
そこは「行き止まりの歩道橋」と呼ばれていたそうだ。歩道とは名ばかりで階段が付いているのは片側だけ。いったん上ってしまうと袋小路で逃げ場はない。今では両側に階段がある普通の陸橋だが、これも軍政時代に「デモ分子」などを取り締まる一策だったのだろう。
最大都市ヤンゴンの中心部スーレーパゴダ通りに掛かる歩道橋。2007年。ここから撮影された映像が世界に衝撃を与えた。反政府デモを取材中の日本の映像ジャーナリスト長井健司さん=当時(50)=が、国軍兵士に射殺されたのである。
それから4年余。現場に事件の記憶はない。
付近には露店が並び、早朝から人や車がひっきりなしに行き交う。倒れた場所に立っても、目印一つあるわけではない。その代わり、「ちょっと前までは辺りで目を光らせていた」という公安関係者の気配を感じることも、「とても危険な行為だった」という現場の撮影を誰にとがめられることもなかった。
「昨年、旅行中の日本人女性が殺害された事件は大きく報じられたけど…。長井さんのことは、いま話をするまで忘れていました」とヤンゴンの女性。「忘れてしまってごめんなさい」の言葉が胸に響いた。
=2012/01/28付 西日本新聞朝刊=