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| 月明かりで白く浮かび上がったマッキンリー(左)とハンターの上空に現れた緑色のオーロラ |
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| 夜空を赤紫に彩るオーロラを雪銅からのぞむ |
深い静寂に包まれた、二月のアラスカ山脈(米国アラスカ州)の夜。大自然がつくりあげた、岩と雪と氷だけの無機質な世界が広がる。ぴんと張りつめた氷点下三〇度の寒気のなか、天上には無数の星がきらめいている。あまりにも空気が澄んでいるからなのか、瞬いている星の色が、黄、緑、赤、青へと変化しているように見えるのだ。
アラスカ第三の高峰フォレイカー(五、三〇四メートル)の尾根、標高二、四六〇メートル地点に設けた雪洞キャンプで、私はオーロラが現れるのをひたすら待っていた。今回で通算五回目の冬のアラスカ登山なのだが、オーロラが見えやすい晴れた日の深夜は、翌日の登山活動に備えてキャンプで寝ていることが多く、これまでにオーロラに出合えたのは、三年前の一晩だけだった。
この冬のアラスカは、雪が少ない異常気象に見舞われた。アラスカ山脈の麓(ふもと)の町タルキートナでは、昨年十一月と十二月に観測史上もっとも少ない降水量を記録。今年一月に入山したフォレイカーでも雪は少なく、登山ルートが安定せずに危険なため、前半の一カ月で登山を中止した。そこで代わりに、後半の日程をオーロラ観測にあてることにしたのだ。
やがて、一条の緑色の光が北の空に現れた。最初は雲のように漂っているだけだったオーロラは、しばらくしてその形を変え始めた。凍(い)てついた暗黒の空を、まるで生き物のようにゆらめいている。炎のカーテンは、次第にそのひだの数を増やしながら、北米大陸最高峰のマッキンリー(六、一九四メートル)上空に広がっていった。その振る舞いをじっと見つめていると、自分が天空に吸い込まれていきそうな感覚にとらわれる。夜がふけるにつれ、オーロラの華麗なダンスはアラスカ山脈全体を覆っていき、いくつかの流星が走っていった。
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オーロラは、太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子(荷電粒子)と地球の磁場との相互作用で電力が生じ、それによって流れる電子が地上百キロ以上の超高層大気に衝突して発光する現象だ。オーロラの原理は、カラーテレビにたとえることができる。電源装置から放出された電子がブラウン管のなかで加速し、蛍光画面に衝突して発光するのがテレビである。
オーロラの場合は、テレビでいう電子が上空を流れる電子に、蛍光画面が地球の大気に、それぞれ相当する。しかし、オーロラの電源装置にあたる部分のメカニズムは、まだ十分に解明されていない。なぜなら、オーロラ発生のもととなる荷電粒子を送り出す太陽の活動は、私たちにとって身近な存在でありながら、いまだに多くの謎に包まれているからだ。
一九七二年に打ち上げられた人工衛星の映像から、オーロラは北極・南極地方でほぼ毎日数時間おきに同時に起こり、大きな環状の同じ形で現れることが確認された。これは、冬の北極の夜空にオーロラが光を放っている同時刻に、夏の南極の白夜でも肉眼では見ることのできないオーロラが舞っていることを意味している。
オーロラは普段、地上百―五百キロの高さまで立ち昇るが、太陽の表面爆発に伴って、ときに千キロに達することもある。その際、さらに天候や時間帯などの条件に恵まれると、およそ十年に一度の確率で、北海道でも観測することができる。
日本でのオーロラの目撃情報は七世紀にまでさかのぼり、日本書紀のなかに「赤気」「紅気」などの呼び名で記録されている。最近では、昨年三月に北海道陸別町や長野県富士見町で赤色のオーロラが観察されるなど、日本人にとってオーロラは、必ずしも遠い存在ではないのである。
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フォレイカーに留まってからの三週間は、幸運にも標高二、四六〇メートルの大展望台から壮麗な多くのオーロラを見あげた。マッキンリーの黒いシルエットに、赤や黄色の火柱が天に向かって立ち昇っていくものもあれば、月明かりで白く浮かび上がった山々から、あたかもオーラを発しているかのようなエメラルドグリーンの光など…、幻想的な世界が広がった。
オーロラの発生頻度は、荷電粒子や磁力線を常に放出している太陽の活動と深い関係がある。現在のところ、明るいオーロラが頻繁に見られる時期は、約十一年サイクルで増減する太陽活動のピーク期から数年遅れることが分かっている。昨年、そのピークを迎えており、今年から三、四年がオーロラを観測する絶好の機会といわれている。アラスカ山脈から何度となく光の乱舞に酔いしれたのは、単なる偶然ではなかったのだ。
オーロラの色彩は、酸素や窒素など大気中のどの成分が発光するかにより、緑、赤、ピンク、青紫などに変化する。そのなかでもっともポピュラーな緑色のオーロラは、大気中に含まれる酸素原子の発光によるものである。
この酸素原子が地球の大気中に存在しているのは、植物が光合成の過程で絶えず酸素を放出しているからである。すなわち、地球上に植物が存在しなければ、オーロラに緑色の光はありえないのだ。
フォレイカーでの最後のキャンプの夜も、鮮やかな光の帯に目を奪われた。宇宙の神秘が織りなす緑色のオーロラを前に、たった一人の観客だった私は、緑あふれる地球のかけがえのなさを感じていた。
▼文と写真/栗秋 正寿
▼くりあき・まさとし 1972年、大分県日田市出身。15歳で山歩きを始め、福岡県立修猷館高、九州工業大で山岳部に所属。98年3月、北米最高峰・マッキンリー(6、194メートル)の冬季単独登頂に成功。下山後、リヤカーを引きアラスカ縦断1400キロの旅を敢行する。昨年12月から今年4月に8回目のアラスカ登山に挑んだ。著書に「アラスカ垂直と水平の旅」(山と渓谷社)。
インターネットホームページ=http://japanesecaribou.com/
2002/12/03 付 朝刊