『新薩摩学 鹿児島県の近代文学・散文編』 古閑 章編 (南方新社・2100円)

『新薩摩学 鹿児島県の近代文学・散文編』 古閑 章編(南方新社・2100円)
ある日、駅の窓口にて。
「すいません、カワウチまで大人1枚」と私。
すかさず駅員さんが「ああ、センダイですね」。
「いえ、カワウチです」と私。
「かしこまりました」と、川内行きの切符を渡される。
九州新幹線川内駅まで切符を買ったのが数年前。仙台と川内が同じ読みとは知らなかった頃(ころ)の話。
駅員さんは慣れたもの。列車に乗って赤面したことを思い出す。
福岡に来てから、地元の作家については少しずつ勉強している。だが知らないことが多すぎて嘆息する日々。
九州全域となると、文学でなくても先程(さきほど)のようなありさま。そこには未知の世界が広がっている。
00県の近代文学。この手の本はたしかにある。本書に興味を持ったのは内容もさることながら、その大胆な姿勢。
「鹿児島出身であろうとなかろうと、縁故者が居ようといまいと、」「縁もゆかりもなかろうと、鹿児島を舞台にした作品を書いているのであればすべて鹿児島の文学の範疇(はんちゅう)に含めたい」と意気込んでいる。
こうした姿勢から既存の作家に関する新しい像が浮かんでくる。第一章では林芙美子が登場する。『放浪記』や『浮雲』を通して、本籍地鹿児島に対する「故郷」への相反した感情が見えてくる。
歴史小説で著名な海音寺潮五郎の出身も今回はじめて知った。小中学校時代に教科書で親しんだ向田邦子や椋鳩十も、あらためて鹿児島との深いつながりのなかで読む面白さを教わった。
鹿児島、姶良・伊佐、大隅、北薩、南薩、薩南諸島。それぞれの地区にゆかりの作家が12人。
順番に並べなおせば、林芙美子、海音寺潮五郎、平林彪吉、椋鳩十、古木鐡太郎、勝野ふじ子、梅崎春生、中村きい子、島尾敏雄、向田邦子、島比呂志、山尾三省。
文学史の知識で知っていたのは梅崎春生や島尾敏雄くらい。西南戦争や薩摩士族、星塚敬愛園等を視野に入れた「鹿児島」の作家たちについては初めての話が多い。
とはいえ、彼らの人柄と作品に触れたならば、「『文学不毛の地・鹿児島』とはほど遠い景観が立ち顕(あらわ)れ」るという言葉も理解できる。
新薩摩学と銘打つ叢書(そうしょ)の1冊。たしかに新鮮である。否、黒豚横丁(よこちょう)が通りの名前だと思っていた私には適切な鹿児島入門の書だった、と言い換えておこう。
=2010/01/10付 西日本新聞朝刊=
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