島尾ミホさんは愛に生きた人 映画「海辺の生と死」に主演 満島ひかりさん

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 演技派女優として注目される満島ひかりさんが太平洋戦争末期の鹿児島県奄美群島を舞台とする映画「海辺の生と死」で主演を務めました。モデルは、夫婦の壮絶な葛藤と絆を極限まで見据えた私小説「死の棘(とげ)」で知られる作家島尾敏雄と妻ミホ。戦後文学の伝説となった夫婦の出会いを描いた本作は、満島さんにとっても、自らの「ルーツ」に迫る思い入れの強い作品となったようです。

 -この映画の話が来て、どう思いましたか。

 ★満島 脚本を読んで「まずい、どうしよう」と。

 -まずい?

 ★満島 祖母が奄美出身で満島姓は奄美の名前です。私は沖縄で育ちましたけど、うちには沖縄の血は1人も入っていません。奄美は小さい頃からよく帰っていて、一番居心地が良くて、一番よく眠れて、古里だと最も思える場所。一番大切と思う場所で撮影するので、もともとうそがつけない性格ですけど、それにも増してうそがつけなくなるなと。東京で、都会で生きるために培ったものを捨てる覚悟を持たなきゃっていうのはありました。

 -映画は島尾敏雄とミホが奄美の加計呂麻島で出会った頃のことを2人がそれぞれ書いたいくつかの小説が原作です。敏雄は特攻隊の隊長として、ミホは島の国民学校の代用教員として出会い、戦後に結婚し、東京に移住して「死の棘」の時代に向かいます。「死の棘」ではミホは夫の不貞を知って狂乱する妻として描かれます。ミホにはどんな印象を?

 ★満島 ミホさんは愛に生きた人という印象が一番強い。「死の棘」も狂ったっていうか…、愛に狂った妻っていえば確かにそうだけど…。沖縄や奄美は女の人の方が強いんですね。ウナリ神信仰といって、女の神様なんです。政治的な権力も最終決定は女性でしたし。そういう場所で育った人だから、男の人に威張られると、いろいろなことが変わっちゃったのかな。ミホさんも都会に出て我慢してただろうけど…。そこは複雑な思いで読みました。自分にも重なるところがあったり。

 -朔(さく)中尉とトエとして描かれる2人は恋愛関係になって終戦までたった4カ月。それであれだけ燃え上がれるのはすごい。

 ★満島 時代状況もあるけど、あの2人だからこそだと思います。2人とも作家じゃないですか。ミホさんは聡明(そうめい)な人だったと思うんです。お互いに自分の人生という物語の相手役を見つけた感覚があったのかな。だから芝居がかった印象を受ける場面がありますね。2人で島を舞台にお芝居をしているみたいに。島のミューズ(女神)みたいな女性と、特攻で来たはずなのに戦争に興味がない異質な隊長さんの出会いなので、互いの存在が規格外な感じはあったんじゃないかと。

 -朔中尉に特攻命令が下されたと聞き、トエが会いに行こうとする場面で、身を清めているトエに閃光(せんこう)が降り注いでトエがほほえみます。あの笑顔は印象的ですが原作にはありません。

 ★満島 (原作に)笑うって書いてませんでしたっけ? 何で笑ったのかな。でも撮ってる時も思ったし、出来上がった映画を見ても思ったのは、島尾ミホの人生で一番誰かを愛し、愛された至高の瞬間の笑顔だったんじゃないかと。私すごく好きでした。島尾ミホでも、トエでも、満島ひかりでもない、誰でもない感じがして何でこの人笑ってるんだろうって。映画だからこそ起きるというか説明の付かない謎の場面はあった方がいいと思います。

 -クライマックスの浜辺で朔中尉とトエが会う場面はカメラを固定した約8分間の長回しでした。

 ★満島 あそこは一番芝居がかってたんです。(朔中尉役の)永山絢斗(けんと)君か私か、どっちか心が折れて気持ちが続かないんですよ。やりにくくて7回撮りました。撮影中に照明が目にパンって入ったらもう何かよし芝居するぞと思って、今まで普通にリアルにやってきたけど、もうお芝居するぞと、すごく芝居している感じで演じました。頭は冷めてるけど何か動いてるという感じ。でも良いことだと思います。自分をコントロールできない状態というのは。訳分からない瞬間がたくさん起きる方が人間の新しい部分が見える可能性がありますしね。

 ▼みつしま・ひかり 1985年鹿児島県生まれ、沖縄県で育つ。97年に音楽ユニット「Folder」でデビュー、後に「Folder5」として活動。2009年公開の園子温監督作品「愛のむきだし」などに出演し、各映画賞の新人賞などを受賞した。その後、ヨコハマ映画祭主演女優賞(11年)のほか、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を4度受賞している。


=2017/09/10付 西日本新聞朝刊=

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