西日本新聞

新しいまちづくりのススメ 津屋崎日記

<39>幸せの家 17年ぶりに笑顔咲く

2012年02月20日 14:36
 福津市宮司にある小さな平屋の家。17年間、誰も住んでいなかったこの家で、新生活に向けた庭木の手入れが始まった。入居するのは地元出身のフォトグラファー広渡好さん(32)。ここに至るまで、いろんな出来事があった。

木を切り出す。こんな作業は1人ではできない
木を切り出す。こんな作業は1人ではできない
 家の持ち主は松下差尾里さん(41)。現在はご主人の生まれ故郷、北海道富良野市で暮らしている。もう福岡へ戻る予定はないが、家を手放すことは考えられなかった。

 家を購入したのは松下さんの祖父。母の栄子さんはここで生まれ育った。結
婚して大阪市で暮らすようになってからも、栄子さんは差尾里さんを連れてよく遊びに来ていた。母の思い出が詰まった家、幼少の頃から慣れ親しんだ家をどうしたら守れるだろうか。思案する中で、津屋崎ブランチが空き家の活用に取り組んでいることを知り、僕らのところに連絡を寄せてくれた。

 昨年、北海道からわざわざご夫婦でお見えになったときに、家の中を見せてもらった。庭木が随分と生い茂っていたが、小さいながらも風情のあるたたずまいだった。

 このような空き家は、大家さんが改築して入居者を募ることが多いが、17年も空き家だったので改築には大変な費用がかかる。そこで、松下さんに負担をかけないように、手入れをせずに希望者に貸し、自由に改修してもらうことにした。最近は自分の手で改修をする若い人が少なくない。きっと良い人が見つかるだろうと思った。

広渡さんの呼び掛けに集まった「助っ人」たち
広渡さんの呼び掛けに集まった「助っ人」たち
 そこに現れたのが、広渡さんだった。昨夏の津屋崎納涼映画祭でお世話になった人である。現在は両親と同居しているが、海が近いこの家を自宅兼アトリエにすることにした。

 彼は、人と一緒にモノを作り上げることの楽しさを知っている。かつては、別府のあけぼの荘という古い民家の改築を手伝ったことがある。今度の家も仲間と楽しみながら、少しずつ改修しようと考えた。手伝ってくれる人を募集をしたところ、10人近い若者が手を挙げた。

 「集まった仲間たちが、ああしよう、こうしようとどんどん責任を持ってやってくれる。僕の役割はご飯を作って、ありがとうと言うことです」。古い家の改修をワイワイと楽しめる機会など、めったにない。

 「お金はそんなにないけれど、時間は結構ある。だから、こういう楽しみ方ができるのかな」。広渡さんの言葉の通り、時間の無さをお金で解決する人は多いが、そうすれば、仲間と一緒に作る楽しみは奪われることになる。

 こんな様子を松下さんに伝えると、とても明るい声が返ってきた。「人の輪がつながってうれしい。これからどうなっていくかを一緒に楽しみたい」

 家の持ち主も借り主も、そして携わる仲間たちも、みんなが幸せになる家。新しいストーリーがまた一つ生まれようとしている。

(NPO法人地域交流センター津屋崎ブランチ代表・山口 覚)



=2012/02/20付 西日本新聞朝刊=

 ▼山口 覚=やまぐち・さとる 北九州市出身。大学卒業後、大手ゼネコンの鹿島に就職して東京へ。建設省(当時)所管の財団に出向したときに過疎地域の現実を知る。2002年に鹿島を退職し、NPO法人地域交流センター理事。5年前に九州へUターン。1級建築士。1969年生まれ。

 ◆NPO法人地域交流センター津屋崎ブランチ=http://1000gen.com/

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