西日本新聞

『時間はなぜ取り戻せないのか』  橋元淳一郎著  (PHPサイエンス・ワールド新書・840円)

2011年01月17日 18:47
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『時間はなぜ取り戻せないのか』  橋元淳一郎著  (PHPサイエンス・ワールド新書・840円)
 ●時間は「生きる意思」で生きる 大道珠貴 作家
 
 いま、いちばん悩んでいるのは、時間のこと。死よりも興味がある。考えても考えても、いや、考えすぎるくらいでも、ますますわからない。その実態がつかめない。こうして、自分が「いま」と言った矢先から、その「いま」はもういまじゃなくなる。時計の円盤のなかの右回りの針。デジタルの数字。砂時計の流れ。陽が昇り、落ちる。潮の満ち引き。と思い浮かべても、ぴんとこない。現在がここで、過去はうしろ、未来が先。というような流れでもないだろうし。と書いているときも、時間は流れているようで、流れていない気もする。自分の時間だけ止まってるんじゃないか。他人と自分の時間は流れがちがうんじゃないか。う―。

 この御本にも、まえがきから、「じつは時間の流れを創(つく)っているのは、物理的時空ではなく、生きる意志である。あなた自身が、過去と未来を創り出すのである。」とあり、わたしもそうだと思っていたので、正解をなぞる気分で、読んでみた。で、科学は、やっぱり苦手だなあ、と思った。ちんぷんかんぷんよ。が、わからないことはわからないなりに放置しておけば、それでいいかもしれぬと自分を励ましてみた。

 で、やっぱり、自分の意思なのだ、なにもかも。世のなかの現象は、すべて、自分がここに在るから、生存しているからこそ起こり、自分がいなくなれば、この世もない。だから死もない。死んだときにはもう自分はいないんだから。時間は、どうか。それは自分にだけかんじられるもの。自分しかかんじられないものということは、自分に死はかんじられないのに、自分に時間はかんじられるということか。それこそ生きているということか。意思があるからこそ、時間がある、そうだそうだ、うん。

 何時にどこどこで待ち合わせね、と約束するとき、ひとそれぞれの幻想かもしれない時間なのに、そのひとの時間と自分の時間がぴったりし、待ち合わせ場所にそのひとが当たり前の顔をして現れることに、わたしはいつもちいさな感動を覚える。約束事と、人間同士の信頼。でも、それぞれの持つ時間を集めても、それは蓄積されない。集合にならない。ひとはひと、自分は自分の時間。特有の。と、このように、この御本をきっかけに、時間に追われているかたもちょっと立ち止まって考えてみたら、時間を忘れられるかもしれません。


=2010/01/17付 西日本新聞朝刊=

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