広辞苑に登場、左党のオアシス 「角打ち」はしご酒で満喫 [福岡県]

最初に訪れた家庭的な雰囲気の魚住酒店
最初に訪れた家庭的な雰囲気の魚住酒店
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お店の人との会話も角打ちの楽しみの一つだ(2軒目の有次酒店で)
お店の人との会話も角打ちの楽しみの一つだ(2軒目の有次酒店で)
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井手商店で開かれた北九州角打ち文化研究会の13周年を祝うイベント
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 角打ち-。北九州市民にとってなじみ深い言葉が今年、10年ぶりに改訂された広辞苑(岩波書店)にお目見えした。「酒を枡(ます)で飲むこと。また、酒屋で買った酒をその店内で飲むこと」。四角い容器の枡に注いだ酒を飲むことが語源とされ、酒店の店先で立ち飲みするスタイルは、日本の四大工業地帯の一つで、労働者の街でもあった北九州市では日常の光景だが、かつては全国区ではなかった。それが、ついに…。新たな広辞苑が店頭に並んで程なく、角打ち愛好家でつくる「北九州角打ち文化研究会(角文研)」が開いた「角打ちラリー」に参加、その魅力を堪能した。

 1月27日、ラリーは数人ずつ8班に分かれて、北九州市内や山口県下関市の酒店を回った。JR門司港駅近くの魚住酒店(北九州市門司区清滝)は、私の班の8人が入るといっぱいに。土曜日とはいえ時刻はまだ午後2時半すぎ。L字形のカウンターに並び、まずはビールで乾杯。冷蔵庫から瓶ビールを自分たちで取り出してジョッキにつぐ。日本酒へ進むと、枡に入ったコップへなみなみとついでくれた。

 そろそろと口を付けていると、一緒に参加した角文研の滝川善博さん(69)が「諸説ある角打ちの語源の一つが、枡の角から飲むからというものなんですよ」と教えてくれた。

 この間、おつまみに湯豆腐、枝豆、いりこ、水菜と鶏肉のサラダが出た。これで締めて1人当たり500円。店主の魚住哲司さん(55)は「つまみはあくまでうちの台所から出す『お裾分け』なんです」。それにしても、あまりの安さに驚いてしまった。

 次に門司港駅から普通列車に乗り、門司駅で下車、有次酒店(同区柳町)に河岸を変えた。1923(大正12)年から続く老舗は地元の人たちでにぎわっていた。滝川さんが「角打ち店は酒屋さんなので早く開けて早く閉めるところが多いんです」と耳打ち。

 同店も午前8時開店。かつては、旧国鉄職員や工場などの労働者たちが夜勤明けの癒やしを求め、朝からにぎわったという。今でも退職したお年寄りたちが朝から集まる。

 ここでは焼酎を一杯飲み干すと、30分程度で店を後にした。滝川さんによると角打ちは長居しないのが基本。あくまで酒店での一杯飲みが作法という。

 続いて訪れた下関市の北市屋酒店では、新潟県から観光で来たという30代の男性が話し掛けてきた。角打ちは初体験という。「人が温かい」と男性。ラリーに参加した宗像市の山下美穂さん(33)も「女性一人で入るのは勇気がいると思ったけど、隣のお客さんが気軽に話し掛けてくれた」とうなずいた。

 締めは、北九州市小倉北区浅野の井手商店。角文研の設立13周年を祝うイベントが開かれていた。約70人が集まり盛況で、見知らぬ人たちが肩を並べて飲む。すっかり打ち解けて店内には笑い声が響いていた。

 北九州市内で角打ちができる店は100軒を軽く超える。角文研の会員は現在約300人で、増え続けているという。金成子事務局長(54)は「北九州に根付く角打ち文化が世界にまで広がってほしい」と話していた。

=2018/02/10付 西日本新聞朝刊=

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