人は普通変わるんです 2作目の小説「劇場」を刊行した 又吉直樹さん

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 漫才師の世界をつづったデビュー作「火花」で芥川賞を受賞し、作家として脚光を浴びたお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが、2作目の小説「劇場」(新潮社)を刊行しました。今回は売れない劇作家の主人公と彼を支える女性を描いた恋愛小説です。本人自身が笑いにも小説にも「真っすぐ」なことが伝わってくるインタビューになりました。

 -今回は恋愛小説ですね。

 ★又吉 「劇場」は「火花」より先に、冒頭の60枚ぐらい書いていたんです。僕が恋愛について書いたエッセーを読んだ編集者から「こういう感覚を小説として書くと面白いものになるかも」と提案していただいて、僕も「書いてみたいな」と思いました。

 -なぜ劇作家を主人公に?。

 ★又吉 日常のことと、仕事とか学校のことは互いに影響を与え合うと思ったんですね。職業と恋愛を両方書くことで、両方をより掘り下げられる。いろんな職業を考えたんですけど、劇作家は自分で考えたものを形にしていく。それがうまくいったり、うまくいかなかったりするんですけど、恋愛も似たところがあるかなと思って、より影響が出やすい演劇が良いと思いました。

 -「火花」は漫才、「劇場」は演劇で、どちらも表現や創作がテーマ。その中で自分の才能への自信と懐疑や、芸術性と商業的成功の間の葛藤が描かれています。時代設定も2作とも2000年代。ちょうど又吉さんが上京してからの下積みの時期と重なります。才能に対する葛藤みたいなものはご自身も抱えていたんですか。

 ★又吉 僕に限らず、そういうことはみんな感じるんじゃないですかね。世に出るためにどうしたらええんやとか、同世代の誰かが脚光を浴びてる場面にはみんな出くわしてると思うんで。ただ(「劇場」の主人公の)永田とか(「火花」の)徳永の方が大変そうですね。僕の方がずるい部分があるかもしれない。永田も徳永も逃げ場をなくすぐらい、自分で追い込んでいく。僕も(売れない頃は)暇やったんで、考えてはいましたけど…。どうなんやろう、考えてたんですかね、同じように。今も考えたりしますしね。

 -永田の彼女、沙希は永田のすべてを許し、受け入れますね。こんな女性、今どきいるのかなと思って読んだんですが。

 ★又吉 僕の実感としてはたくさんいますね。ただ「こういう女性いますか」って割と多くの人が思うっていうことは、社会がそういう女性を許容していないっていうのが潜在的にあると思うんです。今だと、沙希的な女性の生き方はだめだとか、弱いとか言われることが多いんじゃないですかね。本人たちも現代では賢い生き方ではないと自覚してるんで、自分で「私はそうです」とは言わないですね。でもそういう生き方をしている人が、自分の人生を否定して、自分は間違ってたと思う必要はないと思います。

 -「人は変わる」という言葉が印象的に使われています。

 ★又吉 人が変わるのは当たり前のことなんだけど、割と忘れられやすいというか。変わらないっていうことはむしろかなりの筋力が必要で、その人は変わらないように何かしら努力している。変わらないことが普通と勘違いしている人が多いかもしれないけど、普通は変わるんです。

 -「火花」は漫才の話なので当然ですが、「劇場」でも主人公が自身の行動に自分でツッコミを入れたり、会話でボケ続けたり、登場人物のやりとりに漫才やコント的なものを感じました。

 ★又吉 僕がお笑いをたくさん見てきて、実際に作ってきたんで、自然に出ているのかも知れないですけど、笑いを狙った部分はまったくないんですね。永田は真剣に全力で生きているから、それが愚かになって、醜くもあって、面白くなりやすいんですかね。欲望に対して従順であるとか、変に考えこんでしまうとか、真っすぐやからあほに見えたり、笑えたりするのかもしれない。僕自身がそもそも人のことを結構面白いと思ってるんですよ。普通のことやってるだけで、人の顔が真剣やからこそ面白かったりする。そういうのが出てるのかな。

 ▼またよし・なおき 1980年、大阪府寝屋川市生まれ。99年、吉本興業の養成所「NSC東京校」に入学。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いコンビ「ピース」として活動中。2015年「火花」で第153回芥川賞受賞。著書に「第2図書係補佐」「東京百景」など。


=2017/06/18付 西日本新聞朝刊=

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