西日本新聞

南極編

環境対策 地球観測最前線で足元を見つめ直し

南極の強い日差しを浴びる昭和基地の太陽電池パネル。最大で55キロワットを発電する
昭和基地の粗大ごみ置き場、通称「デポ山」。計画的な日本への持ち帰りが進められてはいるが…

 空に向かって整然と並ぶ、およそ二メートル四方のパネル群。真夏の日差しを一身に浴び、電力を生み出す。

 太陽が沈まない、白夜を迎える南極の夏。そのエネルギーを利用して電力を得ようと、一九九七年から二〇〇二年にかけ、昭和基地に計八十八基の太陽電池パネルが設置された。

 「基地で必要な電力は、百七十キロワット。太陽電池パネルが、最大でその三割に当たる五十五キロワットを供給します」

 第四十三次南極地域観測隊の太陽電池パネル技術者、井筒達也隊員が、誇らしげに話す。

 現在、基地で消費する電力の大半は、軽油を燃料とするボイラーを用いた発電機で賄っている。従って、当然、軽油が燃焼する際に二酸化炭素が排出される。

 隊員たちの間では、以前から、工場排煙や自動車の排ガスなど人間活動の影響から離れた場所で、地球環境の素性を知ろうとしている自分たちが、多量の二酸化炭素を排出することに、ためらいがあったという。

 一九九七年、南極で観測を行う日本やロシアなど二十七カ国が、環境・生態系保護の取り組みについて定めた南極条約議定書を締約した。

 汚水、廃棄物、電力…。昭和基地では今、地球全体の環境だけではなく、足元の環境問題も見つめ直そうとしている。

    ◇    ◇

 「昭和基地のすべての汚水が、ここで処理されます」

 基地のある東オングル島にちなみ「オングル浄化センター」と名付けられた汚水処理棟。第四十三次隊の環境保全担当、黒澤康孝隊員が、施設を案内してくれる。

 まず、目に飛び込んできたのは、直径二メートル、高さ三メートルの円筒型の巨大タンク。

 「これが、合併処理浄化槽。東京都の汚水処理基準(生物化学的酸素要求量=BOD、二〇ppm)を目指していますが、寒さで機械がうまく動かないことがあって、ばらつきがあります」

 毎月一度、水質検査を実施する。四十二次隊の記録では、BOD二六二―一〇ppmという結果が出た。

 槽内をのぞき込むと、きれいに透き通った、とはいかないまでも、わずかに濁りが残る程度にまで浄化されているのが分かる。

 「私も、南極で、ここまで処理しているとは、知りませんでした」  専門家の黒澤隊員も、驚きだったようだ。

 実際、南極条約議定書では、厳密な汚水処理基準を定めていない。そうした中で、南極にあるどの観測拠点と比べても、昭和基地の取り組みは大幅に進んでいる―というのが、各国の共通した見方だという。

    ◇    ◇

 といっても、昭和基地での環境に対する取り組みは、始まったばかり。課題は多い。

 例えば、基地はずれにある重機や廃材の置き場。隊員たちが「デポ山」と呼ぶこの場所では、二十年以上も前に持ち込まれた雪上車やホーバークラフトなど、特大の粗大ごみが風雪にさらされている。

 第三十八次隊以降、毎年百トンずつ、これらのごみの持ち帰りを始めた。当初の放置ごみの推定量は五百トン。五年がかりで、私も同行した第四十三次隊が回収作業を終える予定だった。

 だが、基地の増設に伴い、新たに出るごみは増え続け、いまだに完全撤去のめどはたっていないのが実情だ。

 同隊の西尾文彦隊長は、そんな基地の環境事情を、複雑な心境で見つめる。三十年近く前、自身が初めて南極を訪れたときのごみが、そのまま残っているからだ。

 昭和基地での観測が始まって四十五年。全地球的、長期的観点に立った観測の積み重ねが、この星を取り巻く自然環境の謎を着実に明らかにしてきた。それはとりもなおさず、遅まきながら研究者たち自身に、地球環境観測の聖地としての南極の存在を、より強く意識させることにつながったということだろうか。

 「南極は、地球上の一部の地域にすぎない。しかし、そこが持つ意味はとてつもなく大きい。南極の環境を守ることは、地球全体の環境を考える大前提なのです」

 西尾隊長は今、そう実感している。=南極編おわり

●年間観光客1万人以上 南緯六〇度以南の南極地域には現在、十八カ国、三十七カ所の越冬観測基地がある。日本はこのうち、昭和基地に六十人の隊員を送る。中には米国のように二千人もの隊員を派遣する国もある。それだけ多くの人間が、数カ月から一年間滞在するとなると、ごみ、排出物による環境への負荷は計り知れない。
 それだけでなく、年間一万人以上もの観光客が南極を訪れていることも見逃せない。
 日本極地研究振興会(東京都)によると、南極観光は一九六〇年代に始まり、二〇〇一年度に訪れた数は約一万二千人(日本人は約三百人)。
 その多くは、米国の旅行会社が企画したツアー参加者。南米から客船に乗り込み、南極半島周辺を周回するコースや、さらにゴムボートで上陸、宿泊するコースがあり、中には飛行機で南極点に到達するツアーまで用意されている。
 秘境のイメージは薄れた感のある南極。それだけに、環境保護の取り組みを定めた南極条約議定書を、各国観測隊をはじめ、訪れる各人が、どれだけ守っていくか。重要な課題だ。

▼文と写真/重川 英介

2002/08/20 付 朝刊

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