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九州歌謡地図

第6部・演歌巡礼<15完>記者ノート 社会の均質化に抗う歌声

 今年の年次企画「九州歌謡地図」シリーズの締めくくり連載となった第6部「演歌巡礼」。演歌歌手たちからほぼ共通して返ってきた答えがある。
 
 「南も北もたいして変わらない」
 
 「南と北って意外と似ている」
 
 前者と後者では微妙にニュアンスが異なる。前者は日本人の均質化を指摘しているし、後者は中央から南北に離れた「辺境」の類似性を見出そうとした発言である。具体的に発言をいくつか挙げてみよう。

 「北海道も耐えるっていう人が多いので、九州の女性と共通するところがあるのかなあ、と思ったりする」(松原のぶえ)

 「日本列島、結構あんまり変わらない。寂しい歌を南の人が歌ってもヒットしちゃうしね。北国の人が歌ったからといって明るい歌もあるしね」(八代亜紀)

 「北と南って不思議と合うんですよ。うちの師匠(北島三郎)、北海道出身だから行く機会多いんですが、人情というか温かみというかよく似ている」(北山たけし)

 全国津々浦々を旅公演している歌手の実感だけに、無視できない発言と感じた。ただ、こうした声を近代化で日本が均質化した証左とするのか、「辺境」の類似性と解釈するのかは、難しい。

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 6部にわたった「九州歌謡地図」シリーズを通じて感じたのは実のところ、中央からみたら「辺境」に位置する九州という地域のユニークさと、同時にそのユニークさが消滅しつつあること、の両方だった。

 第一部「愛しのご当地ソング」は、ユニークさの健在ぶりをみた。地域の人々の「思いの投影装置」であるご当地ソングを通じて、九州各地の地域色の豊かさを確認した。各地に根(音(ね)?)を下ろした人たちの熱情が読者にも伝わったのではないか。

 第2部「校歌をうたえば」は、近代国家に奉仕する国民を育てる近代教育システムの中で生まれ、「近代化の産物」ともいえる校歌にアプローチした。ここでは、教育目標を織り込んだ歌詞や「4分の4か4分の二拍子で長調」といった均質性を強いられながら、時に地域性がにじみ出てしまう校歌の中に、地域風土や気質のしぶとさを感じた。

 第3部「仕事唄の情景」では、逆に特色豊かな仕事唄が急速に消えていることを目の当たりにした。まだのんびりとした感じの一次産業のころの歌に比べ、二次産業の歌は哀調を帯びる。三次産業になると、仕事現場から歌は消えた。

 炭鉱が北海道や九州に多かったことからも分かるように、南北の「辺境」の人々が厳しい労働を強いられ、近代化を支えたことも再確認した。歌は彼らの癒やしであり、嘆きだった。

 第4部の「南島サウンド行」は、「本土」から見ればさらに「辺境」に位置付けられがちな沖縄の音楽を取り上げた。「体の一部」ともいえるような土地の歌がある彼らには「本土」にはない力強さがあった。リージョナリズム(地域主義)が、グローバルな普遍性を獲得していた。沖縄は「辺境」ではなかった。

 第5部「井上陽水の世界」では、「意味」や「解釈」から逃れ、地域性とはほぼ無縁のような陽水の歌世界が実は故郷である炭鉱町・筑豊に原点があることを本人の声を通じて浮き彫りにした。

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 そして、最終部の「演歌巡礼」である。演歌は近代に誕生した歴史の浅い歌だ。「古い」と感じるのは、急速に近代化していく中で「近代」から取り残された、あるいはなじめない人たちの感性をすくい取っているからかもしれない。同じ「近代」に登場し、戦後、急速に廃れた浪曲=浪花節に比べ、巧みに西洋音楽の要素などを取り込んではいるが、日本的義理人情の世界を内包している。

 日本の北と南の地域出身に演歌歌手が多いのは、そうした義理人情が通じる前近代的ともいえる濃い人間関係がこの両地域に強く残るからだろう。だからか、九州出身の石川さゆりが「津軽海峡・冬景色」を歌っても違和感がない。

 こうして振り返ると、この連載シリーズが描いたのは「歌謡」をキーワードに、「辺境=九州」の豊かな地域性と、中央集権的近代社会が強いる均質化のせめぎあいだったといえる。

 正直、均質化社会の側に押し切られつつある今日である。シリーズで紹介した歌の多くはそれに抗う声に聞こえた。その声は、近代化以降の社会を生きる私たち日本人が、これまでどちらかというと敬遠してきた声だった。確かに「近代」のものさしで聞くと、なかなか好きにはなれないかもしれない。しかし、私たちは高度に発達した社会の恩恵を受けながらも、それを全肯定はできないことも既に知っている。消えつつある声に耳をすます必要が、まだあるのではないか。

 =敬称略
 (内門博)

 *年次企画「九州歌謡地図」は今回で終了します。


・第1部「愛しのご当地ソング」1月1日−2月7日
・第2部「校歌をうたえば」4月3日−5月2日
・第3部「仕事唄の情景」7月31日−8月26日
・第4部「南島サウンド行」10月9日−11月3日 
・第5部「井上陽水の世界」11月11日−12月8日
・第6部「演歌巡礼」12月12日−12月30日
*第1部は単行本として書肆侃侃房(福岡市)から出版された。

=2006/12/30付 西日本新聞朝刊=

2006年12月30日15時54分



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