西日本新聞

社説

【2009/08/04付】裁判員裁判 「体験」を共有するために

2009年08月14日 15:22
 裁判員制度が適用された初めての裁判が3日、東京地裁でスタートした。

 法律に素人の国民がどこまで公正な審判を下せるのか。結局は裁判官の判断に引きずられてしまうのではないか-。

 いまなお制度そのものに懸念や賛否が渦巻く中で、とにもかくにも司法の歴史的改革が動きだした。制度の狙いとされる「司法への信頼の向上」が実現するのか。裁判員会見などを通じて経験者が体験を語り、制度に対する国民の理解と認識が深まっていくことが重要だ。

 ことし2月、全国の新聞・放送各社などで組織する日本新聞協会は「裁判員となるみなさんへ」と題する呼びかけの文書を発表した。裁判員となった人たちに裁判終了後、積極的に記者会見に応じてほしいというお願いだ。文書は「裁判員経験者が、その職務を果たして感じたこと、考えたことを率直に語り、社会全体で情報を共有することは『国民の司法参加』という制度導入の理念を定着させる上で極めて重要です」と訴えている。

 裁判員には、法律で厳しい守秘義務が課せられる。裁判官と裁判員が量刑について話し合う「評議」の内容や、審理の過程で裁判員が「職務上知り得た秘密」などについては明かせない決まりだ。

 これに違反すれば罰則も適用されるが、裁判員を務めた感想などについては語ることができる。ただ、「守秘義務」との間の明確な線引きが難しい場面も出てこよう。そこは実際の会見を通して試行錯誤を重ねていくしかあるまい。

 初めてのことなので、裁判員候補者には、不安や負担感を訴える人が少なくない。死刑を含む量刑の判断を下すことへの戸惑いや、むごたらしい証拠の数々を見せられることへの重圧感などだ。

 実際、公判を体験し、評議に加わってみて、不安や懸念は払拭(ふっしょく)されたのか。あるいは、逆に増大したのか。裁判員たちの生々しい体験談こそが、これから候補になる人たちにとって、何よりの参考と判断材料になるはずである。

 裁判員制度については、いまも市民団体などから「審理期間が短く、冤罪(えんざい)を生み出しかねない」「裁判員に出頭義務や守秘義務などの苦役を強制している」など、批判や抗議の声が続いている。

 一方で、従来の「お上任せ」の裁判から脱却し、「市民が参加することで、より公正で民主的な裁判が実現できる」と積極的に評価する声もある。

 いずれにせよ、この制度にはまだまだ課題も多く、成熟し定着していくには長い時間が必要だろう。裁判員法には、施行後3年を経過したら、制度の見直しを行うという条文がある。見直しのためにも、裁判員経験者が体験を語り合い、市民の目で制度の問題点を厳しくチェックし点検していくことが欠かせない。

 今回、東京地裁の初の公判で、どんな裁判員会見が実現するのか。6日に予定される判決後の対応を注視したい。


=2009/08/04付 西日本新聞朝刊=
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