【産業医が診る働き方改革】<9>隠れた病を早期発見

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 10年以上前ですが、新幹線の運転士が居眠りして停車駅を通過してしまったというニュースを覚えていますか。運転士が、睡眠時に断続的に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」だったことをきっかけに、この疾患名が一般に知られるようになりました。

 睡眠の質が下がり、列車の運転中に激しい眠気に襲われると、重大事故につながりかねません。首都圏の鉄道会社で産業医を務めるB先生は対策に注力しました。まず2万人を超える従業員に啓発ビデオを見てもらいました。その上で「日中に眠気があるか」「就寝中にいびきをかくか」などのアンケートを実施。SASが疑われる従業員には専門医の受診を促しました。

 もっと正確にSASの病態に迫り、早期発見する方法はないだろうか-。B先生は、大学の先輩である私に相談してきました。話し合ううち、従業員が自宅で就寝中、血中酸素濃度を簡便に測定できる装置(ホームパルスオキシメーター)を導入してみるというアイデアが出てきました。就寝中に血中酸素濃度が低下していれば、きちんと呼吸できていない恐れがあります。

 早速、B先生は会社の事務方と交渉し、健康推進センターに10台を購入しました。アンケートに加え、就寝中の血中酸素濃度の測定で、SASを見つけ出す精度が格段に向上しました。

 さらに、体重や血圧などの膨大な健康診断データと、ホームパルスオキシメーターで新たに得られたデータからさまざまな解析に取り組みました。この結果、肥満や高血圧の人はSASのリスクが高く、日中の眠気を自覚していなくても、検査を受けることが望ましいと分かりました。

 治療としては、就寝中にマスクを着けて空気を送り、気道を広げて呼吸を促す「CPAP(シーパップ)」という装置を使う方法があります。積極的に検査と治療を促したことで、日中ぼんやりしてしまうと悩んでいた従業員から「眠気が改善し、仕事の効率が上がった」という声も聞こえてきたそうです。従業員の健康はもちろん、安全も守られたのです。

(上田陽一=産業医大教授)

=2018/03/26付 西日本新聞朝刊=

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