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江戸から明治に時代が変わるとき、義足の侍が貫く生き様とは

木足の猿 戸南浩平著
木足の猿 戸南浩平著
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 舞台は、日本の歴史が大きく変わろうとしている江戸の末期から明治の始まり。幼いころからの友を殺され、敵討ちを誓った義足の侍・奥井が主人公だ。敵の行方を捜し続けるも思いを果たせないまま時が過ぎ、やがて武士の時代は終わる。一方、明治に入り、日本を騒然とさせる在日英国人連続殺人事件が起こる。事件の背後に、長年追い続けてきた敵が関与していることを知った奥井は、犯人探しに乗り出す。しかしそこには思いもよらない真実が待ち受けている。第20回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品である。

 本作品の大きな魅力となっているのが、奥井の人間味である。義足の侍として生きることを余儀なくされた奥井は、身を守るために居合いの術を身につけ、英語も習得している。長い放浪生活のなかで困窮し、落ちぶれた元侍という体裁ではあるが、現代でいえばグローバルな視点を持ち合わせた人材というところだろう。英国人との会話のなかでみせる駆け引きや、鋭い分析力によって事件の真相に迫っていく展開は痛快だ。

 時代が変わろうとも友の敵を追い続ける奥井の姿には、侍としての変わらない美徳、誇りがみえ、日本人として大いに共感するところである。しかし一方では、時代遅れの思想にとらわれた元侍の姿ともいえるのだ。奥井自身がそれを客観的に見つめているシーンは印象的である。自由な生き方を許される時代にあって自由とは何かがわからず、復讐にしがみつくしか生きる意味を見いだせないのかもしれないという本音がもれる。変わりゆく時代のなかで、侍として生きてきた男の切なさが胸に迫るシーンである。

 歴史上は「明治維新」や「文明開化」といわれる新たな幕明けを象徴する時代。しかし、本作品で色濃く描かれているのは、身分が入れ替わるという混沌のなかで、生きる意味を模索する日本人の切実な姿である。友の形見である刀を仕込み杖に隠し持ち、復讐を果たすために生きてきた奥井が最後に守るものは何なのか。時代に翻弄されながらも男たちが見せる生き様に、胸が熱くなった。


出版社:光文社
書名:木足の猿
著者名:戸南浩平
定価(税込):1,620円
税別価格:1,500円
リンク先:http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334911508


西日本新聞 読書案内編集部

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