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恋愛から現代人の価値観が見える 3作目の小説を書いた映画プロデューサー 川村 元気さん

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 2016年は大ヒットしたアニメ「君の名は。」のほか、「怒り」「何者」と映画3本を立て続けに製作したヒットメーカーである。多忙を極める映画プロデューサー川村元気さんは、本業と並行して文筆にも励み、自身3作目の小説「四月になれば彼女は」を出版した。恋愛が困難とされる時代に、あえて挑んだ恋愛小説だ。

 -今の時代に恋愛小説を書く上で考えたことは何でしょうか?

 ★川村 恋愛小説を書く時代の前提が変わったことを描きたかった。昔は男女が出会って恋愛するのを描くのが恋愛小説だったわけですよね。でも、今回小説を書く前に多くの人に取材してみると、恋愛していない人、恋愛できない人が圧倒的に多かったわけですよ。男女が恋愛できないのが今の時代の大前提になっていると思ったんです。だから、男女がなかなか恋愛できない、つながれない「ラブレス」なラブストーリーを描けば、現代人の人間関係や価値観が恋愛というフィルターを通して見えてくると思いました。

 -恋愛物語には、お互いの家同士が対立している「ロミオとジュリエット」の設定のような、何か男女が乗り越える障壁が付きものですが…。

 ★川村 昔は身分の差とか遠距離であるとか、恋愛の障壁は自分たちの外にあった。今は自分の中にある問題の方が大きい。自分が大好き、自分が一番かわいいというような内なる壁がある。自分が一番大事な人にとっては恋愛は邪魔ですよね。時間がかかるし、お金もかかるし、相手の無用な感情にも振り回されるし。だから今回の小説は、今の恋愛の障害とは自分の心の中にあるということ自体を書きたいと思いました。

 -恋愛における前提が変わったという意味では、最近話題になったテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」との共通性も感じました。

 ★川村 そうですね。恋愛や結婚の前提が変わったと捉えた物語が偶然同時期に並んだ気がしています。あのドラマも「男女が上手に恋愛できない」のがベース。そういう前提だから、恋愛経験のない男が雇用主で、彼氏なしの女が従業員として家事をする「契約結婚」という発想になる。熱烈な恋愛を無条件でしますということがうそっぽくなり、「契約結婚」の方がリアルというのが、今の時代の気分にマッチしている。

 -新作はタイトルからも分かりますが、サイモン&ガーファンクルの曲がモチーフの一つになっています。

 ★川村 あの曲の歌詞の内容は4月から9月の半年間で終わるんですよね。恋愛の一番美しい時期を歌った歌ですが、今の僕らにとってはそこからどう男女が乗り越えていくか、やり過ごすのか、一緒にいようとするかということの方がはるかに切実。あの歌はそこを歌わなかったんですよね。残りの半年分を書きつなぐことで新しい物語や現代の人間関係だったりを見つけられないかな、と思って小説を書き始めました。

 -川村さんがプロデュースした「君の名は。」もそうですが、16年に公開された映画には「永い言い訳」(西川美和監督)「バースデーカード」(吉田康弘監督)など、死者と出会い直す作品、過ぎ去った日々と向き合う作品が多かった。この小説もそういう部分がありますね。

 ★川村 一個人が社会に対してさらされる窓が増えたことと関係あるのかもしれない。昔は人とつながるのも電話とか、手紙ぐらいだったのが、携帯電話、スマートフォンが普及して、SNSも登場した。すると人は外向けに、自分で自分を精神的にコントロールするし、どう見られるかということを気にして生きるようになった。恋愛感情も昔はじたばたしてコントロールせずに生きていた人が多かったと思う。今の人は空気は読めるようになったけど、恋愛もしなくなった。自制している今と、昔とどっちが幸せなんだろう。前の方がよかったんじゃないか、ってことが今起きているんじゃないか。昔の自分に会い直すとか、失われた誰かに会い直すという行為は、時代の気分。社会も成熟して多くの日本人は自身を制御するようになったけど、今の自分って本当に幸せ?ってなったときに、昔の自分や、昔の自分を好きだった人にもう一回会いたいって心情になっているのかもしれない。

 ▼かわむら・げんき 1979年3月12日生まれ、神奈川県出身。映画プロデューサー。上智大学文学部新聞学科卒業。「告白」「悪人」「モテキ」「君の名は。」などの映画を製作。2011年、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少受賞。


=2017/01/08付 西日本新聞朝刊=

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