2010年5月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<3>建築材

出雲大社の本殿は、おおむね杉で造られている

ピンも杉、キリも杉

 「杉の床板は軟らかいし足触りがよくて、素足が気持ちいいですね。梅雨時期は、洗濯物を軒下に干すより、室内のほうが乾くんですよ。杉の調湿効果ってホントにすごいですね」

 先日、大学を退官され、私の住む隣町に移住した方にこんな言葉をいただきました。耳納(みのう)連山を背に、柿畑に囲まれたその家はとても開放的で、内部空間の床、壁、天井すべてを杉が覆っていました。

 木の住まいの快適さ。その話に気を良くして相づちを打っていると、遠慮がちにこんな一言が。
 「木にはヒノキとか、もっと良いものがあるのでしょうが、私の場合は予算も限られていたものですから杉にしました。設計者も杉で十分だと言いますし…」

 私は杉を積極的に使う家づくりを提案しています。それは、あくまで用途に合う素材を検討した結果であって、単に安価だからとお勧めしているのではありません。それでも、「なぜ、杉なんですか?」という質問をよく受けます。どうしてヒノキやマツ、ケヤキなどではなく、杉なのか、ということなのでしょう。

 お話ししたいことは山ほどあります。このテーマで1冊の本が書けるくらい。でもここで、最低限お伝えしたいのは、現在の杉の価格が、価値に対して低いということ。価値は使われることで生まれます。古来、杉ほど幅広く用いられた木材はありませんでした。

 「適材適所」は木の使い方が語源だといわれます。有名なのは日本書紀。ヒノキは宮殿に、杉・クスは船に、マキは棺に使うようスサノオノミコトが説いており、それは今も正しいとされます。では杉は建物に使えないのでしょうか。

 伝統建築を見に行けばわかります。伊勢神宮は総ヒノキ造りですが、日本で最も大きな出雲大社の本殿はおおむね杉造りです。また、法隆寺の昭和大修理に携わった西岡常一棟梁(とうりょう)は、その著書「法隆寺を支えた木」の中で、1300年を支えるにはヒノキ以外にないとしながらも、建築材としてヒノキの次に長持ちするのは杉の赤身で700―800年だと語っています(ちなみにマツとケヤキは300―400年)。

 ここで少しだけ価格の話を。私たち木材業者は市場で丸太を仕入れます。そこにはさまざまな樹種の木が売られていますが、最も安価なのが杉ならば、最も高価なのも杉であることが多い。ピンも杉ならキリも杉なのです。それだけ杉には幅広い用途があるのです。

 あまり知られていませんが、杉は真の価値を持つ優れた素材です。そして現代は、杉が豊富で安価であるという歴史上極めてまれな時代なのです。家を建てようという方、増改築をお考えの方は、ぜひ、覚えておいてください。
(福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

=2009/12/06付 西日本新聞朝刊=

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