『シネマの子どもに誘われて』 名取弘文 著 (現代書館・2100円)

『シネマの子どもに誘われて』 名取弘文 著 (現代書館・2100円)
日々の雑用や仕事や金のやりくりに追われていると、優しさが足りなくなっていることに気づかぬままだったりするものです。子どもの頃(ころ)の新鮮な心をすっかり忘れているからなのかもしれません。
子どもを主人公にした映画から、子ども時代を振り返る懐かしさだけではなく、おとなになることで失ってしまった、周囲を純粋に見つめる視線を思い出したりするものです。私たちは、そんなきっかけでもないと、優しさを取り戻せないほど粗野な気分の中にいるのかもしれません。
映画は子どもたちをどのように取り上げ描いてきたのでしょうか。本著は子どもが主役の映画66本を、平易な文体で、批評というよりは粗筋紹介のようにし、次の14のテーマに分類してあります。
「戦前、戦後の子どもたち/ダンデンヌ兄弟監督のまなざし/学校に行きたい/花の高校生/なまいきざかり/ヌーベル・バーグの子どもたち/戦争にまきこまれる/先住民族の誇り/モンゴルの今/アパルトヘイトの子どもたち/兄弟姉妹/子どもたちの現在/監督の子どもの時代/いとしい子どもたち」です。
その中で紹介されている、戦前の映画「綴方(つづりかた)教室」は敗戦直後も影響力があって、団塊の世代のわれわれも、山本嘉次郎監督のこの映画を学校で見せられ、作文を書かされたものです。主役は14歳の高峰秀子が演じていたはずです。
この映画のもとになった本は、1930年代当時、葛飾小学校4年生だった豊田正子が書いた「綴方教室」だそうですが、その初期の印税が指導教員の懐に消えたということに、この著者は疑問を呈しています。彼は、あらゆる場面で疑問を投げかけ、子どもたちの世界の厳しさや優しさを掘り起こしてみせます。
映画批評というよりは、随所に教育論というのか、教育観や歴史観がちりばめられているのは、1945年、東京生まれの著者が、小学校でユニークな手段で家庭科を長年教えていたなど教職40年の経験があったり、子ども向けのラジオ番組「こども電話相談室」の回答者だったり、という経歴から当然なのでしょう。イタリアの新写実主義映画の「自転車泥棒」などを連想させる「サラーム・ボンベイ!(スラムに住む子どもたち)」や「家の鍵」も、彼の解説を読んでいるうちに映画を見たくなってくるのです。
=2010/02/21付 西日本新聞朝刊=
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