【産業医が診る働き方改革】<2>メリハリで健康回復

写真を見る

 永井務さん(43)=仮名=は熟練した設計技術者です。会社は販路拡大中で業務量が増えていますが、社員数は増やさずに対応するようです。このため、退社は午後10時台になることが多く、休日出勤や出張もざらです。

 健康診断の結果、肥満、高血圧、LDLコレステロール高値、糖尿病の疑いがありました。保健指導で減量を勧められ、病院の紹介状もありますが、「今は忙しくて、病院に行く暇はない」と言います。

 ここで、産業医が関われば、いかに立ち回るのでしょう。経営陣に対して発言力がある産業医は、二つのメッセージを伝えることになります。

 まずは、働く人々の健康に関する会社の管理責任を指摘します。日本では、会社が健康診断の結果を保存して、それぞれの健康状態に合わせて就業上の配慮をする義務を負っています。

 つまり、永井さんが高血圧や糖尿病などを患い、心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクが高い事実を、会社は把握していることになります。このまま長時間労働を続けて、万が一心臓や脳の病気が生じれば「労災」と判断され、安全配慮義務を怠った責任で訴えられかねません。社員の健康管理の失敗は、経営リスクにつながるのです。

 もう1点、労働時間が長くなるほど、生産効率が下がり、ミスや事故が増える現実を指摘します。長時間労働が常態化すると、家族や友人と過ごす機会、人とのコミュニケーションが減る上、睡眠不足も加わり、職場に意欲低下やうつ状態が広がることもあります。

 永井さんの場合、(1)部下の文書点検という職務を他職場で分担(2)会議を減らす(3)職務の範囲や優先順位を明確化(4)原則、午後6時までに退社-などの対策で、仕事にメリハリをつけさせました。

 経営トップも「労働時間の短縮はやればできる」と実感し、計画的な年休取得や管理職の教育が実践されるようになりました。

 治療を始められた永井さんは、歩く習慣ができて体重も減り、血圧も安定。どうやら働く人も職場も健康を回復できたようです。

 (堀江正知=産業医大教授)

=2018/01/22付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]