
日本高野連は30日、甲子園球場で8月7日開幕する第92回全国高校野球選手権大会の始球式を、家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」に苦しんだ宮崎県高鍋町の県立高鍋農高野球部主将、田村栄二君(17)=3年、二塁手=が務めると発表した。同県内では約30万頭の牛と豚が殺処分され、同高でも5月下旬、実習で育てていた牛と豚が処分された。「畜産農家や学校のみんなの思いを胸に刻んで投げる。精いっぱいの球でストライクを取りたい」。復興への決意を全国に示す1球になる。
同高では畜産科の生徒が実習農場で黒毛和牛や乳牛、豚計334頭を飼育していた。しかし、感染疑いの牛が出て全頭殺処分。野球場横のトウモロコシ畑に埋められた。
野球部員33人のうち12人が畜産科。田村君は園芸科だが、殺処分の直後はチームが沈んでいるのが分かった。「全力プレーを見せて、農家に元気になってもらおう」。練習で仲間を励ました。
感染拡大を防ぐため、開会式なしで始まった宮崎大会。その初日の16日、初戦となる小林高戦で、無観客試合の異様な雰囲気の中、ナインは奮闘した。だが、対外試合自粛の影響もあってか、プレーの歯車は微妙に狂ったまま。1-6で短い夏は終わった。
そこに舞い込んだ始球式の話。塩月嘉仁(よしひと)監督が3年生13人を集めて伝えると拍手が起きた。「こんな大役、自分でいいのかな」。戸惑ったが、畜産科3年で、実家の牛も処分された中堅手松浦文也君(17)も喜んでくれた。「卒業したら、おれも畜産を頑張るよ」。その決意に背を押された。
甲子園には、試験の関係で3年生は同行できない。「おれたちの分まで思い切り投げてこい」。悲しみを乗り越えた仲間の思い、将来への決意…。選手としてではないけれど、夢の舞台の1球にすべてを込める。
=2010/07/31付 西日本新聞朝刊=