『天才バカボン幸福論。 夜のつぎは朝なのだ。』 バカ田大学しあわせ研究部編 (主婦の友社・1470円)

『天才バカボン幸福論。 夜のつぎは朝なのだ。』 バカ田大学しあわせ研究部編 (主婦の友社・1470円)
バカ田大学を首席で卒業。そのパパと結婚したママは、美人で聡明(そうめい)、良妻賢母。人に騙(だま)されてばかりでマイペース、弟思いの、バカボンというしあわせを絵に描いたような顔立ちの少年(どこかムーミンに似ている。あの世界もまた含蓄に富んでいて、ことあるごとにわたしは読み返してます)と、ハジメちゃんという超天才児を、この世に誕生させる。パパは、このママ一筋。ときどきパパを叱(しか)り、笑顔、感心もし、だれよりもやさしく受け入れ、パパの居場所となって存在している。
わたしはここに、酔夢のような、ほとんど幻である、はるか彼方(かなた)の理想の家族像を見る。男を女が支えるという典型的な意味づけをかんじとる。どうしてもわたしには、損得勘定に思えて、男女の関係ほど怪しいものはないと睨(にら)んでいるんだけど、バカボンのパパとママはほほえましく、またうらやましい。こんな家族、あるわけないと思いつつ、作者の赤塚不二夫さんだったら、こんなだったかも、まわりもきっとこんなだったかも、という期待が起こる。
バカボン一家のいる町は、住民も愉快。そしてけなげ。レレレのおじさんは、そのむかし25人も子供がいて、家の中で収拾のつかない子供たちをほうきで掃いてひとまとめにしてから、その癖がついた。目ン玉つながりのおまわりさんは、爽快(そうかい)なほど拳銃を撃ちまくるが、このひとこそ人間らしくって、すし屋で15年ぶりに食べたエビへのあまりの感動に、「このエビのシッポ、もらっていいですか? 本のあいだにはさんでおこうと思って…」と言う。せつない。
わたしはこの漫画を小学生のころに読み、テレビの放映も観(み)ていたし(初代がいちばん好き)、大人になってからもまた読み返し、知り合いの編集者からボールペンなどのバカボングッズをプレゼントされるくらいであるが、ここまで惹(ひ)かれるのは、内容がせつないからだ。いつかこの世からすべての人間がいなくなる。そのことがひしひしと伝わってくるのだ。役立たずであったり、はた迷惑であったり。すったもんだがありながら、まだ、この瞬間、この世は存続する。存続する限りは、日常がある。今日、おひさまはのぼり、目が覚めた。ふたたび眠るだろうし、その眠りがいずれ永久(とわ)となる。だからこそ、いま、まわりの人間との出会い、関(かか)わりに、奇跡的なものををかんじとるのだ。そこがせつないのだ。
=2010/03/14付 西日本新聞朝刊=
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