2009年11月27日

【ふくおかマルシェ連載】マチとムラ 心をつなぐ<5完>初音漬本舗(長崎県平戸市) 母の味 漬け込んで

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 ■マルシェ・ジャポン フクオカ■

 「このカブはよかね。包丁がスッと入るよ」

 取材に訪れた日、自宅裏の作業場で「初音漬本舗」を切り盛りする坂本初音さん(64)=長崎県平戸市=は、カブの皮をむきながら笑顔を見せた。瓶詰めのラッキョウや梅干しが所狭しと並ぶ。野菜はすべて市内の知的障害者支援施設「たんぽぽの里」で栽培されたもの。「今日は6品作るよ。早う漬けんと明日のマルシェに間に合わんよ」

 坂本さんが漬物を販売するようになったのは母フサさんの影響だ。12歳のときに病気で視力を失ったフサさんだが、料理には鋭い感覚を持っていたという。「特に得意だったのが漬物。手に触れた感覚で漬かり具合が分かっていた」

 1986年に店を構え、軌道に乗り始めたころ、93年にフサさんが倒れた。看護で漬け込み作業ができず、仕入れたまま、しなびた白菜や大根の山を前に涙した日が何度もあった。悩んだ末に店を休業。2003年にフサさんは亡くなった。「亡き母の漬物をよみがえらせたい」。心を奮い立たせ、店を再開させた。

 今回、マルシェへの参加を決めたのは「平戸の野菜と母の味を知ってほしい」から。出店する日は朝4時に起きて、商品を車に積み込み、1人で運転して福岡市へと向かう。帰宅は夜10時を過ぎる。売り上げは決して多くないのに、マルシェに通う理由は「励みをくれる」からだという。

 ある日、会場で20代の母親と2歳の娘が店に来た。女の子に試食のラッキョウを勧めると、母親が申し訳なさそうに「この子は野菜嫌いなんです」。その時、女の子はつまようじの先のラッキョウをパクッと口に入れ、大声で言った。「もう一つちょうだい」

 「母のラッキョウを食べたとき、おいしくて私も同じことを言った」と坂本さんは懐かしむ。

 「私の漬物にも子どもを喜ばせる力がある。お客さんの声が生産者にはなによりのご褒美」と顔をほころばせた。

 (情報開発室・大田精一郎)

 =おわり

【写真】「このカブはよかね」。いい漬物の材料に出合い、思わず笑みがこぼれる坂本初音さん

=2009/11/27付 西日本新聞朝刊=

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 ▼青空市場「ふくおかマルシェ」 来年3月28日まで随時開催。福岡市東区のアイランドシティ中央公園と、同市中央区の市役所ふれあい広場。西日本新聞社主催。初音漬本舗=0950(22)4567。開催日時など問い合わせは、マルシェ事務局=092(711)5492。

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