【産業医が診る働き方改革】<8>残業減、号令だけでは…

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 長時間労働が社会問題となるに伴って、労働時間の短縮に取り組む企業も増えてきました。しかし、トップがただ号令を掛けるだけでは、多くの場合うまくいきません。

 ある食品卸売業では、東京の本社から全支店に対して、残業時間の削減を徹底し、2カ月以内に「午後7時には全員退社」を達成するよう指令が出ました。ところが、福岡県の支店では、取引先の都合で午後3時ごろから業務が忙しくなります。業務終了はどうしても午後8時前後になってしまいます。

 支店長は1カ月前に異動してきたばかり。支店全体の業務の流れや部署ごとの仕事内容の特徴などをようやく把握できてきたところでした。本社の指示に従うべく、とりあえず勤務シフトを見直すことにしましたが、何から着手すればよいのか、自信を持てません。周囲に相談した上で指示を出そうとしましたが、なかなか先に進みません。

 支店長と支店に長く在籍している従業員との間には、感情の溝ができてしまい、不満の声が高まっていました。不満を聞いた産業医が支店長に声を掛けると、支店長は苦しい胸の内を明かしました。

 そこで、産業医は残業時間の制限は順守する条件で、「午後7時に全員退社」の達成を半年ほど先送りすることを本社の人事本部に申し入れるよう提案しました。「ストレス対策の面からも望ましい」と口添えもしました。

 全社的な決定について、一部の職場だけ特別扱いさせるのはむろん容易なことではありません。しかし、この支店は取引先の特殊性から、営業の方法が他の支店とは異なっており、その事情も社内に理解されていました。産業医の口添えも効いて、特例が認められました。

 実は、産業医は支店の書類作成手続きや業務手順があまりにきっちりと決まりすぎていて、社員の裁量権が少ないことが気になっていました。同時に、こうした点を見直すよう提案しました。残業削減には号令だけでなく、各職場の実態に即した業務の見直しなども不可欠です。

 (廣尚典=産業医大教授)

=2018/03/19付 西日本新聞朝刊=

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