▲値上げ,生活

揺らぐ銭湯王国 施設数330 九州最多の鹿児島県 厳しい経営 入浴料30円上げ 高齢者施設とも競合

 鹿児島県は10月、県内の公衆浴場入浴料の上限を30円引き上げて390円にした。値上げは6年ぶりで、鹿児島市内の銭湯はほとんどが上限額に引き上げた。背景にあるのは、高齢者福祉施設との競合などで厳しさを増す経営環境。施設数が全国で5番目、九州で最多の330に上り、その多くが温泉という「銭湯王国」が揺らいでいる。

 公衆浴場の入浴料は、戦後の混乱期にできた「物価統制令」が現在も適用され、上限額は県が決める。県は今回、12歳未満も上限を10円値上げして150円にした。6歳未満は80円に据え置いた。

 県によると、値上げは業界側の要望という。県の2010年度の調査では、1施設当たり平均で月16万7152円の赤字と推定され、赤字額は前回値上げ前と比べ約4万円増加した。施設数は01年から15軒減った。

 「芋を洗うようなにぎわいだった」。鹿児島市西千石町で「霧島温泉」を経営する田中秀文さん(77)は懐かしむ。創業は大正時代で、空襲で焼けた後、田中さんの父親が1950年に再建した。田中さんが継いだ昭和30年代は、1日の客は600人に達した。

 現在の客は1日約130人。減少の要因は家庭風呂の普及に加え、鹿児島市が96年から7カ所整備し、65歳以上は無料で入浴できる市高齢者福祉センターの影響が大きいという。「最も風呂好きの客層が奪われた」と田中さんは話す。現在、田中さんは妻と従業員2人で切り盛りする。営業時間は午前6時~午後10時半で「人手は減らせない。修繕の回数を少なくするしかない」と語った。

 銭湯側も手をこまねいているわけではない。県公衆浴場業生活衛生同業組合は今年、幼稚園児を銭湯に招くイベントを初めて催した。幼いころから公衆浴場に親しんでもらおうという試みだ。

 組合によると、値上げによる客離れは今のところないという。霧島温泉を週2回は利用する鹿児島市船津町の主婦辻秀子さん(61)は「経営者は頑張ってほしい。少々の値上げはやむを得ない」と理解を示す。組合専務理事で、鹿児島市易居町で「かごっま温泉」を営む原田孝造さん(62)は「今が正念場。全国に誇る銭湯文化を衰退させる訳にいかない」と声に力を込めた。


=2012/10/11付 西日本新聞朝刊=

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