2010年5月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<6>材齢

棟上げされた一心寺本堂。何年もつかは人次第

樹齢以上に長持ち

 「この木にいくら値をつけますか?」

 熊本県小国町の山あいにある小さな神社。樹齢400年もの杉の大木が十数本、屋根にブルーシートがかかった社殿を囲むようにそびえていました。

 「社殿の改修ですね。費用はどれくらいですか」。市場の方に尋ねました。

 「1千万円ほど…」

 「何本伐(き)る予定ですか」

 「良い木から最低でも3本は…」。1本当たり330万円! 住宅用建築材を主に扱う私には縁のない単価です。

 「ツキ板業者にしか買えませんね」。何ともやるせない気持ちになりました。

 銘木を薄くスライスしたツキ板は、合板などに張って使われます。厚みは薄いもので0・2ミリほど。

 確かにツキ板に使われなければ3本どころかすべて伐られかねないし、改修費用のための植樹・伐採はどこでもあること。でも、その一方で手を合わせたくなるような無傷の老木が伐られてしまうのです。

 木材の老化研究の第一人者である小原二郎・千葉大学名誉教授はその著書「法隆寺を支えた木」の中で、「針葉樹は伐採後200―300年の間、強度が2―3割上昇し、その後ゆるやかに劣化する」と述べています。

 広葉樹に比べ、木材の硬化を促すリグニンの含有量が多い針葉樹ならではの現象ですが、これにより400年生の杉は、使い方次第で700―800年使えるようになるのです。

 ツキ板合板は和室の天井板をはじめ、多く使われていますが、現代住宅の平均寿命は約26年。つまり、樹齢400年の木が、数十年でゴミとなるわけです。本来なら、木は建物に使われることで、樹齢以上の材齢を重ねられるのに、なんともったいないことか。何もできない自分の非力さを悔やむ体験でした。

 先月、福岡県志免町に移転新築される一心寺本堂の上棟式がありました。設計は、吉野ケ里の復元工事などにも携わられた古建築に造詣の深い建築家・河上信行氏。樹齢100年以上の緻密(ちみつ)な年輪をした杉の赤身材をそろえて納材した私は、本堂を眺めながら河上氏に尋ねました。

 「この建物はどのくらいもちますか」

 「100年後くらいに屋根の修理が必要となるでしょうが、愛着を持ってメンテナンスしてゆけば、数百年でも大丈夫。むしろ、木より基礎のコンクリートの寿命が問題でしょうね」

 一般に、無機質な材料は完成時がピークですが、木はまるで人間のようにいったん強度が増したあと、徐々に弱くなる。うなずく私に河上氏が言いました。

 「でも忘れてならないのは、まだ使えるのに社会的な理由で壊される建物がほとんどだということ。要は使う人の愛情次第なのです」
(福岡県朝倉市「杉岡製材」専務)

=2009/12/27付 西日本新聞朝刊=

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