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| ジャワ島中部の郊外に広がる畑。かつては、ここも森林だったという |
その眺めは痛々しかった。かつては、「赤道のエメラルド」と呼ばれた深緑の熱帯雨林の国、インドネシア。しかし、首都ジャカルタ市に向かう飛行機から見えた島影が赤茶色に見えたのは、決して夕刻の陽光に照らされていたからではなかった。平たんな土地には、田畑とみられる茶色い格子じまがどこまでも広がり、雨期とはいえ、島の輪郭は茶色の絵の具を溶かしたように濁っていた。
インドネシアは、ブラジルに次ぐ熱帯雨林保有国。地球上で、生物の多様性がもっとも豊かな国の一つとして知られる。しかし、その豊かな生態系がいま、急速に失われている。「三十年後には砂漠になる」という説もある。同国を訪れて、初めて実感した。
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地球の陸地面積の1%程度しかない国土に、世界の動植物種の約20%が生息しているといわれる。そんな多様性をはぐくんだインドネシアは、約一万四千もの島々からなる。島々は東西に伸び、その延長距離は、米国を横断するのとほぼ同じ。当然、気象や地形もさまざま。生き物たちは、熱帯雨林からサバンナ、マングローブ林、さんご礁、高山帯などさまざまな環境に対応し、種の分化を進めてきたというわけだ。つい最近、一九九八年にも、古代魚シーラカンスの新種が、スラウェシ島北端の海で発見されている。
もう一つのキーワードが「ウオーレス線」だ。同国にある二つの動物地理区を分ける境界線のことを指す。動物地理区というのは、動物の生息分布から世界の陸地を六つに分けたもの。境界をまたいで同じ動物が住むことはまれという。
英国の博物学者の名前をとったウオーレス線は、ボルネオ島とスラウェシ島の間、それからバリ島とロンボク島の間を通り、同国を大きく東西に分ける。西側は「東洋区」と呼ばれ、インドや沖縄と同じ区分となり大陸系の動物がいる。東側は「オーストラリア区」で、カンガルーやコアラなど有袋類がいるというから驚きだ。
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しかし、アジア最大の熱帯雨林保有国の姿も、永遠ではないと気付かされるときがきた。
インドネシアではいま、「命の揺りかご」ともいえる熱帯雨林が、毎年二百万ヘクタールずつ消えている。九州の面積の約56%。世界銀行の試算では、このペースだと二〇〇五年にスマトラ島、一〇年にカリマンタン島の熱帯雨林が消滅する。
主な原因は二つ。一つは商業的な違法伐採。もう一つが森林火災による消失だ。 同国で日本の国際開発事業団(JICA)が取り組む「生物多様性保全プロジェクト」の一員として、一九九九年からインドネシア科学院で調査・研究する岡山俊直さん(35)=大分県出身、JICA派遣専門家=は、「遠くの島にも都心部からの移住者が増え、無謀な森林伐採が進んでいた」と危機感を語る。
法で保護を義務づけても、木材は大きな収入源。JICAインドネシア事務所の資料によると、半数以上の国立公園で、高く売れる木を狙った違法伐採の深刻な被害が確認された。森林省が昨年、木材伐採業者二十七社を調査したところ、約半数が違反していた。現地の環境保全研究に携わる関係者の一人は、「スハルト独裁政権が倒れて以降、地方に『ミニスハルト』的な人物が続々と現れて利権を手にし、違法な伐採、加工、輸出で相当な利益を得ているらしい。通関も『袖の下』で簡単と聞く。実態は闇だが…」と、問題の根深さをにおわせた。
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「日本では天然素材と人気のパーム油せっけんも、深刻な環境破壊の一因になっているんです」。皮肉ですねと、岡山さんが雑談しながら苦笑した。
食用油や洗剤の原料となるヤシは、プランテーション農園で大規模に生産される。八五年に六十万ヘクタールだった同農園の総面積は、〇〇年には三百万ヘクタールを超えた。世界自然保護基金(WWF)は、二〇年までに世界のパーム油需要は現在の一・七倍になり、その大部分はインドネシアのプランテーション開拓で賄われると推測した。
プランテーション建設には、先進諸国の企業が出資している。また、違法伐採された木材は、実態を把握できてはいないのだが、世界有数の木材消費国・日本が最大の「買い手」になっている恐れは強い。
日本人は、自分たちに身近な環境問題には、かなり関心が高まった。ただ、私たちの消費行動は、インドネシアの森林破壊問題にも、色濃く影を落としていることを深刻に受け止めなければならない―現地で、そう強く感じた。
インドネシアで保護が急務とされている「生物多様性」。環境省によると、三つのとらえ方がある。一つは、生態系の多様性。もう一つが種の多様性。そのほかに種内の多様性として、同じ種でも、地域によって体の形や行動など特徴がやや違うことを指す。
●世界有数の生物多様性
種の多様性でみると、インドネシアにいるほ乳類は五百種以上で、一国としては世界一。全世界にいるうちの約12%に当たる。それ以外でも、鳥類が約16%、は虫類が約31%、両生類が約23%に達する。参考に日本と比較すると、ほ乳類は日本の約三倍、は虫類は約二十一倍の種がいることになる。インドネシアにしか生息しない固有種も非常に多く、ほ乳類、鳥類ともに約四割が相当するという。
動物地理区については、東洋区とオーストラリア区との間に「中間の移行帯」があるという研究者もいる。この説を採れば、一国に三つの動物地理区を持つのは、インドネシアだけである。
2003/02/25 付 朝刊