「『昭和』を生きた台湾青年」をまとめた 近藤 明理さん (草思社・2310円)

(草思社・2310円)

日本が植民地支配をしたにもかかわらず、今も親日感情が根強いといわれる台湾。「その気持ちが分かってきたと、読んでくれた日本人の友達が言ってくれてうれしかったですね」と話す近藤明理さんは、著者である故・王育徳さん(1924年―85年)の次女だ。王さんは日本統治下の台湾台南市で、卸問屋を営む家に生まれ、戦後は日本に亡命、明治大学などで中国語(北京語)や台湾語を講じた。ライフワークである台湾語研究とともに、台湾独立運動や台湾人元日本兵への補償問題にも打ち込んだ。2002年には台湾で、業績を集大成した「王育徳全集」15巻が刊行された。最終巻が台湾で過ごした青年期までの回想録。60年代の半ば、日本語で書いて未刊行だった原稿の中国語訳で、それを今回、まな娘の近藤さんが整理し、戦後の日本での足跡を補筆して出版した。
「父は日本の人のために書いたのです。当時の台湾は戒厳令が敷かれていて、原稿を持ち込めないことは分かっていましたから」。王さんには「台湾-苦悶(くもん)するその歴史」という著書もある。「そこでは公の歴史を書いたので、こちらでは身の回りの市井の人やその生活ぶりを書きたかったようです」。王さんはそこで、生まれ育った妻妾(さいしょう)同居の大家族の暮らしや当時の風俗、台湾文化、学校生活と日本人恩師のこと、日本の敗戦に伴う激動までを、公正な筆致で記す。台湾人による、植民地時代の日常についての日本語の本は珍しい。日本と日本人に対する思いも語る。公学校(小学校に相当)で受けた精神教育について、「いい教育をしてやった」と威張られては「いい気持ちがしない」。しかし全否定しても「私たち-日本的近代化を経た台湾人」は浮かぶ瀬がない。50年間の統治で「本島人(台湾人)と内地人(日本人)のあいだには強い絆が生まれていた」と振り返っている。
父親っ子だったという近藤さん。あらためて向き合った文章は「人柄のまま。誠実で、愚直なほど真正面から取り組む人でしたから。人が好きで、愉快なところも、本当に父そのものだと思いました」。初めて読んでから20年近く。曲折を経たが「母(雪梅さん)が元気なうちに出版を」の思いは果たせた。あの時代を知る、台湾が古里の日本人もまた、今も少なくない。
=2011/06/26付 西日本新聞朝刊=
バックナンバー
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