三菱はスマートだし、東芝はカンタービレな感じ サックス奏者 上野耕平さん

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 サックスといえばジャズ? 上野耕平さん(25)はそんな固定観念を覆す奏者だ。特殊奏法を華麗に吹きこなすかと思えば琥珀(こはく)色の音で聴かせる。国際的指揮者の山田和樹さんからソリストに起用され、6月には井上道義さん指揮で九州交響楽団と共演。そんなクラシック・サックスの革命児は意外にも電車の音に耳を澄ませていました。

 -オーケストラの演奏会でサックスのソリストは珍しいですね。

 ★上野 クラシックのサクソフォン自体を初めて聴く方も多いと思います。サクソフォンが入った管弦楽曲でもビゼーの「アルルの女」、ラベルのボレロ、ムソルグスキーの「展覧会の絵」などがあるけれど、1840年代にできた歴史の浅い楽器なので曲の数は少ない。でも、最大の武器は表現力の高さで、人間の喜怒哀楽すべてを表現できる。世界一の楽器だと思って吹いています。

 -最初のCDの題が「アドルフに告ぐ」。まさかヒトラーでは?

 ★上野 いえ、サクソフォンを作ったアドルフ・サックスです。意外と知られていませんが楽器の名前の由来になった人です。ヒトラーとはスペルが違う。

 -楽器を始めたきっかけは?

 ★上野 小学2年生の時、転校した東海村の小学校で吹奏楽部が「聖者の行進」を演奏しているのを聴いて稲妻が降りてきた感じでした。「あれに入りたい」と。よくある吹奏楽部は「音程がずれている、合わせなさい」と命令調で指導されるけど、僕たちの先生は「音程が合ったらこんなにきれいで気持ちいいよね」と子どもにも分かるように教えてくれました。例えば、ドミソの和音もミの音程を少し下げると響きがきれいになる、とかね。そして、4年生の時、東海村で須川展也先生(サックス奏者)のリサイタルを聴いて上手になりたいと思い、音楽に夢中になりました。それまでF1ドライバーや電車の運転士とかいろんな夢を描いたけれど。

 -ツイッターに時々、電車や駅の写真をアップしていますね。

 ★上野 鉄道が好きなんです。一昨年、演奏会で高知に行ったときは、帰りの航空券を払い戻して高松までディーゼルの特急「南風」に乗りました。大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)辺りを通って景色がいいし、急カーブも速度を出して曲がるから。そして東京まで寝台特急「サンライズ瀬戸」で戻りました。

 JR九州は最高です。デザインも車両も内装も乗客を楽しませようとしている。6月に九響定期で九州に来た時は熊本の被災地で演奏した後、長崎、福岡と移動したんですが、福岡に来る時、特急「かもめ」のデラックスグリーン(座席)のある車両に乗ったんです! CM音楽の依頼? あったら喜んでやります。

 -モーター音も聴き分けるそうですね。

 ★上野 何となくですけど楽器に音色があるように電車のモーターにもそれぞれの音があって、例えば、三菱はスマートだし、東芝はカンタービレ(音楽用語で「歌うように」)な感じですね。

 -ところで大学時代の仲間と組むカルテット「レヴ」の意味は?

 ★上野 これまた僕の趣味が生かされているんです。グループ名によく音楽用語とかおしゃれなフランス語を使うけれど、男4人だとちょっと気持ち悪いなと思って、あっレブリミッターだってひらめいたんです。エンジンの回転数を制御する装置。音楽という無限のエネルギーを4人の奏者がそれぞれ音として奏でつつ、一つの方向に疾走していきたい、という思いを込めています。意外と奥深いでしょ。

 -9月には鹿児島の霧島国際音楽ホールで「ぱんだウインドオーケストラ」
の演奏会ですね。

 ★上野 東京芸大では1年生だけの管打合奏の授業があって最後にこのまま終わるのも寂しいよねと始めた楽団です。オーケストラ曲のアレンジではなく、演奏するのは吹奏楽のオリジナル曲がほとんどなのが特徴。吹奏楽人口って多いのに、クラシックの演奏会の集客につながっていないでしょ。コンクールの成績にこだわり過ぎて音楽の本当の楽しさまでたどり着けていない人が多いんじゃないでしょうか。そうした風潮を変えたいと思っています。

 ▼うえの・こうへい 1992年生まれ。茨城県東海村出身。東京芸術大在学中の2014年、第6回アドルフ・サックス国際コンクール2位、ソロアルバム「アドルフに告ぐ」でCDデビュー。16年同大卒業。プロの吹奏楽団「ぱんだウインドオーケストラ」コンサートマスター。自身が率いる「ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット」のデビューCDを23日にリリース。


=2017/08/20付 西日本新聞朝刊=

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