西日本新聞

千年書房・九州の100冊

別冊・同人誌の力の源泉

相寄る魂は、切磋琢磨する 本紙書評委員・コピーライター 矢野寛治

  「千年書房・九州の100冊」は、読者から励ましのお頼りなど頂きながら、折り返しの50回を迎えました。今回の別冊は、同人誌を取り上げます。かつて多くの作家を輩出し作家へのと登竜門だった同人誌ですが、今は雑誌の文学賞からデビューする人が多くなりました。とはいえ、同人誌の値打ちが下がったのではありません。

     ◇

 金を儲(もう)けたい奴(やつ)は兜町に集まり、絵を極めたい奴は巴里(パリ)モンマルトルに集まり、小説家になりたい奴は同人誌に寄る。みな同じ夢と魂と野心を持っており、接しあうことで、挫(くじ)けそうになる心に鞭(むち)を打っていく。

 今でこそ、各雑誌に新人賞があり、懸賞小説があり、同人誌に参加せずに、世に出る作家は増えたが、つい最近まで、同じ魂は相寄り合い、切磋琢磨(せっさたくま)し、ソッタク同機しあった。友を選ばば書を読みて、六分の侠気(きょうき)、四分の熱というが、気と熱を生かすも殺すも、すべては「友」である。
 莫逆(ばくぎゃく)の友を何人持つか、はたまた辛辣(しんらつ)犬猿の友でも良い。若き修行時には、他人と優劣を争うことも必要なのではないかと思う。この世は死ぬまでイクサなのだから。
 同人誌というものは、1人が飛ばしだすと、熱い核融合が起こり、後も陸続と続きだす。例えは古いが、松下村塾の高杉晋作、久坂玄瑞が飛ばし、後輩たちが続いたように。また、適塾の大村益次郎や福沢諭吉が飛ばし、あとが続いたように、である。

 まず、名門「新思潮」第十五次からは入りましょう。因(ちな)みに一次には田山花袋、正宗白鳥、二次には谷崎潤一郎、和辻哲郎、第三次には山本有三、芥川龍之介、四次には菊池寛、六次には川端康成と日本の文壇を作った観のある同人誌である。当時のライバル同人誌は学習院派の「白樺」。志賀直哉、有島武郎、武者小路実篤、里見惇ほかで、あまりにも有名周知故に割愛する。十四次に吉行淳之介がおり、十五次には、三浦朱門、村上兵衛、阪田寛夫、梶山季之、曽野綾子、有吉佐和子ら、錚々(そうそう)たるメンバーばかりである。一期上の吉行が飛ばしたことで、十五次も刺激されて、どんどん世に出る。曽野は中河与一の同人誌「ラマンチャ」から移り、「鰊漁場」をすぐ発表。有吉は吾妻徳穂の秘書をしながら、「盲目」を発表。梶山は阿佐ケ谷駅北口で喫茶店をやっていた。同人誌というのは、会費だけではとても賄えない。有吉が広告を取り、梶山が販売に売り歩いたという。ふだんの仕事をしながら、作品を書き、かつ発行し続けるための、軍資金を集める。なかなかに大仕事なのである。
 もう1つの名門をご紹介しよう。同人誌「文芸首都」(主宰・保高徳蔵)である。ここも錚々たるメンバーを輩出している。北杜夫、川上宗薫、佐藤愛子、なだいなだ、中上健次、林京子、津島佑子、田畑麦彦ほか、である。保高の発想である公募投稿制が、若い有為の才能を多く蹊(けい)ならしめたといえる。

 同人誌というものは、自分たちで刷った雑誌に自分の小説が載る、それで自己満足しているものではない。当然、世に出るためである。1人が世に出るということは、心中おだやかならず、劣等感に苛(さいな)まされるのであるが、半面、自分たちのパーティーが世の中に認められたという証しにもなる。ハロー効果的自信にも繋(つな)がるのである。1人光る、皆光る、誰も彼も光るの状態に変貌(へんぼう)すると、芥川賞、直木賞目白(めじろ)押しの会となる。先に飛び出すのは誰からでも良いのである。明るい連鎖が始まれば、入れ食いが始まり、チューリップは開きっぱなしと成るのである。
 作家輩出同人誌に共通しているのは、合評会の在り方が優れている。まず、「けなし合いの会」はしない。もちろん、俗にいう「仲間褒めの会」も脆(もろ)い。確かに人間は誰しもお世辞を好む。褒め殺しはいけないが、けなすより、良いところを認め合って、楽天的な会からプロは多く誕生している。最悪は評論家の多い会であり、気取ったパセティック屋(文学青年)さんの多いところである。昔のように、みかん箱いっぱいに書いてからとか、そんなストイックも止めた方がいい。もし同人誌に入会されて、あまりに理屈っぽいお歴々が多いところは、ぜひお辞めになったほうがと、老爺(婆)心ながら書き添える。
 最後に、ご当地「九州文学」をと思いましたが、紙数が尽きてしまった。火野葦平、岩下俊作、原田種夫,劉寒吉ほかのご活躍は、ぜひ「博多に強くなろう」(西日本シティ銀行、刊)シリーズの中の、「九州文学を支えた群像」をご覧ください。

●鍛錬に仲間が必要だった 作家・佐藤愛子さん

 佐藤愛子さん(83)は、父が作家の佐藤紅緑(こうろく)、異母兄が詩人のサトウハチローという物書き一家に育ったが、作家を志したのは父を亡くしてからだ。父の死をきっかけにモルヒネ中毒の夫と別居。紅緑が生前、「愛子は文才がある」と言っていたのを母が思い出し、「書くものさえよければ食べていける」と勧めたのだ。
 「私みたいにけんかっ早い人間は組織に入っても一週間ともたないし、ほかに何もできないと母は判断したんでしょう。私も世間知らずで、兄が大した勉強もしていないのに世に出たから、簡単にご飯が食べられるようになるだろうと思った」。26歳の決心。だが、直木賞受賞まで20年を要した。まず「文芸首都」の会員になった。
 「文学賞もあまりない時代だから、同人雑誌で勉強する以外に方法がなかった。作品が掲載されても、作家を育てようという出版社の編集者に巡り会えるかどうか。狭き門でした」
 初投稿で「次作に期待します」と書かれた選者のはがきに励まされ、机に向かう日々。初めて自作が採用されたときは「直木賞をもらったときよりうれしかった」という。「活字になることが何か世界が広がったような感じで、希望が生まれた」
 敗戦直後で失業者の同人も多く、印刷所に借金しながらの発行。合評会では歯に衣(きぬ)を着せぬ意見が飛び交った。「同人会での悪口は覚悟の上、聞くべき意見もあれば無視していい意見もある。自分の中で選択して切磋琢磨(せっさたくま)していくわけです」
 「文芸首都」に飽きたらず、「半世界」を創刊。川上宗薫、宇能鴻一郎、窪田般弥も参加した。69年には「戦いすんで日が暮れて」で直木賞受賞。同人雑誌から足は遠のいた。
 今や同人雑誌はかつての活況を失い、文学賞が花盛り。出版界は若い才能の発掘に躍起だ。そうした風潮には懐疑的だ。
 「若い人は作品を悪く批評されると怒るそうですね。われわれは悪口を言われて当たり前、切磋琢磨していい作品を、と考えていたから仲間が必要だったけれど、今は文壇に出るのが目的で仲間はいらないのよ」
 書くという行為の意味を今、どう考えるのか。
 「若いころの私は兄のハチローを酷薄なエゴイストと思っていた。散々親不孝しておいて母を懐かしむ詩を書くなどウソだ、と。しかし、『血脈』を書いているうちに、両方ともハチローの真実だったということが分かった。書くことによって人間が分かっていく-それが私の書くことの意味です」。12年間かけた大作「血脈」は76歳で完成させた。「作家でいる限り、修業は続く」。同人雑誌時代の志は衰えていない。
(東京報道部・神屋由紀子)

●カンカンガクガク、競い合ってこそ

水上平吉さん=同人誌「小さい旗」主宰 北九州市八幡東区

 児童文学誌「小さい旗」は55年、5人の同人で創刊された。2号から参加した平吉は、3号から入った浅野かずよと結婚し、18号から夫婦2人3脚で主宰することになった。かずよは早くから頭角をあらわし、特に少年詩で、小学国語に相次いで掲載されるようになって全国的な詩人となったが、88年に死去。以後、平吉が継続につとめ、この2月には123号を発行するまでになった。
 児童文学の創造と普及を車の両輪として創刊52年目となり、全国的にも屈指の同人誌と言われるようになった。歴史の長さだけでなく、同人の創作活動の成果が出版点数の多さとなり、各種受賞にもつながった。
 同人誌は基本的に勉強会だ。月例会に作品を持ち寄り、カンカンガクガク合評し合うことに意味がある。最近は公募が多く、特に若い人は安易な応募に走りがちだし、同人の勉強会への参加も消極的だ。努力を抜きにして成果は得られない。同人誌が各地にあって競い合ってこそ文学的レベルアップにつながると思うのだが…。

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