西日本新聞

モルディブ編

ごみとNGO リサイクルはまだ 日本への期待感も

ごみを満載したダンプが、海を渡る。インド洋の孤島にとって、ごみ問題は大きな悩みだ
ビル建設ラッシュのマレ。まるで海に浮かぶ要塞のようだ
NGO代表のザーヒルさん。京都議定書を離脱した米国への不満は強い

 山盛りの建設廃材を積んだ大型ダンプカーを乗せ、運搬船はゆっくりとモルディブの首都マレの港を出航した。積み荷とは全く対照的な青く澄んだ海面を、船は滑るように進む。

  目的地は、ごみの島・ティラフシ。およそ二十分で到着した。

 強烈な異臭を予想していたが、船を下りてもあまり感じない。島は思ったより広いらしい。ダンプの運転手に頼み、投棄場所まで助手席に乗せてもらった。

 五百メートルほど走ると、一面にごみが広がった。さすがに近づくと、悪臭が鼻を付く。紙やポリ袋、缶類…。所々に野焼きの黒い煙や白い煙が上がり、赤い炎も見える。ダンプが激しい音を上げて荷台を立て、粉塵(ふんじん)を巻き上げながらごみをはき捨てた。

 ティラフシは環礁をごみで埋め立てた島だ。約五キロ離れた約七万五千人の人口を抱えるマレのごみを一手に引き受けている。埋め立て地の一部には、ボート修理などの小さな工場も建っている。

 野焼きしているごみを監視中の男性作業員が、こちらに向かって歩いてきた。出稼ぎに来ているバングラデシュ人という。「とてもくさい。せきが出る」と浅黒い顔をしかめる作業員。「悪臭が近くの島に届くこともあるのでは」と問うと、彼はタオルを鼻と口に当てながらも「そんなことはない。においを消すためにこうして焼いて、埋めている。あと千年は埋め続けても、いっぱいにはならない」と答えた。

 岸辺の光景は、とても不思議に見えた。焼却灰が海水に洗われているが、その水は、飲めそうなほど透明だ。魚も泳いでいる。汚染物質が海に流出していてもおかしくない状況なのだが…。

     ◇     ◇

 「異なる三つの顔を持つ」とされるモルディブ。消費社会の象徴のような贅(ぜい)を尽くしたリゾート島。昔ながらの漁が基盤で住民のつつましい生活が続く地方島。そして、首都マレだ。

 高い経済成長を続けるモルディブの中心地・マレは、人、物、情報が集まり、活気に満ちあふれている。ファッション、貴金属、カメラなどのブランド店も立ち並び、食べ物から車まで手に入らないものはない。

 イスラム教が国教で、酒は一切禁じられているが、中心部は夜遅くまでにぎやかだ。近年は五階建て以上の高層ビルも次々に建ち、当然ながら、ごみも増える。

 迷路のように密集した住宅街に住む、モルディブの環境NGO(非政府組織)「ECOCARE(エコケア)」代表のザーヒルさん(38)に会いに行った。あいさつを済ますや、ザーヒルさんが畳み掛けるように迫ってきた。「ティラフシは見ましたか」「どう思いましたか」「マレだけの問題ではない。地方の島はもっとひどい状況になっている」…。

 今のモルディブにとって最大の環境問題は、ごみなのだ。

「ごみをリサイクルしたいが、今は埋めるしかない。四年前に日本に行ったとき、焼却灰を道路舗装用の資材として利用していると聞いた。とても興味がある。でも、モルディブにはお金がなく、何もできない」

 ティラフシで、分別されたペットボトルが雨ざらしのまま山積みされていた光景を思い出した。

     ◇     ◇

 ザーヒルさんの自宅で夜中まで話し込んでいると、副代表のムーサンクさん(42)もやってきた。ECOCAREは、ウミガメやサメの保護活動のために、各国語に訳したパンフレットをリゾート島に配布したりしているという。

「父や母から受け継いだ美しい海を、将来も残したい」。ムーサンクさんが訴える。

 話題は、地球温暖化防止のための京都議定書に移った。がっしりとした体格のザーヒルさんが、さらに語気を強める。

「戦争も平和も、環境問題も、世界をリードしているのは米国だ。その米国が京都議定書に反対していてはどうしようもない。このままではモルディブはなくなってしまう。なぜ、日本は米国に何も言えないのですか。日本が何もできなければ、ましてやモルディブができるはずもない」鋭い眼光で詰問された。

 「私も、そう思う」。そう答えるのが、やっとだった。

 モルディブ政府にも取材を申し込んだ。環境省ナンバー3のジャミール環境調査局長(28)が、大統領官邸のすぐ裏手にあるビルで質問に応じてくれた。

 海岸浸食、サンゴの白化、地球温暖化…。話題は多岐に及んだ。ジャミールさんは、一つ一つの課題を、丹念に説明する。

 ザーヒルさんが危ぶむ京都議定書については「日本は米国の離脱をつなぎ留めようとした。とても頑張っていると思う」と話し、ごみ問題については「昔に比べれば、ごみを捨てる人は減った。でも、リサイクルのためのいいシステムを作る必要がある。日本の協力が得られればありがたい」

  口調は穏やかだが、解決に向けた日本への期待感がにじむ。

 環境NGOのことを尋ねた。すると、ジャミールさんは机の上の資料を、パタッと閉じた。

 「実は、私もNGOのメンバーなんです。ここからは政府の話とは別ですね」

 ジャミールさんが所属するNGOは「VESHI(ベシ)」。八八年に組織し、現在の会員は約百五十人。学生や女性のほか、環境大臣や文部大臣もメンバーで政府関係者が多いという。

  非政府組織のメンバーに政府関係者。この奇妙な関係は、人口が少ないモルディブには大学がなく、専門知識を持つ人材が少ないという事情が背景にある。「私たちの活動は、政府とは一切関係ありません。政府がなかなかできないこと、例えば漁民の島にメンバーが行って、環境問題の大切さを訴える。こうした活動をしています」ジャミールさんがネクタイを外し、休日に地方島を訪ね歩いている姿が目に浮かんだ。

★京都議定書★ 1997年、地球温暖化防止のために世界の国々が京都に集まり、先進国の二酸化炭素など温室効果ガスの削減目標値について合意した議定書。欧州諸国は議定書を批准したが、米国は批准しないことを明らかにしている。日本は今年6月に批准。またロシアも批准を表明しており、議定書はようやく発効する見通し。今後、日本はガス排出量を2008―2012年の5年間平均で1990年より6%削減が求められる。ちなみに1999年の排出量は、90年比で6・8%増加している。

▼文と写真/吉田 賢治

2002/10/08 付 朝刊

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