今から36年前

 今から36年前、フィルムの入れ方、ピントの合わせ方など、カメラの操作を覚え始めたころに見た写真展。作品の数々は、ごく自然な瞬間をとらえていて、心へとストレートに迫ってきた。

 中でも1枚の写真が重い現実を訴えていた。生まれながらに水俣病のわが子を湯船に浸す母親。その作品は神々しく、胸を離れない。写真家ユージン・スミスは、中学生だった私のあこがれになった。

 後で知ったことだが、彼が17歳のとき、父親が事業に失敗し自殺。父の死を巡ってゆがめられた報道に彼は傷ついたという。それゆえ、彼は取材に際し、時間をかけて対象に寄り添い、信頼関係を築いていた。優しいカメラアイはここから生まれていた。

 今年は彼の生誕100年。その節目は現場に出ることが少なくなった私に、写真への向き合い方を思い出させてくれるきっかけになった。一枚一枚に懸ける思いは、忘れずにいたい。 (菊地俊哉)

=2018/02/03付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]