一期一会の口演に宿す刹那
〈ここに1人の感心な少年がおりました〉。一枚のCDが回り始めると、メルヘンの扉が静かに開いた。久留島武彦が1949(昭和24)年に発表した創作童話「海に光る壺(つぼ)」。自らが口演(こうえん)している。収録されたレコードを再生したもので、ザーザーという雑音までもが遠い潮騒のように響いてくる。
―靴磨きの少年が親類の...

〈ここに1人の感心な少年がおりました〉。一枚のCDが回り始めると、メルヘンの扉が静かに開いた。久留島武彦が1949(昭和24)年に発表した創作童話「海に光る壺(つぼ)」。自らが口演(こうえん)している。収録されたレコードを再生したもので、ザーザーという雑音までもが遠い潮騒のように響いてくる。
―靴磨きの少年が親類の...
狭い入り江に張り付いた長崎県対馬市厳原(いずはら)町浅藻(あざも)は、対馬島の西南端にある百戸余りの集落である。戦後復興が軌道に乗り始めた一九五〇年夏、民俗学者・宮本常一は白い開襟シャツにリュックを背負ってここに現れた。
「宮本先生は囲炉裏端で話をしよった。二時間も三時間も、もっとおってやせんかねえ」
梶田味木さん(82)は、当時既に八十を過ぎていた義父の富五郎と宮本が熱心に話し込...