『キリシタン大名の考古学』 別府大学文化財研究所・九州考古学会・大分県考古学会編 (思文閣出版・3990円)

『キリシタン大名の考古学』 別府大学文化財研究所・九州考古学会・大分県考古学会編 (思文閣出版・3990円)
織田信長が鉄砲を使って天下統一への道を駆け上がったことはよく知られている。その象徴的な事件が、鉄砲三千挺(ちょう)をもちいて武田の精強軍団を打ち破った長篠(ながしの)の戦いである。
だがこれまで火薬や鉛玉をどうやって調達したかは、ほとんど分かっていなかった。火薬の原料である硝石は日本に産出しないし、鉛も国内産だけではまかなえない。
そのことはキリシタン大名だった大友宗麟(そうりん)が宣教師に硝石の輸入を独占させてくれるように申し入れていることや、駿府の徳川家康をたずねたイギリスの使節団が三千斤(約1トン)の鉛を献上している事実が物語っているが、戦国大名たちがどこからどんな方法で輸入していたかは謎のまま放置されていた。
本書におさめられている二つの論文、「南蛮交易と金属材料」と「大航海時代における東アジア世界と日本の鉛流通の意義」は、この問題に初めて本格的に取り組んだものだ。
著者は発掘されたキリシタン遺物や鉄砲玉の鉛の成分を、鉛同位対比(この数値は鉛鉱山によってちがっている)という方法をもちいて分析し、鉛の原産地を特定する研究に打ち込んできた。
この結果、鉄砲玉に使われた鉛の原産地が日本、朝鮮半島、中国の華北や華南であることが分かったが、もう一種類、どこか特定できない同位対比をもつ鉛があった。しかも戦国期の玉の原料は、この鉛が半数ちかい割合を占めていたのである。
著者はこの鉛をN領域と名付けて原産地の解明にあたってきたが、東南アジアから出土した青銅器などを分析したことをきっかけとして、タイ北部やラオスの山岳部で産出した鉛が、N領域と同じ同位対比をもつことを突き止めた。
この鉛はメコン川の水運をつかってアユタヤや、マレー半島中部の貿易港であるパタニにはこばれ、ポルトガル船や明国のジャンク船に積まれて日本までやって来たことが分かったのである。
著者はこうした方法を「分析歴史学」と名付けている。文献だけに頼ってきた従来の歴史学の欠点を、科学的方法を併用することによって克服しようとするものだ。
今後こうした分野がますます発展し、歴史の実像を明らかにしてくれることを期待したい。
=2010/02/28付 西日本新聞朝刊=
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