『デボネア・ドライブ』 朝倉世界一著 (エンターブレイン・798円)

『デボネア・ドライブ』 朝倉 世界一著 (エンターブレイン・798円)
成熟期を迎えたのか、じつにさまざまな漫画が作られるようになりました。私が小学生だった50年前の紙芝居や貸本屋の漫画からは想像も出来ないほどです。漫画の表現範囲を爆発的に広げた1960年代半ばからの劇画ブームのころの勢いに似て(2002年ごろ休刊した『月刊漫画ガロ』も創刊は1960年代半ばだったはずです)、最近の漫画には、人生の奥深さや定まらぬ心模様が思わぬ角度から描かれていたりして、その鋭い人間観察に驚かされたりすることも多いのです。
「DEBONAIR DRIVE(デボネア・ドライブ)」は、力むことなく、漫画らしさを失わずに現代の若者の思考回路と会話の呼吸を上手に表現している、そんな作品ではないでしょうか。
1964(昭和39)年の製造開始以来22年間もモデルチェンジのなかった、あの角張った国産車デボネアに乗り込んで移動入浴サービスをしている、丸顔のエチゼン君と中年のモモヤマさんの2人が車を走らせているところから始まります。デボネアとは英語の意味のように、愛嬌(あいきょう)たっぷりの登場人物のことでしょうか。そのデボネアに正体不明のマリちゃんや暴力団の会長が加わり、同乗者が4人に増え、成り行きで津軽を目指すことになる設定です。彼らを世間のしがらみが追いかけてきます。
飄々(ひょうひょう)とした表情からは想像しにくい、それぞれ切迫した事情のある彼らが世間から逃げているようにも見えます。さまざまな人間が追いすがるようにしたり、障害物のように立ちはだかったりしながら現れ、走り続ける彼らとの駆け引きのスリルの妙と景色が変わる話の展開を追いかける楽しみに加え、いたるところでほのかに人の優しさを思い出させてくれます。
スピード感のある物語の面白さといそうでいない登場人物の設定が、文体などおかまいなしにグイグイと読者を引っ張っていく力強い小説に似ていて、引き込まれて読み続けてしまいます。広角レンズで景色を見ているような曲がりくねったラフな絵なのに人物の情感が豊かなのは不思議です。
発表の媒体が増えただけでなく、作家の経済的な支えとなる動画化やキャラクターの商品化が当たり前になったこともあって、多種多様になった漫画の広がりは、他のジャンルを凌駕(りょうが)する、時代の才能を集める魅力的な存在となっているようです。
=2009/11/22付 西日本新聞朝刊=
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