ処理を滞らせないようにする動作。

【写真説明】韓国のテレビ局がサービスしているVODは、パソコンだけでなく、携帯電話でも利用できる。

【趙さんプロフィール】 ソウル在住のITジャーナリスト。西日本新聞社ホームページに「韓国のIT事情」を随時リポートしている 。3歳から高校卒業まで日韓両国を行き来しており、日本語も完璧。著書に「韓国インターネットの技を盗め !」(アスキー刊)など。

   
       

▽趙さんの 韓国IT事情 バックナンバー
【第一回】疾走する世界最先端のITコリア ブロードバンドなんて当たり前 電脳アパートで夢の極楽生活
【第二回】IT大国・韓国を揺るがした「1・25ネット大乱」 サイバー社会の落とし穴に衝撃 新政権の政策にも影響必至
【第三回】ネット先進国・韓国のTVドラマ事情 テレビとネットで同時オンエア VODでビデオ予約不要