![]() |
| 「オゾン層破壊の衛星画像はショックだった」と語るNASAのゴダード宇宙飛行センターの研究員、マイケル・キングさん |
地球観測衛星で宇宙から地球を見ることができるようになって、新たな発見も相次いでいる。
米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター(メリーランド州)の研究員で、大気の専門家、マイケル・キングさんは「衛星画像でオゾン層の破壊の実態を目の当たりにしたときは、言いようのない衝撃を覚えた」と話す。
オゾン層は、有害な宇宙の紫外線から地球の生物を守っている。一九七〇年代からフロンガスがオゾン層を破壊するとの学説が出されていたが、毎年観測を続けていた衛星画像が、南極上空のオゾン層が薄くなった部分、オゾン・ホールの変化をはっきり映し出した。キングさんは「八五年ごろだったと記憶している」という。
一方で、キングさんは「面白いというか、意外な発見もあるんです」と言いながら、パソコンのモニター画面で一枚の衛星画像を見せてくれた。海に数本の白い線が走っている写真だ。線は船の航跡。
キングさんによると、大気や雲に遮られて見えないはずなのに、船の動き、エンジン音などが空中の塵を舞い上がらせ、それに衛星のセンサーが反応、線となって記録されたのだという。
◇ ◇
センターを訪ねたのは、昨年十二月。日本が環境観測技術衛星「ADEOS2」(「みどり2」と命名)を鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げる直前だった。「成功を祈っています」。センターでの取材中、会う人ごとにそう声をかけられた。
打ち上げに成功し高度八百キロの軌道で現在、地球を周回している同衛星は、日本のほかNASA、フランス国立宇宙研究センターの地球観測機器も搭載。世界最大規模の衛星で、地球温暖化など気候変動の仕組み解明に世界の注目が集まっている。
一九九二年の国際宇宙年を機に、衛星開発や打ち上げ、観測を各国が分業する国際協力は飛躍的に進んだ。中でも日米協力のきずなは深い。キングさんと、センター案内役のマット・シュワラーさんは「日本は、米国の最良のパートナー」と口をそろえた。シュワラーさんは、今回の「みどり2」に関する日米の情報交換、送信システム管理の責任者の一人という。
熱帯降雨観測衛星「TRMM」(運用開始・九七年十一月)、地球観測衛星「アクア」(同昨年五月)など、日米協力プロジェクトは多い。協力も衛星の共同開発やデータの相互受信、科学者の交流などさまざまな分野に及んでいる。
◇ ◇
同センターにも、宇宙開発事業団(NASDA)の開発部員、三浦聡子さん(32)が駐在。日米の連絡調整にあたっている。
三浦さんは宇宙飛行士になるのが夢だったが視力が基準に満たず断念。昨年のアクア打ち上げ直後は、センサー故障などもあって同センターで缶詰め状態が続いた。
三浦さんは「米国から学ぶことは多い。特に宇宙事業の歴史が長く、経験豊富なだけに、(衛星の故障など)危機の際の対応、判断がすごい」という。一方で「衛星が集めた膨大なデータが地球環境保護のために十分に生かされるよう願っている」とも。
キングさんは「アフリカやアジアなどコンピューター施設の不備から、情報を共有できていない国や地域もまだ多い」と指摘した。 NASAで地球観測の研究にあたる科学者たちの心配は、財政事情という。NASA全体の新年度予算案は、日本円にして一兆八千億円余り。NASDAの十倍近い。それでも科学者たちは世界的減速経済の中、削減を恐れていた。NASDAの方も新年度からの組織再編が決まっている。
シュワラーさんに、ちょっと意地悪な質問をしてみた。「地球温暖化防止のための京都議定書に米国は反対してますが…」。答えは「政治の世界と(地球観測にかかわる)われわれの分野とは違います。地球環境を守ろうという気持ちは日米同じだと思います」。
そして、日本への期待として「日本は人材も豊かだし、技術も優秀です。一人でも多くの青少年が地球や宇宙に関心を持って、地球を守る科学者になってほしい」と話した。
▼文と写真/ワシントン支局 平山 孝治
2003/01/28 付 朝刊